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321 牛殺し

「……どうしたの?」


 手を洗い新た溜めて器によそったそれをスプーンにすくってから俺は固まってしまった。

 食べたらいけない。

 そう身体が拒否をするんだ。

 だが、これを作ったチェルはそんな事を知る訳もなく、疑問を浮かべている。

 早く食べてこの状況を打破したい。

 そう考えるも……。


「…………」


 その臭いを嗅ぐと喉が焼けるような錯覚を感じ、俺は腕だけじゃなく身体が固まってしまうのだ。


「う……ぐ……」


 なんとか口を動かそうとするが……。

 動かない。


「もう、遊ばないの! それに皆も何処に行ったのか……」


 そう言えば、この場にファリスもトゥスさんも居ない。

 いるのは倒れているカインと俺、そして……クリエにチェルだ。


 クリエは寝てるみたいだが……まさかこの料理を食べてはいないだろうな?

 なんて不安を感じたが、今はそれどころでは無い。


「クリエさんもなんか食べる前に急に寝たし」


 なるほど、恐らく彼女なりの防衛反応が働いたんだろう。

 一つ不安が取り除かれ俺はほっとした。

 だが……どうする? というか……。


「ファリスは何処だ?」


 俺は仲間である彼女が居ない事に疑問を感じチェルに尋ねる。

 確か、手を洗いに行く前はいたはずだ。


「何でも用事があるって……何の用事なのかな? もう暗くなるんだから子供が一人で出歩くには危ないのに!」


 怒っていらっしゃる。

 しかし、そうか……ファリス。

 君は逃げたんだな……。

 俺は涙を流し……クリエを見つめた。

 まだ口にはしていないが分かる。

 この料理は危険だ……食べたら死ぬかもしれない。

 何故なら今現在も喉が痛くなってきたからだ。

 俺は……ここで終わりなのだろうか?

 そんな事を感じつつ、意を決してスプーンを口へと近づける。

 だが、身体が拒否をしているのだろう、口へと運ぶ動きはやけに遅かった。


「…………」


 チェルはじっと俺の事を見つめてくるが、正直やめてほしい。

 というかまだ口に入らない……どうしても身体はこれを食べたくないと言っているのだろう。

 そんな事を考えていると――。


「キューラお姉ちゃん!」


 ファリスの声が聞こえ、俺は振り返る。


「キューラ!! やばい、口にしてる……まずいよ!!」


 おまけにトゥスさんも来た。

 というかまずいから逃げたんじゃないだろうか?

 そんな事を考えていたのだが、彼女達の後ろを見て俺は慌てて立ち上がる。


「んな!?」


 巨大な牛がこちらに来ているではないか……俺は慌ててクリエを抱きかかえるとその場から逃げ――。


「チェル! 逃げろ!」

「う、うん!」


 チェルに指示を出した。

 すると牛は料理に突っ込んでいき……。


「モオォォォォォォォォォォ!!」


 という雄たけびを上げ暴れ始めた。


「おおお!? あ、危ない!?」


 当然、俺達は避難したが、牛よ……何故火の近くに寄って行ったんだ?

 疑問を感じながらも、見ていると暴れていた牛はその動きがだんだんゆっくりになっていき……。

 やがて、大きな音を立て、地面へと倒れた。


「………………」


 見てみると痙攣している様でぴくぴくと動いている。

 どうやら、料理を浴びてしまったみたいだが、外傷は火傷以外には見られない。

 という事はチェルの料理はとても強力な物らしい。

 これを武器に使えばきっと凄く強い武器になるんだろう……って俺は衝撃を受けてしまった。


 と、とにかく……。


「ああ、折角の料理が……」

「と、とにかく撒き散らされた薪を集めよう、このままじゃ火事になりかねないぞ!?」


 俺はそう言って慌てて薪を回収する。

 幸い、小屋の方には飛んでなかったし……小屋が燃えてしまうなんて事は無かった。

 しかし……。


「この牛どうする?」

「ご飯を台無しにしたお仕置きにちゃんと美味しく作ってあげるよ?」


 チェルはコメカミ辺りをぴくぴくとさせながらそんな事を言うが、俺は正直もう勘弁してくれと思ってしまった。

 牛でさえ倒れてしまう料理を俺が食べて生き残れる自信がないからだ。


「そ、そうだ! 牛なんだ! 特別な味付けをせずとも焼いて喰ったら美味しいんじゃないか?」

「丸焼きかい? 悪くはないが、時間が掛かるんじゃないかい?」


 おい、トゥスさんそもそも何でここに牛が連れてこられているんだ?

 というか、そんな事を言ったらまたチェルさんがやる気を出してしまうではないか……。


 俺は彼女を睨むと彼女は視線をそっとずらす。

 ああ、この人は……。


「あたしが作る……」

「え?」


 ファリスが名乗り出るとチェルは当然眉を歪めた。

 だが……。


「キューラお姉ちゃんに食べて欲しい……」


 ファリス……そうか、その手が……。


「ああ……うーん、分かったよそう言う事ならファリスちゃんに作ってもらおうか?……でも私もお手伝いするね」

「……え!?」


 どうやらファリスも素で驚いてしまった様だが……頼むから、それはやめてくれ……。

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― 新着の感想 ―
[一言] ( ゜д゜)ハッ! 魔王にチェルの飯を盛ればいいのでは!?
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