336 運命を分かつ選択
カインが持ってきてくれたカカの実のお蔭でなんとか動けるようにはなっている。
だが、これからが問題だ。
事態を放って置く訳にはいかない。
しかし、カイン以外は女だ。
悔しいが俺も一応そうであり、奴らの香は女性にしか効果が無い。
そして、この先に香が無いとは限らない。
「…………一旦戻るか?」
そう提案してきたのは他でもないカインだ。
確かにそう考えるのが普通だ。
だが……。
「駄目だ……奴らは予想外の力を持ち過ぎてる」
ここで逃がせばきっと外に出て新たな巣を見つけるだろう。
ここで叩かなければスクルドにも来てしまう可能性もある。
焦っているつもりはないが……。
「でも、どうするんだ? カカの実だってそんなにある訳じゃないぞ? それに……」
彼が見つめるのはチェルの方だ。
彼女は香に弱かったのだろう、先程よりはマシとはいえ息がも絶え絶えと言った所だった。
勿論俺もそれは分かっていた。
だが、それでもいかなくてはならない。
「カカの実はいざという時に使う……チェル、持続的に風を出せるか?」
「……無理、集中できないよ」
やっぱりか……。
だとすると……彼女を連れて行くのは危険だ。
あの香に他に効果が無いとは限らない。
だが、ここに置いて行くのはもっと危険だ。
外にあのゴブリンもどきが居ないとは思えないからだ。
「行こう……」
「キューラ!!」
焦るカインが俺の名を怒鳴りながら肩に手を置く。
分かっている、冷静じゃないって言いたいんだろ。
「カイン、よしな……」
だが、そんなとき彼を制してくれたのは意外にもトゥスさんだった。
彼女は銃へと弾丸を込め、手斧を確認する。
「なんでだよ! あんただって!」
「今まで見た事も無い魔物が居る……大した強さじゃないがこっちを全滅させるほどの力は持つ」
彼女はそう言って、カインの方へとエルフとは思えない鋭い瞳を向けた。
「この情報だけで男の討伐隊を組むことはできるだろうさ……だけど、奴らがそれさえも予想して対処をして来たら?」
「は?」
なるほど、彼女はそれを気にしているのか……。
「出来るとは限らないが、出来ないとも限らない。何せあたしらはそれなりの力を持ってる。だが、それを無効化する手段がある敵であり、明らかにあたしたちが来ることを予想して対処をしてきたんだよ」
彼女は手わされていた最後のカカの実を布袋にしまい……洞窟の奥を睨んだ。
「魔王の配下って可能性はあるね」
「…………」
魔王と言う名を聞き、ファリスはびくりと身体を震わせ……彼女もまた奥を睨む……。
「ありえる、今代は凄い力を持ってる……魔物生み出せるほど強い、引くのは何時でも出来る。今ならこっちが対処の仕様もなく、消耗してると油断してるかもしれない、注意して先に進んだ方が良い」
ファリスもトゥスさんに賛成みたいだ。
だが、カインの心配も分かる。
俺はチェルへと目を向けると彼女はゆっくりと立ちあがり俺達の方へと目を向けた。
「だ、大丈夫……」
震える声でそう言った彼女に対しカインは何かを言おうとした。
だが――。
「行こう」
俺はそれを遮るように口にし、ランタンで洞窟を照らす。
勿論、俺とファリスには無意味だ。
夜でも見えるからな……何故か以前より見やすい気がするが……。
それは単なる気のせいだろう。
「お、おい!」
カインは俺が進むと慌てて止めようとしてきたが、諦めたのか溜息をした。
どうやら渋々ではあったがついてくるようだ。
暫く進んだ所で俺は仲間達を止める。
分かれ道も無く、ただ真っ直ぐとした洞窟。
物陰何かを確認をしてもやはり道はない。
その割にはあの魔物が居ないのだ。
まさか、さきほどの数だけと言うのはありえない。
そう思ってはいたのだが……。
「居ない?」
ファリスは首を傾げ奥を睨む。
彼女が言うのだ、間違いない。
だが……。
「妙だな?」
俺は地面へと目を向けた。
するとトゥスさんもしゃがみ込み……。
「足跡はあるね、比較的新しい……奥に行っているようだ」
なるほど、やっぱりあれだけじゃないか……。
誘い込まれているのだろうか?
相手は頭がいいし、これ以上下手に攻め入らない方が良い、そう思った時。
「待った!」
トゥスさんが険しい顔をして、引き返そうと口にしかけた俺は慌てて言葉を飲み込んだ。
「どうした?」
「人の足跡だ」
彼女はそう言うとやはり奥を睨む。
「人質の子か?」
「いや、それだけじゃないが、これを見てみな、この足はだけは大きい、歩幅もだ……男の物で間違いはないだろう」
つまり、この先に男が居る?
まさか一人でゴブリンもどきを退治死に来たという訳ではないだろう。
「もう少し様子を見よう」
俺はそう口にし、ゆっくりと前へと進む。
一体こんな所に何をしに来たんだ?




