316 謎の爺
街から旅立つと門兵が敬礼をしている。
そりゃそうか、俺はこの街の領主になったんだからな。
「警備を頼んだ、もし有事の時は……」
「ハッ! フリン様、レラ様に従い民の安全を第一優先とします!」
恐らくノルンからそう教え込まれていたのだろう。
俺はまさに言おうとしていた事を先に言われ苦笑をしつつ。
「ああ、頼むぞ」
と彼らに告げる。
さて……。
「すっかり領主様だねぇ……偉くなったもんだ」
いや、そうは言われても、ちゃんとできているのかは分からない。
だが、ノルンの代わりとまではいわなくても彼らの安心に繋がっているのならそれで良い。
これは……ノルンやスクルドの皆への恩返しだ。
クリエをクリエを助けてくれた、な……。
「さぁ、行こう!」
俺はそう思いつつ、地図を確認し先を歩く……。
目指すは此処と同じファーレンの街、村の一つだ。
距離にして、大体三日……それなりに遠いが、街の近くに湖があり、そこにスライムが居る。
湖……か……そう言えばライムと初めて会ったのもそうだったな。
なんだか懐かしい気もするが、俺は――いや、俺達はそこを目指すことにした。
「街道があるし、迷う必要はなさそうだね」
チェルがそう口にし、俺は頷く。
すると――何故か嫌な予感がした。
「待てチェル!」
そう、その嫌な予感は確かに当たっており、俺は恐る恐ると声の主の方へと目を向けた。
彼は満面の笑みを浮かべ、何故か何処からか拾って来たのだろう枝を持っている。
「冒険者には道を決める時の手段があってだな!」
「いや、それは――」
嘗て彼らと出会った時、二人は迷子だった。
その理由は確か――。
「こう、枝を立てる!」
「カ、カイン君それは良いから、道なら分かってるから!?」
「手を離す、倒れた方向が俺達の行く道だ!」
カインは話を聞かずにそう言うと枝から手を離す。
すると、枝はスクルドの方を指し、倒れていくではないか……。
「フレイム……」
俺は枝を燃やし……カインは俺の方を信じられないものを見る目で見つめてきた。
「何をしてくれてるんだ!?」
「お前こそ何をしようとしてるんだ!?」
俺は彼の言葉にそう返す。
全くっと思いつつも俺は彼に告げる。
「今は冒険者じゃなく、領主とその仲間だ……目的地も進む道もはっきりしてる」
「…………そ、そうなのか?」
彼はチェルの方へと目を向ける。
当然チェルは頷き……。
「そうだね、そういう事になるよ?」
「そ、そうだったのか……!」
いや、寧ろさっきは何でそうじゃないと思ったんだ君は……。
まぁ、良いか分かってくれたなら。
「じゃぁ早速道を決めよう」
「何故お前はそうやって枝を取り出すんだ!?」
徐に取り出した枝を取り上げた俺はそれを折ると……。
「こっちだ、行くぞ」
「冒険しないのか!?」
「やる事があるんだって!!」
全く、彼の言う冒険とは迷子の事だろうし、無視するに越した事は無い。
残念がる彼を連れ、俺達は先へと進んだ。
俺達は暫く進んだ所で座り込む老人を見つけた。
この世界では別に珍しい事ではない。
老人の冒険者と言うのは多く居る。
あの老人が別に気になるという事も無かった……。
何故なら彼はちゃんと武器を持っていたし、冒険者としての装備はちゃんとしていたからだ。
何も持っていないのでは警戒する方が良いだろう。
だから……何も考えずに横を通り過ぎて行った。
すると――。
「いってぇ!? 何するんだ!!」
何かがぶつかる音とカインの叫び声が聞こえ、俺達は振り返る。
まさか、あの老人……野盗かなにかだったか!?
「カイン!! 大丈夫か!?」
焦り彼の方へと声をかけると老人は持っていた剣を鞘に入れたままカインの頭を殴っている。
「ちょ!? なんなんだ!?」
決して、なんというか……殺そうとして来てるわけではなないらしい。
というか、うん……。
「この! この! 羨ましい奴め! 見ててむしゃくしゃするわい!!」
どうやら、カイン一人に何故か怒っているようだ。
「――っ! あ、カカカカカイン君!? や、止めてください!」
ようやく正気を取り戻したチェルは慌てて老人を止めようとカインとの間に割り込んだ。
「チェル!? 危ない!!」
俺は思わず飛び出したのだが、老人はチェルを見るや否や――。
「ぐぬぅ!?」
変な声を上げ振り下ろした剣の無理やり軌道を変えようとし、その場に転んだ。
途端、俺はサァーっという血の気が引く音がしたような気がした。
老人の転倒だ。
幾ら冒険者だと言ってももしかしたら骨を折っているかもしれない。
俺は焦り――。
「じ、爺さん大丈夫か!?」
彼へと駆け寄った。
すると、差し伸べた俺の手をひっつかんだ老人は――。
「おお、可愛くてお優しい嬢ちゃんじゃ……爺は大丈夫だ、だが、そうじゃな……嬢ちゃんが打った所を撫でてくれるならもっと元気がでるんじゃが」
何を言っているんだこの爺さんは……。




