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345 当初の目的

 俺達はこの村に来た本当の目的を果たすため湖へと向かう。

 場所は先程村人から聞き出した様な気がする。

 気がするとはおかしな話だが……よく覚えてない。

 というか……ぽっかりと穴が開いた気分だ。


「キューラお姉ちゃん……」

「ああ……」


 ファリスに名前を呼ばれ俺は反応する。

 だが、それだけだ……。


「放って置きな……こうやって行動できるだけマシだ……」


 トゥスさんはそう言うと黙って前を進む。

 行動できるだけ……か……。

 俺は後ろを振り向く、そこにはチェルがとぼとぼと着いて来ていた。

 彼女は虚ろな表情で時折転びかけては俺達の後をついて来ていた。

 無理もない。


 折角助かったカインは死んでしまった。

 それも、あっけなく……。

 それは冒険者としては普通だ。

 何時死ぬかも分からない。


 例えば雑魚とされているコボルト。

 その群れにやられた熟練の冒険者が居てもおかしくはないのだ。

 油断がそれを生んでしまうのだから……。

 だが、今回は違った。

 俺達は油断なんてしていなかったはずだ。

 カインも……。


「……チェル」


 俺は彼女の名前を呼ぶ。

 すると彼女はゆっくりと顔をあげた。

 その顔に浮かぶ涙を見て俺は――あの日のクリエを思い出した。

 死ぬのが怖いと言ったクリエ。

 彼女を守る為に俺は――。


「カイン君は……私を……」

「ああ、助けようとしてああなった……」


 彼女は見ていた。

 だから分からないなんて事は無い。

 だが、俺は敢えてそう言った。

 すると彼女は首を何度も縦に振る。


「カインはチェルを守ろうとしたんだ……」


 なんかこの頃間近な人間に不幸が多い。

 そう思いつつも俺は彼女へと告げる。


「辛いとは思う、子供や女の人を手にかけた俺を怖いと思っても構わない。だけど、俺には俺達には君の力が必要だ」


 きっとこんな事、今は言うべきではないんだろう。

 だけど、それでも……。


「頼む……魔王を倒すために君の力を貸してくれ」


 カインを殺したのは魔王とは関係ないとは言い切れない。

 そして、彼女は戦いにおいて恐怖を知った。

 いや、今までも感じていただろう……それからカインの手で守られていただけだ。

 だが、その頼りになる少年はもう居ない。


「…………聖水を作るだけじゃ駄目なの?」


 彼女がそう言うであろう事は分かっていた。

 俺は首を横に振る。


「駄目だ、君の魔法は頼りになる……本当なら……」


 カインも居てくれた方が……そう言おうとしたら俺が泣きそうになった。

 俺は言葉を飲み込み……黙ってしまう。


「カイン君も居た方が良かった?」


 するとチェルがそう口にし……俺は胸をナイフで刺されたような感覚に陥った。


「おい、いい加減にしな……悲しむなとは言わない、だけど今は今やるべきことに集中しな、じゃないとまた死ぬよ」


 トゥスさんの言葉はきついものだった。

 だが、その言葉は正しい……しかし、今のチェルには……。


「…………」


 どんな剣よりも鋭利で傷を抉る物だ。


「トゥスさん!」


 俺は彼女の名を呼び――睨む。

 だが、彼女は此方へと目を向け――俺はその後の言葉を口に出来なかった。


「ここまでは一緒だった仲間だ。死んだのは残念だ……だがね、それでアタシらまで死んだりしたら、それこそ死んだ奴に失礼だよ」


 涙は流していなかった。

 だが、真面目な顔で気を落としたような声でそう言われ、俺は……俺たち二人だけが悲しい訳じゃないと悟った。

 そうだよな、ここまで一緒だった。

 カインは俺達を牢獄から助けてくれた。

 クリードでトゥスさんも出会っているんだからノルン達とは違う。

 彼女もまた辛いんだ……。


「行こうチェル」


 俺は彼女の元まで近づくと手を差し出す。

 それを黙って見ていたファリスとクリエも近づいて来た。

 そうだ、俺には俺達にはまだ仲間がいる。

 護ってやらなきゃいけないクリエが居る。

 ここで立ち止まってはいられない……街の事だってあるんだからな。


「…………」


 チェルは何も答えなかったが、涙を流しながらでも俺の手を取った。

 俺は……彼女の手を引き先を行くトゥスさんの背を追った。

 その背は何故か悲しそうに感じた。

 カインが死んだからだけじゃないだろう……他にもきっと何かある。

 さっきの彼女の顔からきっとそうだと俺は思ってしまった。





 暫く進むと問題の湖に辿り着いた。

 一見ただの湖だ。

 だが、此処にスライムは居るのだろう……。


「刺激しないように、俺が従者にする」


 それだけを告げると俺は荷物の中から林檎を取り出す。

 ライムが大好きな物だ。

 俺はクリエが抱えるライムへと目を向ける。

 もし、あの時……俺の傍にライムを置いていたら……。

 いや、考えるのは良そう……。

 クリエを守ってくれるものが何も居なくなってしまうし、今考えても過去の事だ。


「よし!」


 俺は湖へと近づくとあの時と同じように水をすくい口へと運ぶ。


「…………」


 美味しい、柔らかい舌触りとほどよい冷たさだ。

 これは間違いなく……。

 そう考えた時、目の前の湖が動き出した。


 スライムだ――!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] トゥスさんの背を負った。 ↓ トゥスさんの背を追った。 [一言] スライムにまみれるキューラちゃん( ˘ω˘ )
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