324 ゴブリン?
俺達は警戒しながら進む。
すると目の前に馬車が見えた。
彼らは俺達の横を通り過ぎていく……。
変な目で見られてしまったが、此方が警戒していた所為だろう。
見た所酷く疲れているみたいだが……どうしたのだろうか?
まぁ、野盗ではないみたいだし、あまり気にしないでおこう。
それよりもゴブリンを装った野盗が居るかもしれないんだ、気を引き締めないとな。
そう思いつつ、前へと進んでいくと古い小屋を見つけた。
日はまだ高いが、昼時だ。
あそこで休もうかと思ったのだが……。
「先に進むよ」
トゥスさんは何時にも無くきりっとした表情でそう言いながら先を歩いて行く……。
「あ、ああ……」
俺は驚きつつも、彼女の後を追う。
そうか、小屋だから物陰がある……というか、小屋の中に入っていればこちらからは分からない。
あそこに野盗が居る可能性は高い。
高いんだが、なんだろうか? 何か引っかかる。
俺だったらあんな目立った場所に待ち伏せはしない。
他に物影が無いかを探す。
だとしたら、あの小屋には――。
「なぁ、トゥスさんあの小屋には野党なんかは居るとおもうか?」
俺は前を歩く彼女に問う。
彼女は首を動かし、立ち止まった。
「何を言っているんだい? いる訳ない」
「私もそう思う……あそこには居ない」
トゥスさんが言った言葉にファリスは同調する。
なら、あそこで休んでもいいのではないだろうか?
俺の素朴な疑問に対して答えてくれたのはファリスだった。
「でも、居ない事は誰でも分かる。だから、旅になれてない人はあそこで休む、襲われる可能性は十分ある」
そう教えてくれたファリスは淡々としゃべるが、どこか優し気だ。
そして、俺の腕にしがみ付き……。
「だから、先に行こう?」
と上目遣いで訴えてきた。
……うん、なんというか俺がロリコンだったらイチコロだろうな。
まぁ、可愛らしいのは間違いない、俺はファリスの頭を撫でてやる。
すると目を細めて気持ちよさそうにして彼女は「えへへ」と笑った。
「なぁ! あそこに小屋があるぞ! 休もう!」
「カイン君!? 今話聞いてたよね!? 聞いてたよね!?」
後ろの二人は何か騒いでいるが……。
呆れ顔のトゥスさんとファリスは同時に溜息をつき……。
「知らなくてもちゃんと話を聞くと聞かないでこんなに差が出るもんなのかね」
やれやれと言った表情のトゥスさんは疲れ切った様な表情へと変えていく……。
一方ファリスは見下すような目で彼を見て……。
「馬鹿につける薬はない」
その言葉、この世界にもあったんだな……。
……まぁ、うん……もしかしたら転生者が一部の言葉を広めたのかもしれないな。
「ほら、カイン君、私達なんか変な目で見られてるから!? お願いだからさっきの話を思い出してって!?」
そして、泣きそうなチェルを見ていつもこうだったのか? そうだとしたら彼女は大変だなとしみじみと思ってしまった。
暫く進むとちょっとした林があった。
だが、そこまで見通しが悪いわけではない。
ここに誰かが潜むというのは難しいだろう。
俺達はそう考え、前へと進む。
だが、ふと不安になった……。
小屋に林……林には動物も多く居るだろう、木の実だってある。
そして、雨風を防ぐ小屋。
残っていたゴブリンの痕跡。
それは恐らく野盗の物? 今考えてみればあそこには確かに隠れる場所が無かった。
そんな事を考えながら歩いていると皆は先に進んでいく。
「――――っ!!」
そして、俺が小さな岩の横を通り過ぎた時。
何かに引っ張られた。
慌てて確認するとどうやら岩の影にあった穴の中へと引きずり込まれている。
マズイ!!
そう思った時にはすでに遅く、口元は覆われてしまっている。
何とか拘束を振り解こうと暴れるも、脚に激痛を感じ思わず固まってしまった。
何が起きているのか? かすかに見える目で俺は自分の足を見た。
短剣が突き刺さっている……。
なんで? この手は人間の手ではない。
その手はまるで這うように俺の身体を撫でまわす。
特にふとももや胸の辺りをだ……気持ちが悪い……。
まさか、ゴブリン?
いや、ゴブリンは……人間には興味が無いはずだ。
『ケゲッ!』
笑い声が聞こえる……足が痺れて動けない……っ。
もしかして今まで見つからなかっただけで、襲われていた人は居たのだろうか?
そして、あの痕跡を残していた理由は痕跡を残す事でゴブリンがそんな事をするはずないと錯覚させるためだったのか?
裏の裏をかいたつもりが逆に……。
そう思いゴブリンへと目を向けた。
するとそこには――。
『ケゲゲ!』
なんだ、こいつは!? ゴブリン? なのか……?
「――っ」
とにかく逃げるために俺は唯一動いた右手を動かす。
手を伸ばし外へとすがろうと思った。
だが、意識はどんどんと遠のいて行く……恐らく短剣に毒が塗られていたんだろう。
ゴブリンは賢い、毒の調合ぐらいなら出来る。
そして、それは恐らく相手が抵抗できないようにするためだろう……。
殺すのではなく生かす。
その理由は容易く想像できる。
「?」
俺は誰かに手を掴まれた気がした。
それが誰なのか分からなかった。
だが逆光を浴びたその人は――。
「あーー!! ああああああ!!」
言葉にならない叫び声をあげていた。




