322 ファリスの料理
食事の方だが、ファリスがあの後「邪魔したら、怒る」と口にし、チェルは渋々下がってくれた。
これで普通の食事にはありつけそうだ。
多分だが……。
俺達はファリスの料理が出来あがるのを待っていた。
少し時間はかかったが、どうやら出来上がったようだ。
「良い匂いだな」
俺は思わずそう口にした。
近くに居たクリエも匂いに釣られて料理の方へと向かっていく。
その様子はお腹を空かせた子供の様でもあった。
そんな事を考え少し笑いながら俺も彼女の後をついて行く。
と言っても歩く距離はそんなにない。
俺達が前に来るとファリスは満面の笑みで、料理を差し出して来た。
鍋は……さっき匂いがついてしまったとかで今度は炒め物。
時間も遅かったから、ステーキだ。
これなら時間もかからなくていいという判断だろう。
実際、腹も空いてるしこれはありがたい。
「色々工夫した」
そういや確かに時間がかからない料理とはいえ、ステーキにしては少し時間がかかってたな。
そう思いながら俺はそれを口にする。
するとハーブの香りと肉のうまみが口の中に広がった。
「ん? これは美味いな!」
思わず口にしてしまったが、美味しい。
「これはあれだね、魔大陸の香草焼きかい?」
香草焼き……なるほど、それでハーブの香りが……。
俺は納得するとファリスはトゥスさんの方へと目を向けず俺の方を見ながら答える。
「魔大陸の家庭料理、美味しい?」
そうだったのか、これが家庭料理とは……なんか羨ましいな魔大陸。
そんな事を考えつつも俺は頷き。
「さっきも言ったが、美味しいよ、料理が上手いんだなファリスは」
「えへへ……」
はっきりともう一度言うと彼女は嬉しそうに微笑んだ。
それを見てからもう一口、食べてみるとやはり口いっぱいに肉の味が広がってくる。
だが、それは香草でさっと消えていきくどくない。
いくらでも食べれそうだ。
「本当だ、美味しい……ね、ファリスちゃん今度作り方教えて?」
「……え?」
ファリスがまた固まってしまったが……チェルにこの料理は作れるのだろうか?
いや、無理だろう……。
そんな事を考えながらの食事はあっという間に過ぎ、夜は更けていく……。
俺は静かに寝息を立てるクリエの横で考えていた。
これから、どうなるのだろうか?
先輩の代わりにクリエの従者になり、旅をし……彼女の悩みを知った。
このまま魔王を倒して終わり、そう思っていたのに……。
いつの間にか神大陸の反逆者だ。
魔大陸は奪い合いの世界だ……あっちに行けばそうは取られないのかもしれない。
だが、神大陸は違う。
しかし、そんな中ノルンと出会い……彼は死に……。
彼の治めていたスクルドの領主は俺になった。
魔王にでもなってやる! そう決意した日は決して昔ではない。
今でもクリエの為になら魔王になって魔大陸を支配してやるという意気込みはある。
だが、今俺は神大陸にあるスクルドの領主だ。
「……なんか色々あり過ぎだな」
俺はそう口にし、苦笑いを浮かべる。
信用、信頼されるのは正直言って嬉しい。
だが……俺なんかに本当に務まるのだろうか? いや、駄目だ卑屈になっても何も解決しない。
今は何をすべきかを考えなければならないんだ。
こうしている間にも兵達はクリエの為に聖女の情報を集めてくれている。
そんな彼らの住む街を貧困と言う被害に陥れてしまうのは駄目だ。
連れてきた奴隷兵達もあの戦いの後、田畑を耕したり、狩りをしたりして街を支えてくれている。
だが、それでは足りない。
いずれ食料はそこをついてしまう。
水の関係上今以上に田畑を発展させるのは難しい……。
やはりどう考えてもあの河からの水、それに貯水庫は欲しい。
そして、飲み水にするためにも安全を確保するためにもスライムの力が必要だ。
俺はクリエの腕から必死に出てきたライムを見つめる。
どうやら、寝ている時に抱かれるのは嫌みたいだ。
そんなライムを指でつつきながら俺は呟いた。
「…………まさか、ライムの時とは違って自分から使い魔を求めるとはな」
『………………』
ライムはぷるぷるとしながら、何かを訴えてくる。
賢いとはいえ、俺が自ら求めてスライムを捕まえに行こうとしているのが不安なんだろう。
「大丈夫だ、俺の一番の使い魔はお前だよ、ライム」
そう言ってやると嬉しそうにぷるぷるとしたライムは俺の方へとすり寄って来た。
本当にこいつは可愛いな。
「くすぐったいって、それにちょっと冷やっこい」
俺がそう言うとライムは残念そうに離れていく。
「嫌じゃないぞ? ほら、おいで……」
だが、正直にそう口にするとやはり嬉しそうに身を摺り寄せてきた。
実は水の事ははっきり言えばさほど問題ではない。
ライムが居るんだ、この子に任せればそれで暮らしていく分には問題は無いはずだ。
だが、いざ戦いになると足りなくなる。
そして何より、俺の傍にはライムが必要だ。
だからこそ、別のスライムを手懐ける必要がある……。
「適材適所ってやつだな」
俺がそう言うとライムは疑問を浮かべたのだろうか? ぴたりと身体を止めた。
「要するに、ライムにはライムの仕事があるって事だよ」
そんな事を口にしているとようやく眠気が出てきた。
俺はゆっくりと目を閉じ……。
「ふぁ……おやすみ、ライム……」
ライムにそう告げるのだった。




