330 洞窟で戦う武器
「カイン、このナイフはどうだ?」
俺はカインに一番質が良さげなナイフを見せる。
だが、彼は首を横に振った。
「俺はナイフなんて使った事無いぞ?」
確かにカインは剣が得意だろう。
だが、短剣が使えない訳じゃないはずだ……と思ったんだが、やっぱり武器の重さや長さが変わってくる。
彼が首を横に振るのはそう言った理由もあるのだろう。
なら……。
俺はそのナイフを持ったまま目をファリスへと向ける。
すると彼女はぶんぶんと首を横に振った。
「持ったことない」
ああ、そう言えばこの子はいつも鎌だったな。
あれ? でも……。
「鎌以外に武器は作れないのか?」
「作れない、便利じゃない……」
申し訳なさそうに言うファリス。
なるほど、あれも魔法の類……なら他の魔法同様便利すぎるって事は無いか……。
しかし、他に質の良い武器は……。
見渡してみるが良いものはない。
ある物と言ったら長い剣、普通に使うならともかく洞窟なんかじゃ使い勝手が悪い。
手槍……これも長くはあるが剣よりは良い、振り回さないなら使えるだろうが……二人は最初から目を付けていない。
つまりは使えないって事だろう。
突き刺すだけだから使えそうだとは思うがやっぱり違うらしい。
巨大な剣に農作用の道具……前者は無しだ。
後者は……うまく使えば武器になるが……強度が心配だ。
残るは短く粗悪な剣と手斧。
これなら閉所でも使えるはずだ。
だが……どちらも粗悪な道具。
手に持ってみると刃はかけており、何かが混ざっているのか鈍い光を放っている。
「トゥスさん、これに硬化の精霊石を付ける事は?」
「無理だね、そもそも硬化したって使い続ければ血に濡れるしね」
確かにそうだな。
だが……。
「ファリスこの、短い剣ならどうだ?」
「少しなら……」
カインは間違いなくこいつが使えるはずだ。
ならファリスもこれで……手斧はトゥスさんに渡すとして……問題は道具の質。
さて、どうしたものか……いや、やるしかないか。
「おじさん、この剣を二つ、そして手斧を一つだ」
「鎖帷子は良いのかい?」
「音が鳴る、服の下に着こむにしても、な」
毒は怖いが、チェルとライムが居る。
だが、いくつか解毒薬を持って行こう。
それと傷薬だな……。
「幾らになる?」
俺は財布を取り出すとおじさんは慌てだした。
「オ、オラの娘を勇者ご一行に退治してもらえるんだ! 料金なんて貰えない」
「……なぁ、もう此処には情報が来てるんだろ? この子はもう勇者じゃない」
俺がそう言うと彼は黙り込んだ。
だが、例え勇者だったとしても料金を受け取らないというのはおかしい。
いや、この世界全体が勇者に対しておかしいと言った方が良いだろうが、そこはこの人に突っ込んでも意味が無い。
「買い物は買い物だ……助けるとは言ったが、おじさんが武器屋だとは知らなかった」
「いや、しかしよぅ……」
チラチラと申し訳なさそうに自分の打った武器を見ているおじさん。
質が悪い。
それは彼も納得している事だろう。
だが、それとこれとでは話が違う。
「いくらだ?」
俺が改めて問うと彼はようやく……。
「へぇ……全部合わせて500ケートです」
高いな。
だけどこの村を見ればその物価は納得だ。
流通が無いからどうしても貴重になる。
なら、値段も吊り上がってしまう……それは仕方のない事だろう。
「これで良いな?」
俺はきっちりとお金を出すと彼は少し迷ったがお金をしまった。
さて……問題は……。
「それと、ここら辺で人が来ない場所は知らないか?」
「え? ああ……それなら牧場が良いんじゃないか? もうゴブリンに家畜は取られちまったからなぁ……それにスライムも近くに出たとかで今は誰も居ないからな」
なるほど、それは運が良い。
「しばらくそこを借りる」
「へぇ……すぐにはゴブリンを倒しに行かないのかい?」
トゥスさんにそう言われ俺は彼女へと目を向けた。
睨んだわけじゃない。
ただ理由があるからそこに行きたいだけだ。
「ああ、ちょっと細工をしてからゴブリンを倒す」
「…………精霊石は使えないよ」
彼女に忠告され、俺は頷いた。
それはさっき聞いた事だ。
十分承知している……。
だが、この武器ではいくら積んで行ってもゴブリンの巣を潰すことは不可能だ。
いずれ俺一人で戦う事になる。
ゴブリンから武器を奪うって選択もあるが、それにしたって難しいからな。
「キューラちゃん細工って何をするの?」
チェルもその事が気になったのだろう、訪ねてきたが、今ここでは言えない。
俺達だけで話すならともかく、他の人が居るしな。
「内緒だ、そこまで行くぞ」
俺は改めてそう言うとファリスは頷き、カインは何かを考えているのか眉をひそめた。
当然トゥスさんやチェルもどこか不安げだ。
ファリスとクリエは何故か、不安はなさそうだが……。
まぁ、とにかくやってみるしかない。




