307 技の開発
レラ師匠との修行の内容はこうだ。
基礎はもう良いとは言われたがやらない訳にはいかない。
量を減らす程度。
後は新しい技の開発……なんだが……。
「はぁ!!」
拳を振るい、すぐに足技へと変えた。
昔、ゲームか何かで見た技だ。
それを再現してみたのだが……。
「それも演武としては中々良い、だが、実際の戦闘で役に立つかは微妙だな」
「うぐ……」
何度か技を出してみたが、繰り返される師匠の手厳しい一言に俺は黙り込む。
確かにやる前にどうかな? とは思ったよ。
でも以前よりはるかに動ける身体なんだ。
一度ぐらいは真似をしたいじゃないか……いや、遊びでやってるわけではないが……。
「なかなかいい技が生まれないな」
「でも、難しいって……」
俺は思わず愚痴を言ってしまった。
だが、それも仕方がないだろう。
俺の知識では体術と言うのはゲームでしか知らない。
実際の戦いにおいて使ったのはこの世界に来て初めてやった事だ。
「最初は誰もがそうだ……きっとな」
「きっとって……」
俺はがっくりと項垂れる、するとファリスが俺の頭を撫で始め。
それに釣られたのかクリエも撫でてきた。
「あ、ありがとう二人共……」
「大丈夫、大丈夫」
ファリスは笑みを浮かべてそんな事を言うがクリエの方は黙り込んだままだ。
まぁ、仕方が無いとしても彼女の声も聴きたい。
って、そんな事を考えている場合じゃない。
「見るとキューラは無駄な動きが多い、確かに演武としては良い線を行っている。だがもっとシンプルで良い」
彼女はそう言うと木剣を握り人形へと向かって疾風の型を放つ。
ターグが使っていた技だ。
「これも、元はただの突進だ。大した技ではない」
「そうは言っても……」
俺は今の技でも特別な何かがありそうだと思ってしまうんだよな。
実際ただの突進と言われても……突進?
いや待てよ、確かにレラ師匠は人形に近づいて剣を振り抜いただけだ。
疾風の型とは言っているが……。
「構えは低くしていた。つまり……俺は速さに惑わされていたけどポイントは踏み込む力や重心か?」
「ポイント?」
彼女は首を傾げる。
ああ、そうか、分からないよな。
「コツとか重視する場所ってこと……」
「ああ、なるほど難しい言葉を知っているんだなキューラは……疾風の型は足の速さだけではなく身体の重心を生かした技だ」
やっぱりそうか、と言う事は剣じゃなくても出来るんじゃないか?
剣は重いからな……俺には剣を持った状態では出来なかったが……。
もしかしたら、素手なら?
俺は姿勢を低く保ち拳を構える。
自分の身体をバネの様にと意識しながら走り、人形へと拳を放った。
――遅い!
それが最初の感想だった。
だが――。
「なるほど……それは良いかもしれないな。改良の余地はまだまだあるが……」
レラ師匠は初めて技を褒めてくれた。
「疾風の型を体術に変える……確かに今のであれば武器が無くとも使える」
彼女は何度も頷いている。
どうやら一つ目の技はこれで良いようだ。
後は形にして体に覚えさせるだけ……と言ってもそれが一番大変そうだ。
そんな事を考えながら修行の時間は過ぎて行った。
夜、俺は少し考え事をしていた。
これからの事だ。
まず、この街は非常にまずい事になっている。
何がか? それは食料だ。
今までの兵だけじゃない、奴隷兵を連れて来てしまった。
戦力の増加は嬉しいがその分、食事が満足に取れなくなってしまっている。
今はまだ蓄えがある……だが、いずれ……いや、近い未来に蓄えは無くなってしまう。
そうなれば待っているのは餓死だ。
「畑を増やす……のは当然として、問題は収穫できるまで持つかどうかだ」
今現在の一日に使う量を考えると早く収穫できる物を植えたとしても追いつかない。
ましてや新しい畑で作物が育つかもだ。
残念ながら俺は農家ではないからそこはどうすればいいのかなんて分からない。
専門家に聞くか任せるしかないだろう。
だが……それ以前の問題なのだ。
「……どうにかして食料を手に入れないとな」
クリードからの支援は受けられない。
また他の国も駄目だ……なら、自分達で探しに行くしかないだろう。
「栄養は二の次だ。まずは餓死をしない事、出来れば保存が出来る食材の確保だ」
俺は地図とにらめっこをし、近くにある森へと目を向けた。
ここに何かあるかもしれない。
探しに行くしかないか……。
兵を派遣したい所だが、そうなると一人と言う訳にはいかない。
小隊が必要になってくる。
それに、彼らには聖女の行方なども頼んでるからな。
「自分達で行くしかないか、ファリス!」
俺はファリスの名を呼ぶ。
すると彼女は笑みを浮かべて近づいて来た。
「二日後、チェルとカインを連れてこの森に行ってみる、ファリスはクリエを頼む」
そう言うと彼女は頬を膨らませるが、今のクリエを外に連れて行く訳にはいかない。
「分かった……」
「良い子だ、ありがとう」
俺の願いを聞き入れてくれた彼女の頭を撫で礼を告げた。




