343 死
「チェル! 頼む早くしてくれ!!」
俺は声を荒げる。
「キューラ!!」
すると、怒号が飛び……俺は振り向いた。
「見ろ! 良く見るんだ!! あれは死んでるんだよ」
「見てるさ、見てるけどまだ分からないだろ!!」
ぐったりとしているかれは動くそぶりを見せない。
いや、正確には時折痙攣をしている。
それだけじゃない。
彼の背中からは血が溢れている。
まだ、血は流れている。
ならまだ助かるはずだ……。
「カイン……君……」
「チェル! 早く――」
俺は彼の名を呼んだチェルを急かす。
だが、チェルはその場から動こうとしない。
何をやってるんだ、このままじゃカインが……カインが死んで……。
そんなのは駄目だ!
彼を助けなければいけないんだ!
そう思って俺は持ってきていた薬を彼に使おうと鞄に手を伸ばし小瓶を取った。
「カイン!」
「無駄遣いするんじゃないよ! ちゃんとしな、ちゃんと弔ってやるんだ! このままじゃアンデッドになるよ」
だが、それはトゥスさんに止められた。
何も言えない、抵抗もすることが出来なかった。
俺は彼女の言葉に――。
「嘘、嘘……」
すすり泣くチェルの鳴き声を聞き、その場で膝を折った。
なぜだ? 彼は死ぬはずが無かった。
こんな所で……なんで?
「くそぉ……くそぉ!!」
俺は仲間を失ったのか?
また……目の前で……助ける事すらできず……。
俺は……。
悔しくて目からは涙があふれた。
冒険者が死ぬ。
そんな事は常識だ……。
そんな事は分かっていた。
何時かこんな時が来てもおかしくはない。
それも、知っていた。
だけど……それでも……。
「ぅぅ……そんな、カイン……」
彼は俺が旅立ったあの日であった大事な仲間だ。
彼には何度も助けられた。
彼のお蔭でクリエも助かった……。
なのに……俺は……。
「何も出来ないのかよっ!!」
悔しさだけが残り、だんっと! 拳を地面へと叩きつける。
だが、それでなにかが変わる訳が無い。
カインは死に……誰も助けられなかった。
だが、それでも……俺は俺がいけないんだという一言は口に出来なかった。
俺が、此処に来ようとさえ言わなければなんて絶対に口が裂けても言えない。
「カインを連れて行こう、こいつをこんな所に置いて行きたくない」
俺はそれだけを口にする。
「そうかい、なら勝手にしな……弔ってやるなら……アタシは駄目だとは言わないよ」
いつもより優しい声を出すトゥスさんに感謝しつつ俺は彼を運び出す為に布と縄で縛っていく……。
触ると彼の背骨や首の骨が折れている事が分かった。
恐らくは即死、だったんだろう……。
重苦しい空気の中、俺達は洞窟を後にする。
途中、中の異変に気が付いたらしいゴブリンが居たが、それはトゥスさんの手によって殺された。
中にあるのはただの死体だけ……。
武器屋の娘もどうなったのか分からない。
いや、先程のあの化け物……彼女がそうだったのかもしれない。
「………………」
「キューラお姉ちゃん……」
ファリスとクリエは俺を気遣ってくれているのだろう、傍に寄り添ってくれた。
だが、それに対し俺は礼も言えなかった。
黙り込み、残った後悔を噛みしめる。
そうしたって何も出来ない。
回復魔法で死者を蘇らせることはできない。
魔法陣の魔法だって実際にカインに会える訳ではない。
ゴーレムにするだけ無駄だ。
「カイン……君……」
何より、一番ショックを受けているだろうチェルはその瞳からは光を失っていた。
呆然とし、俺達の一番後ろを歩く彼女。
こうなったのは俺の所為だ。
俺が、ゴブリンを退治しようなんて言い出さなければこうならなかった。
だけど、そう言わなければ今もあの村は――。
「それでどうするんだい? まさかあの村まで連れて行くなんて言わないだろ?」
トゥスさんに言われ俺はカインの入った布を地面へと降ろす。
「ここで弔ってあげよう」
「…………」
俺の言葉にピクリと反応した少女はゆっくりと顔をあげた。
「チェル、頼む……」
酷な話だとは思う。
だが、ガゼウルの言葉をささげられるのは彼女だけだ。
彼女は虚ろな表情のまま、死者を送る言葉を紡ぎ出した……。
その言葉は俺の耳には届かない。
ただ……一つ……。
「魔王……」
魔王が居たからそれを越そうとするものが居た。
だからこそ、こんな事が起きた。
責任転嫁ではある……。
それでも……。
俺は許せない。
だからこそ、俺は魔王を倒し、その支配者となる。
誰も逆らえない、そして……信頼される魔王に……俺はなる。
勇者だとか領主だとかいろいろあるが、それはそれでなんとかして見せる。
色々とやる事は、多いな……。




