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309 目的は水

 体力の浪費は避けたい。

 必要のない戦闘は避け俺達は森へと向かう。


「ですが、何故森何ですか?」


 護衛であるバルは俺にそんな事を聞いて来た。

 確かに不思議に思うのは当然だ。

 普通なら田畑を増やす方が良いからな。

 だが、森に来た理由。

 それは……。


「ああ、目的は……」


 今俺達が居る街、そこからこの森は近い。


「スクルドは小さな街だ、だけど……この森なら近い」

「はぁ、確かにこの森に狩りに来るものは多いですが……」


 それは分かっていた。


「目的はこれさ……」


 俺はそう言いながら河へと指を向けた。


「河ですか?」


 そう、俺の目的は河だ。

 上手くすれば、森から街に引ける。


「そっか! 河から水を引いてそれを生活水……飲み水に……他にも農業に使うんだね!」


 チェルは納得いったかのような表情を浮かべる。


「そういう事だ。井戸を掘るのも同時に進める……だけど、河からも水を引いておきたかったんだ」


 水は生活において一番重要だ。

 人間は半分以上が水分で出来ているんだからな。


「何を言っているんですか!? 河の水ですよ!? しかも外からの水だとスライムやマーメイドが居る可能性があります!!」


 そう言われると嘗て何も考えずに水を飲んだのが恥ずかしくなってくる。

 と言うかクリエも何も言わなかったけど、今考えると恐ろしい事をしていたな。


「マーメイドが入って来れないよう小さな水路にするんだ、スライムは来てくれた方が好都合だよ」

「スライムが来たら好都合だって? キューラまさか……お前!」


 スライムと言う言葉を聞きカインは表情を変える。

 驚いているみたいだが……その通りだ。


「レムスは元々敵の使い魔だった……だけど俺達に協力をしてくれた。最初は命令だったが、最後は本当に俺に手を貸してくれたはずだ」


 そう、出来なくは無いはずだ。


「多分、俺には何匹かの使い魔を使役する力がある。ならスライムを手懐けて水の管理をさせる。それに街に居る混血や魔族は俺だけじゃない」

「……ラ、ライムだって運が良かっただけじゃないか!?」


 確かにそうだ。

 ライムは偶々投げた林檎をくれた物と勘違いし、懐いてくれた。


「無茶ですスライムですよ!? 危険な魔物なんですよ!?」


 バルは当然驚き、他の兵達もざわついた。


「でも、もしできれば水は問題ないよね?」

「ああ、最悪……たるかなんかに雨水を貯めて浄化させれば水は何の問題も無い」


 田畑の為にも水は必要だ。

 だが、井戸を作る為に水を掘りあてるには時間がかかる。

 しかし、今チェルが言った通りスライムが居ればどんな水でも飲み水に変えることが出来る。

 かと言ってライム一人じゃ浄化できる水にも限度があるし……なにより……。


「ライムにはやってもらわないといけない事がある」


 俺は持ってきていた林檎を鞄から取り出しながら手にそう口にした。


「そりゃそうだとは分かってはいるが、でも……いくらなんでもライムの様な馬鹿は居ないだろう!?」

「ライムは馬鹿じゃない賢いぞ」


 さらっと人の可愛い使い魔を馬鹿と呼ばないでほしいものだなカイン……。

 だが、彼らが心配するのも無理はない。

 そう簡単に魔物が捕まえられるのなら苦労はしない。

 ましてや、スライムだ……失敗すれば死ぬ。

 そう言っても良い魔物だという事は誰もが知っている。


「簡単ではないですよ!」

「分ってるさ、だけど水だけの為じゃない」


 そう、水だけの為なら素直に井戸を掘る方がずっと安全だ。

 寧ろ普通はそうする。

 だが、それでもスライムを選ぶ理由。


「スライムは強力な魔物だ。それを複数使役する街があったらどうする?」

「……へ?」

「兵力もあり、反乱の可能性もある、だがスライムが居ればそれだけ対処を考えなきゃいけない」


 強力な氷の魔法を使える術者が必要だ。

 スライムは水を吸えば大きくなる。

 そうなると当然凍るまでに時間が掛かるはずだ……流石にライム相手に試す事はしないが、普通のサイズでさえ魔法使いを数人集めて倒せるぐらいだしな。


「つまり、スライムを防衛にも使うって事?」

「そう、その通りだ……勿論最初は虚を突く事も出来る。まさか街にスライムが溢れてるなんて思わないだろうからな」


 俺の事は噂になっているかもしれないが、スライムを複数、使役するなんて事は考えないだろう。


「なるほど、ですがそれは」

「あくまでスライムを捕まえられたらの話だな」


 俺はそう言いながら河へと近づく……さて、ここの水は……。


「…………キューラ様?」


 やけに声色を低くしたバルの声を聞き、俺はしゃがみ込んだ所で止まった。


「……の、飲まないぞ?」

「ではどうやってスライムが居るのを確かめるつもりだったんですか?」


 うぐぅ!? そう言われると何も考えてなかった。

 というか、本当に水を飲めば分かるだろうとしか、考えてなかった。


「はぁ……分かりました、おい!」


 彼はそう言うと他の兵へと声をかける。

 そして――。


「水を沸かす準備を」

「沸かして飲んでわかるのか?」


 カインは疑問を浮かべるがそれに対しチェルは頷いた。


「味自体は沸かしてもスライムが浄化した方がおいしいみたいだよ」

「なるほど、そうだったのか……」


 そう言えばライムが浄化してくれた水を沸かした事は無かったな。


「そうだったのか……ではなく、普通に飲もうとしないでください!」

「も、申し訳ない」


 バルに怒られた俺はがっくりと項垂れ、謝る。

 すると兵士たちが何故か俺の方へと目を向け……。


「怒られて、しゅんとしている……なんというか……」

「ああ、新しい領主さまは可愛らしいな」


 いや、そう言われるのは若干というかかなり複雑なんだが……。

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― 新着の感想 ―
[一言] よく考えたら、女の子であるキューラちゃんが知れ渡りすぎて男に戻る方法が見つかっても戻るに戻れない説
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