324 ゴブリンへの恨み
ゴブリン、それはゲームや物語においては小鬼と呼ばれたりし、雑魚敵の印象がある。
だが、この世界においてはスライムが恐ろしい魔物であるように俺の知っている生態とは違う。
普段は温厚で人里には顔を出さない彼らは油断はできないんだ……賢く、群れをなすから強い。
いざ、危険が迫れば彼らは道具を使いこなし……人々を襲う。
その上、彼らは仲間意識が強い。
対抗し、戦えば群れ総出となって報復に来るだろう。
そうなれば当然……小さな村何てあっという間に壊滅だ。
いや、村じゃなくても街でさえ壊滅する可能性がある。
この世界の眠れる獅子、そう言っても過言ではないだろう。
そして、トゥスさんが見つけた後。
紛れもなくゴブリンの物なのだろうか?
「これは流石に放って置けないね」
やけに険しい顔だけど……。
エルフとゴブリンは昔から仲が悪いのか? そんな話は聞いた事が無いが……。
容姿端麗なエルフ。
醜悪な見た目のゴブリン……。
二つの種族は元は一つだったと聞く、だが、ゴブリンはエルフの子供が死に魂が汚された関係でそうなるという話を聞いた。
もしかして、それでエルフはゴブリンが嫌いと言う事もあるのだろうか?
だとしたら納得だ……意外とエルフらしい所があったんだなトゥスさん。
「奴らの所為で、勝ち越しだった勝負が無しになった事があるからね、仕返しをしてやらないとね」
「…………」
なるほど、ただの駄目エルフだった。
「勝負? 勝負ですか? 狩りでもしてたんですか?」
トゥスさんの事をあまり知らないチェルは首を傾げつつ彼女に問う。
カインはカインで彼女の話に興味があるのだろう、少しわくわくとしていた。
だが、帰って来た答えは俺の予想通りだった。
「ん? 何言ってるんだい、勝負と言ったら賭け事だよ、後もう少しで負け分を取り戻せたところだったのにね、邪魔をされたんだよ」
大層怒っていらっしゃるようですが、俺にはしょうもない事に聞こえるんだよなぁ。
俺は引きつった笑みを浮かべ「ははは」と笑う。
するとファリスは大きなため息をつき……。
「くだらない、賭けなんて負けるのが当然なのに」
ファリスはファリスで年齢とは思えない冷静な判断をするな。
まぁ、賭け事をそういう風にとらえるのは良い事だ。
下手に手を出さないで済むからな。
「何言ってるんだい!? 一晩で大金を稼げるんだよ?」
「いや、負けたら1ケートも無くなる可能性だってあるだろ!?」
彼女の言葉に俺は思わず突っ込みを入れてしまったのだった。
俺は溜息をつき、辺りを見回す。
今は何もいない様だが、油断はできない。
何せゴブリンは小さいからな。
だからこそ、人が想像しない所に入り込むし、そこで待ち伏せもする。
だが、一つ疑問があった。
「そう言えばなんで証拠が残ってたんだ?」
ゴブリンは賢い、なら証拠をそう簡単に残す物なのだろうか?
俺はトゥスさんに尋ねると彼女は――。
「確かに、そうだね……」
「ゴブリンは賢い」
そう呟いたのはファリスだ。
そう言えば、彼女はゴブリンに守られていた。
その時も確かゴブリンがいる事は分かっていた。
恐らく彼女を助ける為にわざとそうしていた? もし、そうだったら……。
「警戒させるために証拠を残した? 何だってそんな事」
ゴブリンなら、やりかねない……この辺りに俺達の巣があるぞっと……だが、そんな事をしてなんになる?
ここは街道だ人も通る……なら、避けて通るのがゴブリンだ。
だとしたら、やっぱり特に意味はないのか?
確かにこの証拠に気が付かずに通り過ぎる者は多いだろう。
だが、トゥスさんのように気が付く人が居たら?
結局、探され退治されるか、冒険者を呼ばれるかとにかく彼らにとって不利益だ。
そんな事をするとは考えにくい。
「…………」
そして、この辺りには潜む場所はない。
見通しが良く穴も無い。
わざと足を止めさせ、狙うという事も出来ないだろう、そもそもする理由は?
「……一体なんだって言うんだ?」
俺は首を傾げる。
するとファリスは痕跡を調べ始める。
「一回見たよ」
「不安……」
トゥスさんの苛立つ声にファリスは淡々と答えた。
確かに、ゴブリンに関しては彼女の方が良いだろう。
何せ一時期一緒に暮らしていたんだ。
そう思ったのだが……ファリスはゆっくりと立ちあがると俺達に衝撃の事実を教えてくれた。
「ゴブリンじゃない」
「は?」
それはトゥスさんの判断を根本的に崩すものだ。
「ゴブリンのようだけどゴブリンじゃない……多分人」
「人……人だって!? 何だって……」
そこまで口にして、俺は気が付いた。
人がこんな事をする理由……ゴブリンを警戒させておいて何かをする。
つまり……。
「野盗か? ゴブリンを警戒させて通りがかった人を襲うつもりか?」
俺がそう言うとファリスはゆっくりと首を縦に振った。
「多分」
どうやら彼女の判断もそうらしい。
俺はカイン達に目を向けると二人に警戒するように告げるのだった。




