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347 さらなる悲劇

 悲鳴の方へと駆けつけるとそこは地獄だった。


「なん、だよ……これ……」


 村を襲うのは数匹のゴブリンもどき。


「た、助け――!?」


 悲鳴はあの女性の物だったのだろうか?

 髪を掴まれた女性は俺達に気が付き手を伸ばして来た。

 だが、彼女の願いは聞き入れてあげる事は出来なかった。


「ひっ!?」


 ゴブリンはその小さな身体で女性の身体を持ち上げると笑いながら岩へと向かって投げつける。

 人とは到底思えない声をあげた女性を指差しケラケラ笑う姿は魔物と言うより悪魔だ。


「外に出てたのが残ってたみたいだね」

「そ、そんな……」


 魔物達が復讐に来たというのだろうか?

 いや、そうは見えない。

 魔物達はただただ楽しそうに笑っている。

 それこそあの魔物の元。

 ただの子供の様に無邪気に笑っているのだ……。


 そう、これはきっとただ単に楽しいからやっている事だ。

 あの魔族を倒し、巣が無くなったことでタガが外れたのかもしれない。

 俺はそう思うと自分がしでかしたことを後悔した。

 もし、あの時ちゃんと魔物を倒していれば……。


 いや、今言っても仕方がない。

 今はやらなきゃいけない事がある。


「トゥスさん、ファリス!!」


 二人の名を呼び俺は叫ぶ――。


「奴らを倒すぞ!! ライムはクリエとチェルを……お前達は村を消火させろ!!」


 このままでは俺達も焼け死んでしまう。

 だが、幸いなことにこっちにはスライムが4匹。

 頼りになるライムに仲間を守らせるとしてもまだ3匹残っている。

 これで村を消火することは可能だ。

 だが、問題は――。


「あの魔物が何匹居る?」


 俺達が知らない内に外に出ている可能性だってあった。

 なのに俺はそれを予想していなかった。


 簡単に考えられたはずなのにだ……。


「キューラ! 考えてる場合かい!?」

「そうだな、討つぞ!!」


 俺はそう叫び拳を握るとファリスとトゥスさんもそれぞれ武器を手に取った。

 今度は狭い洞窟ではなく広い場所だ。

 存分に戦える。

 

 事実ファリスはトゥスさんも戦いやすそうだった。

 だが、俺は違う。

 いくら洞窟の中で戦って殺したと言っても……。


 こいつらの正体はただの子供だ。

 罪悪感はあるし、割り切れと言って割り切れるものではない。

 かと言って……。


「このまま、見過ごせる物でもない」


 俺はそう言うと拳を握る手に力を籠める。

 あいつらはもう人を殺めた。

 それも、ただただ楽しいと思ってやっている事だ……。

 割り切れなくても良い、だけど仕方が無いと言い聞かせるしかない。

 俺はそう思いつつ、拳を振るった。


『ゲギャァァァアアアア!!』


 自分達が襲われるという事は全く考えていなかったのだろう魔物は悲鳴を上げ、吹き飛んでいく。

 だが、その感触がもろに感じる羽目になった俺は正直嫌な気分になった。

 しかし――。


「やっぱり狭い洞窟じゃなきゃそこまで脅威ではない、か……でも、二人共!! 油断だけはするな!!」


 俺は仲間にそう伝えると迫って来ていたもう一匹を殴り飛ばす。

 めきめきと言う音と、骨がきしむ音。

 それが拳から伝わってくるのを感じ、心の中で謝りつつ俺はゴブリンもどきを倒していく……。

 魔法を使えば楽だろう。

 だけど、魔法を使えばそれだけ周りにも被害が出る。

 まだ生き残っている人が居るかもしれないこの状況でそれは……出来ないよな。


「こいつで終わりだね」


 トゥスさんの声が聞こえ、それに遅れて銃声が聞こえた。

 その後に訪れたのは村が燃える音だけだ。

 それも3匹のスライムによって時期に収まると……。

 最後に訪れたのは静寂。


「生き残りを探そう……」


 俺は皆にそう言うと燃えた村で捜索を始めた。

 だが、願いは虚しく……。

 いくら探しても生き残りはいなかった。

 そして……。


「ここは確か武器屋があった場所……だよね」


 チェルがそう言って辛そうに顔を歪めた。

 その視線の先に会ったのは焼け焦げた死体。

 間違いない、店主だろう……。


「……弔ってからスクルドに戻ろう」


 このままだとアンデッドになるからな。

 そう言葉を続ける事は出来なかった。


「分かった、穴、掘っておく……」


 ファリスは頷くと大きな穴を掘る為だろう広い場所へと目を向ける。


「大地よその力を我が物に……我の敵となる者を穿て! グレイブ」


 解き放たれた魔法は見事に大きな穴をあける。

 俺はそれを確認してから一人一人村人を運ぶのだった。


 そして、チェルに頼み祈りをささげると魔法で土をかぶせる。

 後は――。


「戻ろう……」


 もう、この村にいる事は出来なかった。

 辺りはまだ暗い。

 だけど、俺達は出発をすることにした。

 これが……新たな火種のきっかけになるとは思わずに……。

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