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30 酒場の外へ

 トゥスというエルフを探す為、酒場へと訪れたキューラ達。

 だが、最初に訪れた酒場は人が居なく、聞けば看板娘が消えたと言うではないか……

 しかし、店主は落ち着いており、キューラはその店主に疑問を感じ早々に酒場を去る事にしたのだった。

「じゃ、じゃぁ失礼します!」


 俺は店主にそう言うとクリエの手を取り、酒場の外へと向かう。


「キュ、キュキュキュキューラちゃん!?」


 クリエは何やら慌てているが、そんな事は知った事ではない。

 とにかくあの店主は怪しい……それだけが気になるんだ。

 今は外に出て、トゥスさんを探して精霊石の修理の目処が立ったら、この店の情報を集めよう。

 そんな事を考えていると――ガチャリと言う音と共に俺の頭に何かが突き付けられた。


「なっ!? だ、誰ですか!!」


 クリエは声を上げ――俺はというと余りにも突然の事に冷や汗を流しそちらの方へと目を向ける。

 するとそこに居たのは――


「ん? お嬢ちゃんは……」

「ト、トゥスさん?」


 火のついていない煙草を咥えたまま俺へと銃を突きつけるエルフの女性トゥスだった。


「な、ななな何をしてるんですか!!」


 これにはいくら相手が女性だとは言えクリエも怒ったようで更に声を荒げ――


「ん? アンタ……勇者? なんだって勇者がこの街に――」


 そう疑問を投げかけながらもその銃は動かしてくれない。

 なんだか良く分からないが、丁度良いのか?


「それはともかく、トゥスさんを探してたんだ!」


 俺は恐怖でバクバクとなる心臓を押さえつつ、そう告げる。

 するとようやく銃口を放してくれた彼女は眉間にしわを寄せ――


「アタシに用? 一体なんだい?」

「実は――俺達の止まってる旅館の精霊石が壊れたんだ……修理できないか?」


 そう言うと彼女は眉間に寄せた皺を戻すと口角を上げ、笑みを浮かべる。

 何処か悪人ぽい笑顔だが、根は悪い人ではないだろう……と思うんだが――


「クリエは何をしてるんだ?」

「いきなり銃を突き付けられたんですよ!? キューラちゃんを守ってます」


 いや、だからって抱きつくことは無かろうに……いや、俺も恐怖で固まってはいたんだが……


「ははははは!! 悪いね、でも今回は先客がありだ……」

「え?」

「でも、ま……脅しちまった訳だし、今回は特別に仕事が終わったら1000ケートで請け負ってやるよ」


 せ、1000ケート!? いやいや、精霊石って確か目玉が飛び出すほどの代金のはずだ。

 その修理も勿論1000なんかでは済むはずが無い。


「い、良いのか?」

「ああ、少しでも変な態度取ってたら撃ち殺してた所だ。命に代金はつけられないからね、せめてものお詫びだよ」


 彼女はそう言うと俺達が出てきた酒場へと目を向ける。


「美人さんですけど、信用したくないですね……」

「悪い悪い、でもこっちも依頼なんだ……仕方が無かったって事にしてくれないかね?」


 依頼? 依頼で俺に銃を突きつけた? つまり、俺を狙ってた?

 いや、違うな……もしそうだったら……とっくに撃たれてるはずだ。

 つまり、トゥスさんは俺ではなく別の誰かを狙った。

 それも何かの目的があったはずだ。

 だが、俺達は変な行動……というか彼女に目をつけられる行動は取っていない。

 寧ろ彼女を探しに来たのが目的だ。


 いや、待てよ? 何でトゥスさんは俺達を襲った? 何か彼女がそうする条件があったはずだ……もしかして――


「……トゥスさん、話があるんだ。何処か別の所で話せないか?」


 俺はそう言いつつすぐ傍にある酒場へと目を向ける。

 すると彼女は何やら複雑そうな顔を浮かべ――


「いや、これはアタシの依頼でね、今後数日の酒代が……」

「俺達は別に金はいいから、頼む――」


 もしかして、だが……彼女の依頼はこの酒場と関係があるのではないか?

 いや、此処で張っていたとしたなら、間違いはないだろう。

 だが、それでは意味が無い、何故ならここは大通り……先ほどの彼女の行動は当然見られており、此方へと注目をしている人が多い。


「……何かあるなら話しておいた方が良いとおもう……もし話さずに逃げられても文句は言えないぞ?」

「キューラちゃん?」


 クリエは先程の主人に変な所は見つけられなかったのだろうか?

 不思議そうに俺の名を呼ぶが、トゥスさんの方は溜息をつくと――


「どんな話だい?」

「それは、店で話す」


 そう告げると彼女は面倒そうに一つの店を指差した。

 目を向けるとこの酒場を見張るにはうってつけの場所だ。

 やっぱり、この酒場には何かがあるって事か……恐らく消えた看板娘に関する事じゃないか?


「キューラちゃん、その私……」

「クリエもさっきの事は忘れろ、この人は別に悪気があった訳じゃない」


 クリエが心配してくれるのは素直に嬉しいが……そう思うと何か恥ずかしくも思うな。

 今まで男だったし、ミアラ先輩がこうやって抱きついてくることは無かった……じゃなくて、と、とにかく今は話だ話!


「じゃ、じゃぁトゥスさんそんなに時間は取らせないから」

「ああ、早めに頼むよ……」


 彼女は銃をしまい込み、先程自身が指定した店へと向かう。

 俺達はその後をついて行く――


 あの酒場は一体なんだ? 消えたって言うのはやっぱり……嘘だったのだろうか?

 そう思いつつ辿り着いた店で席へと座ると――俺達が知り合いであったと気が付いたのだろう街の人達は暫くこっちへと注視していたが次第に目を逸らし、いつも通りの日常へと戻って行く……

 とりあえずその事にホッとし、俺は近くに居た店員さんを呼び寄せる。

 店に来て机の上が何も無いんじゃかえって不自然だろう……


「ご注文は何にいたしますか?」

「えっと、取りあえずお茶を……3つ」


 店員さんは笑顔で頷くと注文を伝えに向かい……俺はクリエへと目を向ける。

 そこには明らかにトゥスさんを警戒している百合勇者の姿があり、こいつ別に誰でも良いって訳じゃなかったんだな。


「で……あの店の何かを知ってるのか?」


 悠長な事を考えていると痺れを切らしたのかトゥスさんが本題へと入ってきた。


「あ、ああ……看板娘が居なくなったって聞いた」

「…………居なくなった、ね」


 鼻で笑い、そう呟くトゥスさん。

 すると、先程注文をしたお茶が俺達の目の前へと置かれた。


「取りあえず、追加があったらまた呼びます」

「はい、ごゆっくり!」


 俺の言葉にまたもや笑顔で対応する店員さんが去るのを確認し、俺はようやくトゥスさんに聞いて見る事にした。


「その様子だと看板娘は居なくなった……消えたってのは嘘なのか?」

「――え!?」


 その言葉に驚いたのはクリエで――


「だってあの店主さん」

「ああ、そう言ってた。だが、普通なら慌てるだろ? その子が目当てで来る客が居てもおかしくはない、なのにその子が消えたんだ。それなのにあの態度、非情だって言われて客が離れるのは当然だ」


 そう、普通ならその子の身を心配する。

 本当に身の安全を心配しなくとも客にはそう取り繕っておくはずだ。

 だが、あの店主は不自然なほどに落ち着いている……いや、まるでその事に興味が無いかのようだった。

 まるで消えた女性や酒場の経営なんて気にしていないかのようだ……


「あの店主はもしかして貴族かなにかか? 金が余ってるならあそこまで無気力なのも理解が出来る。それにあまり言いたくはないが、貴族の連中に人に興味が無い奴が居てもおかしくはないからな」


 トゥスにそう尋ねると彼女はお茶を一口飲み――


「だと、良いんだけどね……」


 そして、彼女はその鷹の様に獲物を射貫く様に瞳を細め――酒場を睨んでいた……

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