333 ゴブリンの巣へ
翌日、俺達はゴブリン退治のため村を旅立とうとした。
準備は問題ない。
武器もあれば予防薬もある。
後は巣穴に潜って直接叩くしかない。
俺はそう思いながら村の入口へと向かう。
その間も様子を窺っていたが、やはり女性が居ない。
隠れて暮らしているのも居るだろう。
だが、恐らくはそのほとんどが攫われたのかもしれない。
「…………」
いや、昨日のやり取りを見るともしかすると村長が村を守るため、いや……自分自身を守る為に犠牲にしたのかもな。
もし、そうだとしたら犠牲になった子達はどんなに不安だっただろうか?
そして、今もきっとひどい目に遭っている。
俺は勇者じゃない、英雄じゃない。
だけど、それでも……。
「絶対に助けよう」
今は一つの街の領主。
そして、一度魔王になると口にしたんだ。
王なら民を護らなきゃいけない。
そうじゃなきゃ王を名乗る資格なんてのは無い。
「へぇ、魔王の次は勇者かい?」
「そうは言っていない、やる事がどっちにしたって同じだけだ」
トゥスさんの茶化しに俺は笑いながら答える。
そうだ……。
何も変わらない。
変わる訳が無い……。
きっとクリエが呪いにかかっていなかったら、こうするだろう。
彼女の望むことを俺はする。
そんな大それたことが出来るとは思っていない。
だが、それでも……。
「…………?」
俺はクリエを見つめ、微笑む。
今の彼女もここで村を見捨てたら俺の事を軽蔑するだろう。
いや、そこまではしないか……。
それでも悲しい顔をし傷つくことは間違いない。
彼女は優しいからだ。
だからこそ、俺は……戦いに行く。
不意を突かれたとはいえ、一度負けた相手だ。
怖くないとは言えない。
だが、それでもだ……それでも、俺は戦う。
どっちにしたってここでスライムを従者にする予定だった。
戦う魔物がちょっと増えただけだ。
「早くいかないのか!?」
いつの間にか先を歩いていたカインが痺れを切らしている。
俺は「ああ、今行く」とだけ良い残る仲間達へと視線を向けた。
絶対に負ける訳にはいかない。
「頼むぞ嬢ちゃん達!」
途中であの武器屋の人に声をかけられた。
俺は手を上げ、彼に笑みを見せる事で答えた……。
やっぱり、負けられないな。
俺達が向かうのは襲われた巣穴の方だ。
「あった……」
塞がれるのが不安だったが、どうやらまだ巣穴の入口はある。
あれから数日たっている。
奴らが巣を広げている可能性は十分にある。
そして……もしかしたら、それが村の方に伸びている事も……。
「……キューラちゃん」
チェルは例の薬を手渡して来た。
それを開け、やけにどろどろとしたものを喉へと押し込んだ。
「っ!? に、苦!?」
「そう?」
いや、これ、ものすごく苦いぞ!?
俺が周りを見てみると皆一様に眉を顰めている。
「い……や……」
そして、残るクリエは首を横に振っていた。
だが、チェルは容赦なく彼女の口にそれを流し込むと口を塞ぎ無理矢理飲ませている。
涙目になったクリエは何とか薬を飲んだようで……。
「……っやぁ!」
チェルから離れると俺とファリスの方へとすり寄って来た。
「ル……らい!」
そして、涙目でチェルを睨み何かを言っている……恐らくはチェル嫌い! だろう。
本当になんか子供になってるな。
「し、仕方ないよ……これは皆を守る為にそれに! 甘くしたんだよ!?」
いや、思いっきり苦かったぞ?
と言うか飲んだよな? なのに苦くはないのか? 味覚は大丈夫だろうか?
俺が首を傾げる羽目になったが、肩を叩かれ俺はそちらの方へと振り返る。
するとカインは首を横に振って悲しげな瞳をしていた。
なるほど、言うだけ無駄なのか……。
「と、とにかく! 見張りが居るかどうかの確認だ」
俺はクリエの頭を撫ででやりながら、そう口にした。
薬は飲んだ……だが、完全に防ぐわけじゃない。
矢などに毒が仕込んであればそれまでだ。
狭い巣穴で弓矢は危険だし、使うとしたら見張り。
それさえ倒してしまえば、余程広い巣でなければ矢は飛んでこないだろう。
「そうだね、さっさと確認するよ」
トゥスさんは頷き、前を睨む。
ゴブリン? の巣は此方から見ると大きな穴が開いているようにしか見えない。
この先、一体どんな風になっているのだろうか?
そんな事を考えていると、きらりと光る物が見えた。
「キューラ!!」
カインが叫び、トゥスさんの銃が吼える。
それに遅れるように俺へと矢が迫っていた。
が……それはカインにより防がれた。
広い場所なら彼の本来の武器が使える。
助かった……。
それにしてもやはり見張りが居たか……その見張りはどうやら今のトゥスさんの攻撃で仕留めたようだが……。
「もう大丈夫みたいだね」
彼女の言葉に頷き俺達は巣穴の中へと入り込んだ。




