317 老剣士?
さて、俺はなんで老人に手を取られ、こんな目に合っているのだろうか?
疑問に思いつつ、大事そうに俺の手を掴んでいる爺さんを見る。
「だ、大丈夫だとは言ったが……きゅ、急に痛くなってきたわい……どうか施しを……」
「あーチェル……」
「あ、う、うん!」
痛みがあるなら魔法の方が良いだろう。
俺はそう思い彼女を呼ぶ。
すると老人はちらりとチェルの方へと向き。
「おお、また美人さんじゃな!」
「ひ!?」
俺から手を離し立ち上がると満面の笑みを浮かべチェルへと近づいた。
なぁ、この爺さん実はどこも痛くないんじゃないか?
「おい爺さん、絶対痛いの嘘だろ?」
それを感づいた様子のカインがそう言うと彼はカインを睨み。
「このおいぼれになんて言う事を……まったく最近のガキは礼儀がなっとらん、それとお主……油断も隙も多すぎじゃ……死ぬぞ?」
「……なんっ!?」
「まて、カイン! 爺さんも初対面でそれはないだろう?」
っと危ない危ない。
俺は彼らの間に入り込み両手を横に広げた。
「頼むから、待て、待てって……」
カインは納得いかない様子だが、しっかりと待ってくれた。
そして、爺さんの方は何故か勝ち誇った様子だ。
何故そんな表情を浮かべるのか俺には理解できないが……。
「とにかく、何かしてしまったのなら謝る、けど俺達は急いでるんだ」
怪我が無いようならそれで良い。
俺はそう思う事にしこの場から立ち去ろうとした。
すると――。
「うぐッ!? ぐぐぐぐ……こ、腰が腰が割れそうじゃ……」
皆でそろって歩き始めた所、後ろから聞こえてきたのはそんな声だ。
正直言って面倒なのに目を付けられた。
そうは思ったが、放って置く訳にもいかないだろう。
何故ならクリエが不安そうに俺と老人へ目をキョロキョロとさせてるからだ。
俺は溜息をつきながら老人の元へと再度向かう。
彼は嬉しそうな表情で俺を見てきた。
「……やっぱり優しいお嬢ちゃんじゃな」
「……で、本当に腰が痛いのか?」
俺がそう言うと首にひんやりとしたものが当てられる。
「キューラお姉ちゃん!!」
同時に殺気を感じ俺は動けなくなってしまった。
何が起きたのかさっぱり分からなかった……。
恐る恐ると横を見てみると首にあてられてるのは杖だ。
「ワシが本気じゃったらお主は死んでおるよスクルドの幼い領主よ」
「…………っ!?」
マズイ、そう思って俺は身を引こうとしたが、動けば危険だと身体が判断して動けない。
いや、恐怖で固まっていると言っても良い。
「――殺す」
すると、殺意をむき出しにしたファリスが老人へと鎌を振り下ろす。
しかし、老人はそれをいとも簡単に躱し……。
「ほっほっほっ! 威勢の良いお嬢ちゃんじゃ……それによくわかっておる直前まで殺気を抑えておったな?」
と笑うのだった。
一体この爺は何者だ?
ファリスは決して手を抜いている訳じゃない。
寧ろ本気だったはずだ。
なのに爺さんは傷一つない……どういうことだ?
いや、避けたのだから傷がある訳が無いのだが……。
「何なんだよこの爺さん」
カインも剣を構える。
だが、爺さんは動じないどころか、カインを睨み。
「ほう、構えは良いじゃが……まだまだ子供じゃな……さっきも言ったがお主そのままではいずれ死ぬのう」
彼の言葉が終わるか終わらないか分からなかったが、カインはまるで風となった様に駆け――剣を振り抜いた。
先程はただの爺さんだと思ったが、今は剥き出しの殺意がある。
チェルもそれに気が付いたのだろうカインを止めようとはしなかった。
それにカインなら彼を倒すことが出来る。
俺もそう思った……しかし、剣は弾かれ宙を舞うと地面へと突き刺さる。
そしてカインは――。
「がっ!?」
苦し気な声を上げ、その場で膝をついた。
「カイン?」
彼の実力は知っている。
勇者と言っても良いぐらいの剣の腕だ。
なのに彼は今倒れてしまった。
「ッ!! トゥスさん!!」
こうなったら魔拳を使って倒すしかない。
俺はそう思い彼女へとサポートを頼もうとした。
なのにトゥスさんはそっぽを向き……。
「何してるんだ!」
「勝手にしな、爺相手に遊んでやる必要はないって事さ」
この人はこんな時に何を言っている!?
俺は苛立ちを覚えたが、大地を蹴り――詠唱を唱える。
「精霊の業火よ、我が拳に宿りて焼き尽くせ!!」
すると瞬く間に炎は腕を包み俺は爺へと向け拳を放った。
「おお、焚火じゃな暖かいわい」
そう言っていられるのも今の内だ! と思ったのだが、彼は――。
「じゃが、ちぃとばかし熱すぎるわい」
と言うとその杖で俺を殴り飛ばした。
悲鳴すら上げれない程の速さで一瞬何が起きたのか分からなかった。
その所為か魔拳は切れてしまい。
「ふむ……こっちは鍛えがいがありそうじゃな」
俺が立ちあがると老人は面白いと言ったように笑う。
「くそっ!!」
拳を構え魔法を唱える。
そうしようと思った時――ライムを抱えたままのクリエが間に現れたんだ。




