305 連絡の手段
「ん……んぅ」
一区切りがついた俺は背伸びをする。
すると、見計らったかのようにフリンが部屋へと入って来た。
「キューラ様」
「ああ、良かった、これから探しに行こうと思ってたんだ」
彼は俺の言葉を聞くとすぐに近くへと来た。
「いかがなさいましたか?」
「実は聖女の事で……」
俺が話を切り出すと彼は複雑そうな表情を浮かべ頷いた。
「すみません、まだ……何分条件が条件ですのですぐには……」
それは分かっている。
昨日の今日で見つかったと言われる方が驚きだ。
「ああ、それは仕方がない、ただ……クリードに連絡が取れないかと思ってな」
「……?」
俺の言葉にフリンは何言ってんだコイツ? といったような表情を隠すことはなかった。
それも仕方がない。
何せこの前それは無理だと判断したからだ。
なのに今になってまたクリードの名を出したのだから、俺だって何言ってるんだ? みたいな表情になるだろう。
だが……。
「正確には俺の母校、つまり冒険者学校に手紙を送りたい、可能か?」
そう言うと彼は俺の意図に気が付いたのだろう、はっとした表情になった。
「そうですか! 確かにそれならば可能かもしれません、冒険者学校はクリードにありますがファーレンやベルゼ出にも生徒が居ます」
そう、学校と言ってもこの世界に沢山ある訳ではない。
かと言って少ないわけでもないが、クリードの冒険者学校は優秀だ。
なら、他国からの生徒は何もおかしくはないのだ。
だが、だからと言ってこの手が通るかと言ったらそれは違う。
「……しかし、キューラ様、貴女が手紙を出せば」
「怪しまれるだろうな」
そう、いくら俺があの学校の出だと言っても今の立場や状況では怪しまれて当然だ。
だから少し細工をする必要がある。
「今から、学校を出た人物がこの街に居ないか調べてくれ、なるべく政に疎い奴が良い」
「……なるほど、分かりましたすぐに!!」
フリンは頷き、近くの兵を呼ぶと今の話を伝えた。
そして……先ほどまで見ないようにしていたそれを机の上へと置くと……。
「では追加の書面です」
「うへぇ……」
表情を変える事無く書類のおかわりを置いて行くのだった。
一体どこからこの書類の山は生まれてくるのだろう……?
俺はそんな事を考えながら呆然と見つめていると……。
「やらないと終わらない」
ファリスに的確な突込みを受けがっくりと項垂れつつも判を押していく。
ああ……今の所はこれをやっているが、これからは勿論、政もやって行かないと駄目だろう。
受けた以上は中途半端で投げ出す事は出来ないからな。
だが……こう、目の前に出されてしまうと……な。
嫌気と言うものが……出て来てしまう。
「終わらない」
俺がため息をついているとファリスは一番辛い所を繰り返す。
「分ってる、大丈夫だって……今やるから」
がっくりと項垂れつつ、俺はそう言うと判を押していく。
ああ、おかしいな……俺なんでこんな事しているのだろうか?
確かに領主は必要だ。
そして、俺は領主になってしまった。
それが理由だというのは分かっている。
「……ん?」
そんな事を考えている中、書類の中に一つ違うものが混じっていたのに気が付いた。
「これは……」
俺がそれを覗き込むとファリスも気になったのだろう。
近くへと来て手紙の内容を見ている。
どうやら、レラ師匠がまた修業を付けてくれるみたいだ。
それはありがたい……と思いつつ……。
「って、これ!?」
手紙に書かれていた事に俺は驚く。
何故なら彼女が指定した時間だ……日付は今日、太陽が真上に来た時と言う事は昼を食べてからと言う意味だろう。
そして……。
「急がないと、行けない」
「あ、ああ! まずいぞ……!」
俺は急いで判を押し始める。
もう時間が無い……とは言っても内容を全く見ない訳にはいかない。
「ファリス! 判を押してくれ、俺は内容を確認する」
俺は時間を短縮する為に判を押すのはファリスへと任せ内容を確認する。
「ええと、奴隷兵の宿舎は……材料か、廃屋の資材も使えば何とか……食料……はこれはまいったな、早々に手を打たないといけない」
どれもこれも大事な事だ。
一つ一つ対策を考えて行かなければ……。
「次は――! 領主様、結婚してくれ!? なんでこんなものが入ってるんだよ!?」
真面目に考えている所になんてものを送って来てるんだ!?
しかも貴重な羊皮紙を使って……。
「これは洗って再利用だ!」
そう言い、横へと放って置くと……。
暫くして、びりっという音が聞こえた。
何だろうか? 俺はそちらの方へと目を向けた。
「……クリエ?」
そこには先ほど放って置いた結婚してくれという羊皮紙を無表情でびりびりと破いているクリエの姿が映る。
頑丈のはずというか、今の彼女の力で破けたのかと思いつつ、俺は彼女が見せた反応が気になった。




