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341 犠牲と選択

 身体はミシミシと言う音を立てる。

 だが、それに耐えると俺は投げられた。

 身体中が痛い。

 そう思いながらも魔物へと目を向ける。

 苦しそうに今も叫ぶ魔物。

 俺はそちらへと手を向けた――。

 するとタイミングを計ったかのように魔物は俺を触手で地面へと叩きつける。


「がっ!? ――っ!?」


 息が出来ない。

 もしかしたら体のどこかはもう折れている。

 だが、それでも――。

 犯人を捉えるために使えるだろう、魔物を放って置く訳にはいかない。


 何せ俺は彼女達は人間だ。

 そんな彼女達が非道な実験の結果ああなったとしたら。

 あの悲鳴は助けを求める物だろう。

 そう思い、俺は気張ると――魔法を唱える。


「グレイブ!!」


 詠唱なんて出来なかった。

 だからこそ、俺は無詠唱魔法を使う。

 だが、放たれた魔法は真っ直ぐに女性へと向かっていく。

 このままでは当たらない。

 触手に阻まれてしまって終わりだ。

 そんな事は分かっている。

 だからこそ――。


「――シャドウブレード!!」


 俺はグレイブの陰に闇の魔法を隠した。

 思った通り触手に阻まれ魔物へは当たらなかった。

 だが、すぐに出された闇の刃は魔物の身体を切り裂いた。

 すると大きく聞こえたのはやはり女性の声だ。


『キャアアアァァァァァアァアァァアアアァァアァァァアアアアア!!』


 利いているこっちが気が狂いそうなほどの悲鳴。

 それを聞き、俺は男を睨む。


「き、貴様……よくも……」


 身体はもう動かせない。

 両腕の火傷なんかよりも骨折している方が痛手だ。

 だがそれでも、あの男は許せない。

 唯一動く片腕を使い俺は男の元へと向かう。

 しかし、近づいた所で何も出来ないのは変わらない。

 そう思っていると……金属の音が洞窟のんかに響く。

 剣戟の音ではなかった。

 何の音だろうか? そう思っていると彼女はゆっくりと銃を倒れている男に突き付けた。


「これで終わりだ……せいぜい苦しんで死ぬ事だね」


 そう口にした後、洞窟の中には轟音が響き渡った。

 相手は魔族だ。

 精霊石による影響はないだろう。

 だからこそ彼女が狙ったのは急所ではなかった。


「トゥス……さん、クリエが見てる……非道な事は辞めろ」

「……はいよ」


 彼女は面白くない、そんな風に顔を歪めたが……俺の言葉を聞くと再び引き金を引いた。

 今度こそ動かなくなった。


「……胸糞悪いね」


 そう言った彼女の言葉の後もう何度かの銃声が聞こえ、それにより悲鳴が聞こえる。

 被害に遭った人達の悲鳴だ。

 魔物になってしまった彼女達を殺しているのだろう。


「…………ぁ」


 だが、微かに別の声も聞こえた。

 先程の呆然としていた女性だ。

 彼女の方へと何とか顔を向けるとトゥスさんが彼女の方へと歩み寄っている。

 止めようか悩んだがそれは辞めて置いた。

 何故なら銃も斧も締まっていたからだ。


「キューラ、この嬢ちゃんは意識が残ってるよ、どうするんだい?」

「助ける……」


 それだけを口にすると彼女はやれやれと言った態度だった。

 だが、それ以上は何も言わない……。

 俺はと言うと動けないまま、その場に倒れている。


「キューラ!!」


 するとカインがこっちへと近づいて来た。

 勿論チェルも一緒だ。

 彼女は怯えた表情を浮かべていた。

 怖かったからじゃないだろう、俺達に対してだ……。


「あ、あの魔物……子供……だって……」


 優しい彼女にはそれが理解できなかったのだろう。

 それもまた答えだ。

 いや、それがある意味正しいのかもしれない。

 だが……優しさだけで救えるならそうしたいさ……。


「ああ……」


 俺はただそれだけを答える。


「あの大きな魔物も人……」

「ああ……」


 胸が痛い。

 ただの魔物を殺すのとはわけが違う。

 だが、誰かがやらなければならなかった事だ。

 俺達が絶対にと言う訳ではない。

 それでも、俺は後悔したくない。

 ここで見逃してノルンに託されたスクルドに何かあったら……そして、何よりもクリエに何かあったら……。


「俺は……正しいとは言えないが、やらなきゃいけないと思っただけだ」


 そう伝えると、彼女は涙を流し、その瞳に烈火を灯したように見えた。


「――っ!!」


 そして、何かを言おうと口を大きく開けると……。


「魔物になるのは怖い」


 そう口にしたのはファリスだ。


「意識が奪われていく……どんなに強くてもどんどんと蝕まれていく……」


 ファリスは魔王によって魔物にされそうだった。

 運が良く助かって俺達と共にいるが……。

 もし、そうじゃなかったらここに居た子供や人と同じだ。


「いずれ、私じゃなくなる……そうなると怖い、殺してほしい……そう思っても、おかしくない」


 彼女の言葉だからこそ、重みがある。


「でも、だからって人を殺して――」

「人の魔物化には欠点がある」


 ファリスは彼女の言葉を遮って会話を続ける。


「魔物を生み出すんじゃないから、一瞬意識が戻る時がある……その時には魔物になってる自分に気が付く、してきた事にも気が付く……そして、壊れた後、本当の魔物になる」

「…………え?」


 それは初耳だ。

 チェルも同じだったんだろう、固まっている。


「だから、魔物になりかけてるうちに殺すのが優しさ……さっきの悲鳴、あれが意識が戻った時の証拠……もう、殺すしか、なかった……」

「ぁ……ぁ?」


 信じられないのだろう、がたがたと震えるチェルは辺りを見回す。

 そこには魔物になった人々の姿。

 中にはまだ人の姿を辛うじて保っている人もいた。

 それどころか腐って投げ捨てられている死体もあるだろう……。


「……俺には良く分からない、だけど……戻す手段が分からないんじゃ、例え助けたとしても人を襲うのは時間の問題だ。むしろ被害が少ない今で良かったんじゃないか?」


 カインはチェルにそう言ってくれた。


「確かにキューラ達は人を殺した。だけど、それが悪とは限らないだろ? チェルだってこいつらが悪人じゃないのは知ってるだろ?」

「………………納得はできません」


 チェルはがっくりと項垂れながらも俺に近づいて来た。

 口調は砕けた物から敬語になっていた。


「納得、できません……」


 そう言いつつも詠唱を唱え、俺を治してくれた。


「納得なんてしなくていいさ、君は納得なんてしちゃ駄目だ」


 俺はそんな彼女にそう告げるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ほんとシリアスさんの猛攻が(
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