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335 香

 香をどうにかするには風の魔法が一番だ。

 だが、頼みのチェルはあの状態。

 ファリスとクリエも無理だ。

 動けるのは俺とトゥスさん、そして男であるカインだ。


「口元を塞げ!」


 カインもあれが原因だと理解し、叫ぶ。

 当然俺達は持っていた布で鼻まで覆うように口元を隠したが……。

 吸った分はもうどうにもしようがない。


「作戦は!?」


 トゥスさんはいつもより焦った声でそう言った。

 見た目だけなら美しいエルフの彼女はやけに色っぽい。

 これも香の効果がだろうが……違和感が半端ないな。


「雑魚を俺達で……カインは香持ちをどうにかしてくれ!!」


 アレに近づくのは危険だ。

 相手も武器は近距離用の物ばかり……なら……そっちを潰すしかない!


 俺はそう思い二人に伝える。

 するとカインは短剣を手に走る。

 俺はと言うと拳を構え、近づいて来たゴブリンへとお見舞いをした。

 トゥスさんもまた手斧でゴブリンをなぎ倒す。

 だが……。


「数が多い!」


 こっちは仲間を3人庇いながらの戦いだ。

 だが、相手はカインさえ倒してしまえばそれで終わり、

 選択を間違えたか?

 そう思ったが、他にどうにかする方法はない。

 くそ! そう悪態をつきながらも俺達は戦うしかない。


「――ぅぅ、ぅ」


 チェルはもう座っているのも辛いのだろう、横になり息も絶え絶えだ。

 早く早く……そう焦る気持ちだけがあるが、いつまで経っても香の臭いが途絶えてくれない。


「カイン! 早くしてくれ!」


 堪らず叫ぶも何の解決にはならない。

 それどころか大きく息を吸う結果になってしまった。

 俺もまた膝が折れてしまう。


「…………っ」


 駄目だ、力が抜ける。

 迫るゴブリンは見た事も無い形だ。

 そして、いやらしい笑みを浮かべている。

 このままじゃ負けで俺達は……。

 いや、駄目だ……こうなったら……!!


「キューラァ!! 香は壊したぞ!!」


 カインはそう言いながらこっちへと戻ってきている。

 だが、トゥスさんももう動けない。

 彼を守る者は何もなく、ゴブリン達は男には容赦がないのだろう。

 鬼気迫る顔で彼を襲おうとしていた。

 仲間を……殺させるものか!! 俺の仲間を――。


「カイン、伏せろ――!!」


 俺はそう叫び、身を低くしながら駆け、飛んだ。

 その瞬間を狙い俺は――。


「大地の精よ! 敵を穿て!! グレイブ!!」


 詠唱を交え魔法を唱えた。

 強化されたグレイブは巨大な岩となってゴブリンを襲う。


『ゲギャァァァァァアア!!』


 ゴブリン達の悲鳴が洞窟内に響いた。

 しかし、目的はそれじゃない。


「グレイブっ!!」


 目的はあの甘い匂いを封じ込めることだ。

 がれきで塞いでしまえばいずれ薄れる……はず……。

 そして、俺はもう一回魔法を唱えた。

 すぐに唱えられた魔法に対処が出来るほど俊敏ではなかったゴブリンは岩に撃ち抜かれる。

 同時に隅っこへと追いやり何とか封じ込めることはできた。

 しかし……。


「チェル、平気か!?」


 こちらもダメージがある。

 実際に怪我を負った訳じゃない。

 だが、まさか毒ではなく媚薬を使ってくるとは思わなかった。

 いや、予想しておくべきだった。

 奴らが子供を産ませるかもしれないという事までは予想していた。

 なら、抵抗されない何かが必要だ。

 それに戦ってみて分かったが奴らはゴブリンではない、別の魔物だ。

 一匹は弱い、それこそゴブリンの方が強いんじゃないか……そう思うぐらいには弱い。

 だが、村娘を実際に遅い、連れ去っている事。

 家畜もそうだ。

 なら、何らかの手段があり抵抗力を奪うことが出来る。

 そう考えるのは当然だ。

 なのに俺は……。


「ぁ……ぁぅ……」


 放心状態の彼女へと手を伸ばしかけ、俺はその手を止めた。

 なにか、何か手はないか?

 ファリスもクリエも媚薬に侵されている……。

 トゥスさんと俺だってそうだ……。

 このままじゃ進めない。

 いや、息をするだけで体が熱い様な気がする。

 まずい、まずいぞ……香が一つだけだとは限らない。

 何か手を……。


「ライム、取り除けないか?」

『…………』


 プルプルと震えるスライムは何も言ってくれない。

 だが、分かる。

 流石に無理だという事ぐらいは……。


「……なぁ、これ、使えないか?」

「なんだ?」


 カインはそう言うと乾いた木の実を手渡して来た。

 その感覚で声をもらしそうになるが、何とか耐えるとそれは……どう見てもただの木の実を乾燥させたものだ。


「なんだ、これ?」

「頭に血が上った時とかに噛むと段々と治まって来るんだ……鎮静の効果がある実で干すとかなり持つし、より効果がある」


 そんな効果のある木の実なんて聞いた事が無い。


「カカの実って言って、大してうまくもないし、村の療法の一つぐらいにしか思われてない」


 なるほど、だから聞いた事が無かったのか……。


「効果は……あるかもしれないね、実際に動物に与えると大人しくなるって話はあるようだよ」


 苦し気にトゥスさんはそう言うとカインの手からカカの実を取る。

 なるほど、物は試しだ。


「チェル、ファリスにクリエも手を出せ……食べるんだ」


 俺はそう言って3人にカカの実をそうとした。

 だがチェルだけは受け取れない様だ。

 仕方がない、そう思って俺は彼女の口へとそれを放り込む。

 そして、自分も食べると……。


「…………ん?」


 美味しくない、かといってまずいわけでもない。

 無味無臭……そう言って良い味だ。

 噛み続けていればだんだん味が染みてくると思ったが、そう言う訳でもなく……。

 まるで噛み終わったガムを永遠と噛んでいるような感覚がした。

 だが……。


「……んぅ?」


 徐々に体の熱は冷めていく……。

 本当に少しづつではあるが、ちゃんと身体で感じられるほどに……。


「どうだ?」

「…………まだ、香の効果は残ってるけど……いけそうだ」


 俺はカインにそう言い、立ち上がる。

 さて、どうするか……このまま一旦引くか? いや、駄目だ……。

 こんな危険な魔物を放って置く訳にはいかない。

 だが、どうやって戦うんだ?

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[気になる点] 木の実を完走 ↓ 木の実を乾燥 [一言] どうやって攻めるか……
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