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344 報告

 村に戻るのは気まずかった。

 確かにあの魔物達は倒した。

 しかし、俺達は仲間を失い、更には武具店の娘は助けられなかった。


「…………」


 重苦しい空気で村の門を潜り抜けると駆け寄ってきたのはあの店主だ。


「お前達戻ったか!!」


 彼は嬉しそうに近づいて来た。

 しかし、すぐにその顔を険しいモノへと変える。


「どうした? 娘は? それに1人いないみたいだが」


 俺は――なんて答えればいいのだろうか?

 いや、答えなんて一つしかない。


「死んだよ……」

「何!?」


 彼は信じられないと言った風な表情を浮かべていた。

 そして――。


「娘は!? 娘も死んだのか!? あの化け物に――」


 俺は首を横に振る。

 嘘を伝える気は無かった。


「アンタの娘は魔族の実験に使われた」


 恐らく彼の娘だっただろう女性の顔を思い出しながら俺はそれを口にした。


「実験……だと? それで……」


 その言葉にも俺は首を横に振る。

 違う……。


「魔物にさせられて、それで彼女はまだ意識が残っていた」


 普通は信じられない事だ。

 人が魔物になるなんて事、アンデッド以外ないからな。

 だが、彼は黙って話を聞いてくれた。


「それで、殺してほしいと頼まれた」

「それじゃ、お前さん達が殺したのか?」


 彼の言葉に俺は首を振る。


「違う……俺達じゃない、俺が殺した……彼女の最後の望みだ」


 そう言うと彼は拳を握り、それを俺へと向けようとした。

 だが、彼は思いとどまり、震える声で問う。


「もう一人いたはずだ、そいつはどうした?」

「魔物になったアンタの娘に殺された……」


 俺が彼の質問に答えるとチェルはもう耐え切れなくなったのだろう、膝が折れ、地面へと着くとその場で泣き始めた。

 俺は彼女の方へと目を向ける。

 気を抜けば俺も泣きそうだった。

 だが、泣いている場合ではない。


「……実験をしたやつは魔王を超そうとしていた。奴の非道な実験の犠牲者だったんだ、アンタの娘は……」


 そう、俺は彼に伝えた。


「…………だからなんだ?」

「だから……彼女の願いを無視できなかった……殺してほしいと言われて、俺は――」


 カインがやられた、そんな恨みはなかった。

 ただ、あの子が殺してほしい。

 その望みをかなえてあげたかっただけだ……。

 こんな事日本に居た時じゃ考え付かない、それでも……あの子が人間のまま終わらせてあげたかったんだ。

 後悔は……ない……。


「なぁ、アンタに今できる最高の環境を与える……頼みがあるんだ」

「……何?」


 仇である俺を睨む店主。

 当然だ……俺は彼の家族を奪ったんだ。


「俺はこれから魔王を倒す。彼女やカインの様な犠牲を出さない為にも……魔王を倒して、魔王になる」


 馬鹿げた話だ。

 RPGとかなら何を言っているのか分からないだろう。

 俺は勇者の一行なんだ。

 魔王になるなんて言う事は無いはずだ……。

 だが、この世界においての魔王は違う。


 魔大陸を統治する王の事だ。

 つまり、神大陸に居る王達と何ら変わらない。

 違う点と言えば神大陸では複数の王が居るのに対し、魔大陸では王は一人と言う事だけ……。


「そのためには武器が必要だ……さっき言った通り今できる最高の環境を与える。スクルドに来てくれないか?」

「…………」


 俺はごくりと唾を飲む。

 武器屋は必要だ。

 勿論スクルドにも居る……だが、目の前の男は粗悪な材料であそこまでの武器を作った。

 この男の腕は惜しい。

 そう思ったが……。


「良いぞ……何て言えると思うか?」


 その返事は予想通りの物だった。


「お前さんは確かにあの魔物を倒して来たんだろう、だが……娘はもう戻ってこない。それもお前さんの手で殺されている」

「……キューラお姉ちゃんは!」


 ファリスは彼に噛みつかん勢いで前へと出るが俺は彼女の前に手を出し止めた。

 当然不満そうに頬を膨らませたが今は我慢して欲しい。


「言い分は分かった、嘘を言っている訳じゃないだろう……だがな、割り切れと言ってもお互いに無理だろう? そっちお嬢ちゃんの顔をよく見て見ろ」


 俺はそう言われてチェルを見た。

 そこには目を赤く染めた少女が今まで見た事無いような顔で店主を見ていた。

 まるで……仇を見るような瞳だ。

 彼の娘がと言うだけで彼が手を下した訳ではない。

 いや、寧ろあれが彼の娘だったかも怪しいのに……。


「俺は仇を……彼女は仇の父を許すことはできないだろうな。お互いに手を組むのは得策じゃない」


 彼はそう言うと去って行く、背を向けながら最後に告げられた言葉は……。


「この街に滞在するなら、部屋はもう貸せない……テントでも何でも立てな」


 最後の言葉を残した彼を追う事は出来なかった。


 分かってはいた……彼が俺を許せないだろうと……。

 だけど、チェルがあんな顔をするとは思わなかった。


 俺は彼が去って行った方を睨むチェルを見て……何故俺を恨まないのか、疑問を感じた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 俺も無きそうだった ↓ 俺も泣きそうだった [一言] 最初はキューラちゃんを見てえへえへするクリエを見て楽しんでたはずなのにどうしてこうなってしまったのか……(゜ω゜)
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