31 消えた娘
酒場を出たキューラはトゥスにより銃口を突きつけられる。
彼は彼女を探しに来た事を告げるとトゥスは謝罪し精霊石を格安で治す事を提案してきた。
しかし、彼女にはその前にすべき事がある様で……どうやら酒場に関係のある事の様だ……
「トゥスさん、それは一体……だと、良いんだけどって」
どういう事だ? 俺は気になり彼女の言葉を繰り返す。
すると、トゥスさんは加えた煙草へと指を向けた。
「フレイム」
その意味を察した俺は火をつけてやると彼女は満足そうに煙草をふかす。
「あそこは確かに酒場だ、でも栄えてたのは何年も前――看板娘が居なくなったのもその頃だよ」
「え? で、でも……それにしてはお店が……」
綺麗すぎる。
クリエはそう言いたいんだろう。
確かにその通りだ……俺が見た限りでは椅子も机も気になるほどボロボロではなかった。
「じゃぁ、その看板娘って……もう何処に居るのか分からないんじゃないのか?」
「それがつい最近その娘がね、見つかったんだよ」
は? 見つけた?
「その子は記憶をなくしちまってたみたいだけど、ずいぶんとボロボロの衣服をまとって奴隷をしてたそうだ……偶然、偶々親御さんの商売が成功して娘を探すために雇った冒険者が奴隷市場で貴族が連れているのを見つけたそうだ」
「奴隷市場……で、ですか? でもその子が居なくなったのは随分と前なんですよね?」
クリエの質問に頷いたトゥスは再び煙草をふかし……
「つまり、他の奴に買われた後だったって話だ。あまりにも面影があるから名前を聞いたら娘の名前だったって訳だ」
「…………その娘さんは奴隷商に捕まってた? でも酒場の看板娘だったんだよな?」
いや、まて……それも重要だが――
「それに、その冒険者はどうしたんだ?」
「報告をするなり消えたそうだ……自分達には力不足だってね」
なるほど、だからトゥスさんが調べているのか……でも、何であの酒場を見張っているんだ?
それも酒場から出てきた俺達へと銃を突きつけたんだ……いや、元よりそうかもしれないと思ってたんだ。
だけど、マジかよ……
「……もしかして、奴隷にしたのはあの酒場の主人だって言うのか?」
俺は声をひそめつつ聞くと彼女は瞼を閉じ、煙草の灰を地へと落とす……
行儀が悪いな……このエルフ……
「親御さんは貴族に髙い金を払って娘を買い取った……だから娘の記憶が戻ればそれも分かるんだが、それ以上に娘にこんな仕打ちをした奴が許せないってね、調べて欲しいってのか依頼なのさ……」
彼女は再び煙草を咥えると酒場を睨み――
「そして居なくなったのはあの酒場での仕事の後だ……あの店主が黒なのは間違いないとアタシはふんでるのさ」
彼女もまた声をひそめてそう言う、すると横から物音がし、俺達はそちらへと振り返ると横に座っていた黄金の瞳を持つ者、勇者であるクリエは眉を吊り上げており……
「……ません…………」
「ク、クリエ?」
俺は嫌な予感がよぎり彼女の名前を呼ぶ――
だが、彼女はその手を机へと乱暴に置き……トゥスさんの方へとその瞳を向ける。
「な、なにさ? あの店主を疑うなってんならそれは――」
「いたいけな女性を奴隷に何て許せません!! 今からあの店主に自分が何をしたのかを分からせに行きましょう!!」
「――は?」
…………はぁ……
「あのなクリエ、トゥスさんはそれを調べるためにあの酒場で張ってた訳だ……何もあの人が絶対悪いとは言えないんだよ……」
今ある情報ではあの酒場は何故か潰れていない。
そして、看板娘は仕事の日に居なくなった……そして奴隷になってしまっている。
はっきりってあの人が怪しい、十中八九黒だろう……それは俺でも分かる事だ。
しかし、そう言ったものの出てきた客に銃を突きつけるという彼女の行動は考え無しとも取れるが……
「お嬢ちゃんもそう思うか、なら、さっさとぶちのめしに――」
「まてまてまてまて……なんでそうなる!? まずは情報を集めないと駄目だろ!?」
もし無関係で彼が情報を握っていたとしてもだ。それを黒幕に握られており口にしたら命の危機に関わると言う事は十分あり得るだろうに……勿論、金を積まれて目がくらんで手を貸したって事もあるとは思うが……
「ならどうするって言うんだ? そもそもこれはアタシの依頼……手伝ってくれるのは嬉しいが、邪魔をするなら――」
「しないって……あの店主が本当に関わってるか、まずは其処を調べないと……」
しかし、奴隷商……か……あの人が直接市場に売りに出した訳じゃないだろう。
だが、関係があるなら面倒な事この上ない。
何故なら奴隷商とはこの世界で認められている立派な商売だ。
落ちた貴族、浮浪人、犯罪者そう言った人達が奴隷となり衣食住を提供される代わりに働くといったものだ。
勿論、主人の趣味趣向のために買われる者も少なくはない。
だが、大抵は騎士や冒険者の荷物持ちだったり、戦えるものならば戦力として……知識ある物は貴族の手伝いなどを目的に買われる。
事実、学校にも奴隷はいたがその誰もが身なりを綺麗され、初めて見た時は奴隷と気が付かなかったぐらいだ。
「だが、な……相手は闇奴隷の可能性が――」
「だからこそだ」
そう、奴隷には正規の奴隷と闇奴隷がいる。
簡単な話、手続きを済ませていない者が闇だ……しかし、手続きと言っても焼き印一つ、簡単に偽ることが出来る上に奴隷の為にわざわざ動く者はそうそうそう居ない。
ましてやヤバい連中と繋がっていた場合下手に首を突っ込んだら不利になる場合だってあるだろう……
「でも、どうするんですか? 奴隷を買うお金は流石にありませんよ?」
クリエはにっこりと微笑んではいるが、怒りの為か声は震えている。
何故買うと言う発想に行きついたのかは謎だ。
だが、確かに買う訳にはいかないな……色々と手続きが面倒な上、勇者が闇奴隷に手を出したら問題だ。
なら――
「直接潜入するって言うのはどうだ?」
「ん? 潜入するって……アタシ達がか?」
目を丸めて驚いた彼女は煙草を口元から落とし、慌てて火を消す。
「で、でも……潜入って何処にですか?」
クリエの言葉に俺はニヤリと笑う……何処に何て簡単な事だ。
例え乱暴者や百合でも女の子を危険な目に遭わせる訳には行かない、ましてやもうすでに被害に遭ってる人はいる。
そして、その人が売られた事を親が知らなかった時点で相手は闇奴隷商なのは確実だ。報復は怖いが徹底的に叩けばそんな気も起きないだろう……
「俺が奴隷になるんだよ」
「「はい!?」」
そう、俺なら男だ。
身体は女の子になってしまったがそれ以外の変化は特にない。
寧ろ魔法が以前より強くなった……つまり、今の俺は以前より強力な魔法が使え、スライムを従えている上に剣術もそこそこ使える魔法使い。
魔族の混血だから、商人が警戒するのはまず魔法だろう……
「俺がクリエに捨てられたという設定であの酒場に雇ってもらう……」
「き、危険ですよ! それに私はキューラちゃんを捨てません!! ずっと傍に置きますからね!?」
いや、そんなプロポーズみたいな事を言わんでも……
「だから、あくまで嘘だ嘘……ライムも居るんだ。こいつには身体を変えてもらって隠れてもらう、いざって時は護ってもらえば良い」
強引な手ではあるが、手っ取り早く情報が集まるはずだ。
なにせ、俺が潜り込む先はその娘さんが消えた酒場なんだからな……




