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325 ゴブリン?とライム

 叫び声が聞こえた。

 だが、近いはずのその声は段々と遠くなる。

 腕を掴まれている感覚も無くなっていく……。

 だが、辛うじて動かせた目で見ると其処には誰かが居る。

 俺はそれが誰なのか分からない。

 目が霞んできたのだ。

 ゴブリンの毒……油断をしていた。

 まさか、ここまで動けなくなるほどの麻痺毒だとは思わなかった。


 身体から力が抜け、俺は目を開けているのかさえ分からなくなった。

 ただ、分かることは俺はこのまま巣に持ち帰られ、彼らの子供を産む道具にされるのだろう。


「――――っ!! ――――――――っ!」


 何が起きているのかは分からない。

 だが、微かに感じるのは……暗闇から明るい場所へと出たようだ。

 明るさだけは辛うじて分かった。

 だが、それだけだ。


 身体を幾ら動かそうとしても動かないし、どうする事も出来ない。

 俺はどうなっているんだ?







 少女は無意識で手を掴んでいた。

 何故だかは分からない。

 ただ、彼女を見捨ててはだめだという本能だったのだろうか?

 だが、その先何をすればいいのか、何を叫んだらいいのか分からなかった。


「あーー!! ああああああ!!」


 ただ、何かを言わなければいけない。

 先に行ったあの人達に何かを伝えなければならない。

 それだけは理解し、彼女は言葉にならない声を大粒の涙を流しながら叫んだ。

 だが、目の前の少女は何かをされ、動けなくなっている。

 だというのに、何をすべきなのか分からなかった。

 そのもどかしさが彼女の涙をあふれさせた。

 そして段々と目の色が濁っていく少女を見て……。


 彼女の中で膨れ上がるなにかは彼女に重くのしかかる。


「お嬢ちゃん!! ちっ!! ここからじゃ狙えないか」


 誰かが声をあげた。

 だけど、それが一緒に居た人物だと気が付く事は出来なかった。


「キューラちゃん!? カイン君!!」

「無理だってあそこじゃ狭すぎる!! 剣じゃ二人を撒きこんじまう!!」


 あの二人もそうだ。

 一緒に居たはずだが、誰なのかは分からない。

 もう一人の幼子……いつも一緒に遊んでくれる子は真っ直ぐに彼女に向かって来ていた。

 そして、徐に服の中へと手を入れると――。


「キューラお姉ちゃんに触るな……」


 感情何て存在しないかのような声でそう言うと彼女の服からなにかを取り出し、ゴブリンへと投げつけた。

 その何かは眠っていたのだろうか? ゴブリンにぶつかると驚き暴れはじめる。

 だが、すぐに主人が置かれている危機的状況を察し――その身からゴブリンの身を焼く酸を出し始める。


『ギャアアアアアア!!』


 するとその痛みに耐えかねたゴブリンは叫び声をあげた。

 同時にキューラを拘束していた手が離れ……。


「今っ!」

「――っ!!」


 二人の少女はその隙を逃さずに少女を引っ張り出す。

 そして、二人は仲間達の元へと逃げる。

 するとそこに居た女性はキューラをすぐに診始めた。


「多分麻痺毒! 今薬を……!」

「薬何てまどろっこしい!! 早く魔法で」


 カインはチェルにそう訴える。

 しかし、チェルは彼の方へと目を向けると首を振る。


「なんでだよ!」


 納得いかない様子のカインは叫ぶが――それに対してはトゥスが答えた。


「魔法は万能じゃないよ、傷を治してももう死にかけてるなら意味はない、毒だって回り切ってるなら無意味だ」

「でも、ゴブリンが毒を使うなんて、と、とにかく――薬の方が……」


 彼女はそう言うと鞄の中から薬を取り出し、傷口へと垂らす。


「それよりも、カイン……あいつら巣穴から出てきたよ」

「ああ、分かった、巣から出てきたなら――!!」


 カインは眉を吊り上げ、剣を引き抜いた。

 狭い巣穴では彼の持つ剣は不利だ。

 しかし、外でなら戦える。


「良いかい、アタシの邪魔をするんじゃないよ」

「それは出来るかは分からない、やるだけやってみる!!」


 彼はそう言うと武器を手にゴブリンへと向かう。

 普通であれば群れで行動するはずの魔物だが、出てきたのは数匹だ。

 斥候か、それともただの待ち伏せで数を絞ったかは分からない。

 だが、賢い魔物であるゴブリンだ。


「油断はしちゃ駄目だよ!」

「分ってる!!」


 個々の力は弱く実力のある冒険者にとって左程脅威ではない。

 しかし、賢いという事は失敗から学び成長するという事だ。

 事実、冒険者にとってゴブリンは警戒すべき相手だが村人たちが被害にあう理由はゴブリンだから、簡単に追い払えた……と言うのが多い。

 一匹では確かに弱い魔物だ。

 だが、その一匹でゴブリン達は怒り狂うのだ。


「くそっ!!」


 カインはある程度進んだ所で急に止まった。

 その理由は簡単だ。


「な、なんだ? あれは……」


 ゴブリンの様な見た目をしているそれはゴブリンではなさそうだ。

 しかし、他に何と呼んでいいのか分からない。


「なんでこっちに来ない!」


 そのゴブリンは思ったより巣穴から離れない、何かを狙っているのだろうか?

 そして、巣穴は彼らのいる方へとぽっかりとその入り口を向いている。

 何かが光った気がし、カインは慌てて剣を振った。

 すると音が響き、彼は穴から矢が飛んできたのだと気が付いた。


「毒矢か!?」


 彼はそう言うとその場から遠のき、巣穴を警戒する。

 ゴブリンはケタケタと笑うだけだ。


「薄気味悪いね……でも、油断をするなと言うならこっちもだよ」


 トゥスはそう言って悪人染みた笑みを浮かべると懐から銃を取り出し、轟音と共に弾を撃ちだした。

 矢よりも速いそれは見事にゴブリンの頭を撃ち抜き、血と脳漿を撒き散らす。

 当然、近くに居たゴブリンは驚いたが、すぐにトゥス達を睨むと巣穴の奥へと潜っていく……。


「くっ!! トゥス!!」

「連発では撃てない、魔法と同じで便利すぎる物じゃないんだよ」


 焦るカインと冷静なトゥス。

 果たしてゴブリンは逃げたのだろうか? それとも……。

 カインは焦り、キューラの方へと目を向ける。

 そこには横たわるキューラと傷口に張り付いて治療をしているライム。

 そして、祈りをささげるチェルの姿があった。


「くそ……キューラは動けないか……」


 ゴブリンは賢いが故、自分達が生き残る術を知っている。


「それにしても、仲間を見捨てただって……? 何なんだあのゴブリンは」


 ゴブリンは仲間を大切にする魔物だ。

 だが、今明らかに死体を捨て逃げて行った……やはりゴブリンではないのだろうか?

 しかし、諦めるはずがない……カインはそう思い、辺りを警戒するのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] セーフ!キューラちゃんセーフ! [一言] oh...クリエ 早く何とかしないと (物語の前半と後半でクリエへのこの言葉の意味合いが大分違う)
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