327 反撃へと向け
俺が毒を盛られてからどの位の時間が過ぎたのだろう?
村へと向かっているはずだが、まだ時間はかかるはずだ。
「み、ん……な……」
俺はようやく動くようになった口で皆を呼ぶ。
「キューラ!」
すぐに気が付いたのは抱き上げるカインだ。
彼は仲間達へと声をかけてくれた。
仲間達はすぐに俺の元へと集まってくれ、俺は考えを告げる。
このままじゃ駄目だと……。
「ライムに、薬草……」
まずは俺が動けない事には始まらない。
俺は彼女達にライムに薬草を上げることを提案した。
「ライムちゃん?」
チェルは一瞬首を傾げた。
しかし、すぐに俺の意図に気が付いたのだろう。
「そっか! スライムのポーション!」
スライムは自身の体にたまった薬草などでポーション。
つまり、薬を作ることが出来る。
それを使えば、毒消しを作ることが出来るはずだ。
俺はそれを伝えたかったのだが、どうやらちゃんと意図は伝わったようだ。
チェルは腰のバックから数種類の薬草を取り出した。
そして、ライムへとそれを与える。
ライムはそれをもしゃもしゃと咀嚼し始めたのだろう、怪我をした場所がくすぐったい。
同時にすーっとした感覚が体の中を通っていく気がした。
ポーションと言ってもなにも飲み薬だけではない。
塗り薬や他にもいろいろある。
そして、スライムのポーションは薬屋も欲しがるほど高品質だ。
そのお陰もあって、大分視界もはっきりしてきた。
「大丈夫だ……カイン降ろしてくれ」
「あ、ああ……」
俺は自分の足で大地に立つと反省をした。
油断し過ぎていた。
相手はゴブリン、賢い魔物だというのは分かっていたのに……。
今ここで叩かなければきっと被害は広がっていってしまうだろう。
「ゴブリンを叩くぞ……」
「何言ってるんだい!? そんな身体で!」
トゥスさんは眉を吊り上げ怒ってきたがそんなのは関係ない。
俺は彼女へと目を向け首を横に振った。
「ここで叩かなければゴブリン達は移動をするかもしれない」
奴らの事だ、人にばれないように巣穴をほり進めていく可能性は十分にある。
それに、巣穴があるって事はおそらく……。
「誰かが捕まっているかもしれない、それなのに放って置く事は出来ないだろ?」
「それは分かってる……女子が襲われてるなら尚更だ!」
カインはそう言って拳を握る。
だが、彼はその拳を下げ大きく溜息をついた。
「だけど、今俺達が行って何になる? このぐらい俺にも分かるぞ?」
彼が言いたい事は巣穴で戦える人間が少ないという事だろう。
分かっている。
だが……方法が無いわけじゃない。
「ファリス」
「何?」
俺が彼女の名前を呼ぶと彼女は心配そうな顔で近づいて来た。
「鎌以外に武器は――」
「作れない」
作れるのか? と聞こうとしたら彼女は俺の言葉を聞き切る事は無く口にした。
「あれは万能じゃない、いくらキューラお姉ちゃんの言う事でも出来ない」
「そうか……」
だとすると今ゴブリンの巣穴で戦えるのは俺とライム……そして魔法が使えるファリスだけだ。
トゥスさんの銃は狭い所だと万が一外した時の跳弾が怖いからな。
「言っておくけど魔法も駄目だからね」
「な、なんでだよ?」
俺は眉を吊り上げるチェルに尋ねる。
すると彼女はやれやれと言った風な態度を取り。
「あんな狭い所で魔族や混血の魔法なんて使ったら崩落するよ!? そうじゃなくても炎の魔法なんて特に駄目! 苦しくなってそのまま死んじゃうかもしれないんだからね!」
そ、そうだった、その事は頭に無かった。
そうなると……今戦えるのは俺とライムだけ……。
「……やるしか」
ないか、そう思って口にしようとしたら、誰かに抱きつかれた。
一体誰だ? なんて考える理由は無かった。
「クリエ?」
「きゅーらぁ……」
それだけしか言わない彼女は不安そうだ。
例え彼女が万全な状態でも戦う事は無理だろう……。
ゴブリンの巣穴とはそれだけ戦い辛い所だ。
理解はしている。
だけど、誰かが捕まっている可能性がある――。
「冷静になりな! 今キューラが突っ込んだ所で負けて、どうするっていうんだい!?」
「…………それは」
トゥスさんに怒鳴られ俺は思わず縮こまってしまった。
「そうだよ! 今は早く街か村に向かって連絡を取るの、それかそこでゴブリン用の武器を買ってそれから叩いた方が安全でしょ?」
「襲われたから他にもってのは分かる、だけど……今回はチェル達に俺は賛成だな」
カインにまでそう言われて俺はようやく自分が冷静ではなかったと悟る。
今俺が行っても慰み物にされ、奴らの数を増やす結果になりかねない。
「分かった先を急ごう」
心配ではあるがこれが確実……だよな?




