331 本の魔法
放牧場はちょうどいい広さだった。
俺はうんうんと頷き、本を取り出す。
「何だ? その本」
疑問を浮かべたのはカインだ。
そう言えば言っていなかったな、彼に俺は笑みを見せるとこう答えた。
「俺達の切り札だ」
この本をまともに使った事は無い。
だが、秘かに勉強だけはしておいた。
そこで思いついたのが精霊石ではなくマジックアイテムを作ってしまうという事だ。
問題は……。
「恐らく俺は今日は動けなくなるな」
「危険、なの?」
俺の言葉に不安そうにそう口にし心配してくれるのはファリスだ。
彼女には首を振る事でまず答え……。
「危険はない、ただ……この魔法には効力を持続させるため魔力が必要だ」
1本なら問題はない。
だが、今回は3本だ。
それだけの魔力を使えば、魔力は流石に底をつく……。
「それで、どうするんだい? 単純に耐久力を上げても無駄だよ」
「分ってる」
そんな事は……十分承知している。
武器が使えなくなる原因には血に濡れると言うものもある。
ならどうするか? 水で洗い流せれば一番だが……。
これからするマジックアイテム化には弱点がある。
「そもそも、こいつは俺が使える魔法じゃないと駄目だ」
そう、俺が使える魔法がこの武器に宿るのだ。
だからこそ、水の魔法が使えない混血では洗い流す剣は作れないという事だ。
ならどうするのか?
単純に耐久を上げるなら地の魔法を付加してあげればいい。
だが、それでは何の解決もできない。
したがって地以外の混血が使える炎、氷、闇、雷の魔法どれかを使うしかない。
この中で良いのは炎の武器だ。
焼き切ってしまえば血に汚れる事は少ないはず。
だが……それも駄目だ。
洞窟の中で炎の魔法を使う……それは危険な行為だからだ。
なら氷か? 鋭さが増し、切れ味は上がるだろう……。
しかし、こっちにはライムが居る。
万が一ライムにあたったら大変だ……これも無しだな。
次に闇。
毒とかそういうのは付加できない。
そもそも闇の武器がどんな効果があるのかも分からない。
もしかしたら全く効果の無い武器が出来あがるかもしれない。
つまり無しだ……。
最後に残ったのは……雷だ。
微弱でも電流を流せることが出来れば、相手を感電させることは可能だ。
こちらが感電しないような細工は勿論必要。
だが、そこは……。
「トゥスさん、雷に強くする精霊石は作れるか?」
「……何を言ってるんだい? まぁ、作れない事は無いと思うよ」
よし、なら――。
「頼む、この武器に雷の力を付加する。それに巻き込まれないようにするために作ってくれ」
とはいえ、雷じゃ燃える可能性もある……十分気を付けて扱わないといけないな。
俺は魔法陣の本を取り出し地面へとそれを描いて行く……。
本に書かれていた見本では文字が違ったが、この世界の文字でも問題なく発動する様だ。
だが、気を付けなければならない事がある。
それは魔法陣が正しく描かれている事……そうでなければ良くて不発。
悪ければ魔法が暴走すると書いてあった。
恐ろしい魔法だが、これが元居た世界の魔法だと書かれていた事から、その魔法を再現し、本を作ったあの亡霊は相当な魔法使いだったのだろうか?
っと集中しなきゃいけないな。
俺は魔法陣を描く作業へと没頭する。
「なぁ、手伝わなくて良いのか?」
「……ああ、大丈夫だ」
カインは何もしないのが気になったのだろう。
そう尋ねてくるが、こればっかりは手伝ってもらう訳にはいかない。
もしもの事があるし、今魔法陣を知っている俺だけでやるべきだ。
しかし、戦争になったらどうするか……。
あの人は俺に託してくれた……出来れば人をクリエを助けるための道具にしたい。
戦争の道具にはしたくない……。
そうは思うが、そう言っていられるのかが不安だ。
「……出来た」
俺は悩みつつも魔法陣を描き終わった。
その上には三つの武器と数個の小石。
後は……詠唱を唱えるだけだ。
「これで後はどうするんだい?」
「ああ、後は魔法を唱えるだけだ……雷の精よ……我が呼び声に答え現れん、汝、天より舞い降りる審判者、我らにその加護を……汝の力の一部、邪なる者共に審判を下す力を与えん」
俺の詠唱と共に魔法陣は淡く光り出す。
大丈夫だ……もし何かあればここでまぶしくなり目も開けられない程になると書いてあった。
「我は望む……その力を依代に宿す事、汝我が願いを聞き入れたまえ……」
更に続けると辺りが曇りだす。
真っ黒な雲だ。
雨が降り……ゴロゴロと言う音が聞こえ始めた。
屋内でこの魔法を使っていたら危なかったな……。
「今ここに、その力を!!」
そして、最後の言葉を告げると一筋の光が落ち、鼓膜が破れるのでは? と言う音が鳴り響く。
「きゃぁぁああああ!?」
チェルは予想外の事に大きな声で叫ぶが、それさえも小さく聞こえた。
たった一度の落雷は他の何かに落ちる訳でもなく、武器に吸い込まれるように落ちて行った。
こんな事が起きるとは思っていなかった。
俺は慌てて火事にならないか確かめるも……どうやら魔法陣が強固な結界となっているようだ。
先程落ちた雷はバチバチと言う音を立て武器から放電している。
やがてそれが収まると魔法陣はゆっくりと光を失い……消えて行った。
役目を終えたという事だろう。
「出来た……のか?」
俺は恐る恐る剣を手に取り、試しに辺りにあった小枝を投げ、剣振り抜いた。
すると先程よりは音が小さいものの放電した。
どうやら、ちゃんとできているようだ。




