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32 囮になるのは……

 酒場の店主が数年前に看板娘を売った。

 その可能性が高いと語るトゥス。

 キューラはその事件を解決するために自身が囮になると言い出し――

「ま、待ってください! キューラちゃんがそこまでする必要はありませんよ!!」

「そうだね、相手は闇奴隷商と繋がっているかもしれないんだ。お嬢ちゃんは言葉遣いはあれだけど、見た目が良いんだ。そう言う闇奴隷が辿る末路は――」


 だからこそだ。

 俺は確かに女にはなってしまった。

 だが心は男のままだ、ましてや今もどこかで罪もない女の子が奴隷にされてるかもしれないんだ。

 放って置くなんてことは出来ない、だがそれはクリエも同じだろうし、依頼を受けたトゥスさんだってそうだろう……

 だが、彼女達を囮にするのは選択肢の中にはない。


「キューラちゃん分かってるんですか? き、危険なんですよ!? いやらしい目で見て来る男性に酷い事をされるんですよ!?」


 いや、まぁちゃんと理解はしてる。

 というか、クリエはちゃんと心配してくれてるんだな、うん……こいつが勇者で良かった。

 百合なのは……まぁ……気にはなるが、こいつなら手を出してくるなんて事は無いよな?


「そ、そんな事をされるならいっそ……私が……」


 いや、うん……撤回だ撤回!


「うへ、うへへへ……」


 というか、その顔は止めろ? 冗談無しに身の危険を感じる。

 俺が思わず身を引いたのとクリエの表情を見て呆然としているトゥスさんは俺の耳元に顔をよせ――


「こ、この勇者大丈夫か?」

「あ、ああ……これで多分いつも通りだと思う」


 そう言うと彼女はあからさまに嫌な顔をし――


「多分?」

「俺も出会ったのは最近なんだ……ただ、うん最初から大体こんなだったぞ」

「そ、そうかい……お嬢ちゃんも大変だな」


 同情をしてくれるのか、トゥスさん良い人なんだな……

 俺がそんな風に一人で感動をしていると突然抱きしめられ――


「う、うわぁああ!?」


 思わず悲鳴を上げた。


「キューラちゃんはあげませんからね」


 そして俺の真上でそんな声がし――っていうかそれどころじゃない! クリエの奴鎧を身に着けてないから……む、胸が……なんかおっきくて柔らかい物が俺の後頭部に当たってる。

 ク、クリエの奴……俺が元々男だって知ってるだろうに無防備過ぎないか!?


「うーん、そうは言われてもね、このお嬢ちゃんが居れば火には困らないし、上手く使えば賭けの勝率に関わるかもしれないしな」


 トゥスさんは何を思ったのか何度見ても悪人としか思えない笑みを浮かべ、そんな事を呟く。

 それってつまり詐欺に俺を使うって事か!? っというか、クリエが更にきつく抱きしめて来てるんだが!?

 た、確かにこれは嬉しい嬉しいが、俺の心臓が持たないっての!!


「は、離せって! クリエ!!」

「だ、駄目です……キューラちゃんは……」


 そんな、寂しそうな声で言われるとこれ以上何も言えないだろうに……あーもう!!


「俺はお前の従者だ……それに、目的だってあるだろ! 俺は自分で決めた事をあっさりと諦めるつもりはない!」


 魔王の事は伏せておきながらそう言うと何故かクリエは更に強く拘束をし――


「うへへへへ」


 いや、嬉しかったのか? だとしてもそのうへへって言うのはどうなんだ? いや、クリエの笑い方だって言うのは理解はしているが……


「ハッ! クククク、冗談だよ、冗談……あまりにも必死だったからからかって見ただけさ……」


 この野郎、トゥスさんはやっぱり良い人ではないな……


「所で潜入をするっていうのはアタシはやっぱり反対だよ」

「そうは言っても他に方法があるのか? 裏の人間を買うとしたら相当金が必要だ……それに利益がある方につくであろう奴らを信用することは出来ないぞ?」


 この場合俺達に付くより、奴隷商についた方が良い。

 その理由は勇者の手伝いをしたと言うのは確かに箔にはなるだろう……

 だが、裏の人間ってのは平気で人を殺せる連中のはずだ……俺の勝手な考えに過ぎないが、もし本当に闇奴隷商人が居るならそっちに付いた方が後々の商売や駆け引きで有利になるのは間違いが無い。

 何せ勇者がいつでも話を聞いてくれるとは限らないんだからな。


「それに何も無策で入る訳じゃない……」

「何か、あるって事ですか?」


 クリエの言葉に俺は頷く……

 このままでは話は平行線だ……二人を納得させるにはそれなりの手が必要なんだが、俺はシェート先生から受け取った本を取り出す。


「それは学校の先生にいただいてた本ですよね?」

「ああ、確かこの辺りに……」


 先程目を通した時には攻撃魔法にばかり目が行っていた為、あまり詳しくは見ていなかった。

 だが、一つ気になる魔法があったんだ。


「っとコレだ!」


 魔法の名はドール、効果はそのまんま人形を作り出す魔法だ。

 この魔法によって作られた人形は術者の魔力によるが最長5日間はその形が崩れることは無い。

 また、その人形は術者の意志を他者へと告げることが出来る。


「便利な魔法だな……」

「で、でもこれ上級魔法と書いてありますよ? キューラちゃんは卒業見込みではなかったんですよね?」


 そ、それが問題なんだよな。

 俺が使えるのはあくまで初級……それと中級をかじった程度だ。


「なんだ? つまりお嬢ちゃんはベントの学生さんだったって事か?」

「そ、そうだったんだ」

「だとしても上級魔法なんてそれこそ天才じゃなきゃ扱えない……」


 ま、まぁそう言われても仕方が無い。


「だけどさ、これさえ使えれば危なくなったらクリエ達に伝えられるだろ?」

「出来れば……ね、確かにお嬢ちゃんの見た目から判断して魔力は高い……魔法の腕もその歳じゃなくても相当だ」


 おお、高評価……まぁ、本来コボルトを丸々包むような炎を出すフレイムで煙草の火をつけたからかな?


「だが、上級魔法ってのはそれだけでできる訳じゃない」

「そ、そうですよ? 失敗したら無理に魔法を使おうとした反動で体が痛くなりますよ?」


 それは分かっている。

 だが、他に方法があると言うのだろうか? 俺は女の子を囮になんて出せない。

 いや、その前によくよく考えたら勇者であるクリエは勿論、死神何て呼ばれているトゥスさんは警戒されてても当然じゃないか?

 他に囮が出来そうって言ったら後はチェルぐらいだが、彼女が戦っている所を俺は見ていない……恐らくは神聖魔法を使うのだろうけど、魔法を封じられたら手が無いなんて事もあり得る。

 それ以前にいくらなんでもそんな事を頼んだらカインが黙ってないだろう。

 だから、ここはこの魔法に頼り、俺が潜入した方が手っ取り早いって訳だ……


「やっぱり直接ぶっ叩いた方が早いね――」

「ちょ!? 待て待て待て……ええっと……」


 属性は地……人形の形は術者のセンスが問われるか……


「……キューラちゃん?」


 物は試しだ!


「――ドール」


 魔法を唱えると机の上に土塊が現れ、それは徐々に形を作って行く……

 造るのは手のひらサイズのデフォルメされた人型の人形。


「……なっ!?」

「………………」


 やはり無茶だったのだろうか? 魔法は問題なく発動はしているが体が痛くなってきた。

 だが、人形の方も何とか仕上がったようで――


「――痛っぅ……」


 久しく感じなかったその痛みに俺は顔を歪めつつ、人形を手に取るとクリエへと手渡す。


「ひ、人の形ですか?」


 俺は黙って頷き、ドールの魔法がちゃんと出来ているかを試す。


『どうだ? これなら問題は無いだろ?』

「「――――」」


 二人の女性は余程驚いたのか呆然としつつ俺の作った人形を見つめていた。

 いや、魔法が上手くいったのは俺自身驚いてるからな? というか身体が……痛い……

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