304 残りの聖女
その日の夜、俺は屋敷の自室へと向かう。
勿論、ファリスもクリエ、ライムも一緒だ。
理由はこんなクリエを一人にさせておけないのとファリスは俺の護衛みたいなものだ。
とは言っても、ライムが居るし大丈夫だとは思うのだが……。
何故かこの頃ライムはクリエの傍を離れたがらない。
多分、俺が彼女にかまってやれない分、守ってくれているのだろう。
「んん~~っ」
俺は部屋へと戻る中、伸びをする。
以前ならクリエが騒いだだろうその行動も今は誰も反応しない。
ファリスはファリスで疲れている様だし、瞼が閉じかけている。
「ファリス、おぶろうか?」
「…………ん」
護衛と言っているもののファリスはまだ子供だからな。
それにこの頃、彼女にはクリエを見てもらったりしていたから、気を張らせていただろう。
無茶をさせてしまったかもしれない。
反省しつつ俺は提案したが、彼女は首を横に振った。
大丈夫なのだろうか? 少し不安にもなったから手を差し出すとファリスの小さな手はギュッと俺の手を掴んできた。
「………………んぅ」
時折こくんっとなるから相当眠いに違いない。
だが、背に乗せてとはせがまない。
何故だろうか? そう思いつつもファリスを早く休ませてやりたいと部屋へと向かった。
勿論、心配事は彼女だけではなくクリエの方にもある。
ぼーっとしつつもこちらの意思はなんとか伝えられるのか、部屋へと向かう事を告げたらついて来てはくれたクリエ。
だが……。
「クリエ……疲れてないか?」
「……………………」
彼女は何も言わない。
声を失ったものと思ってはいたが、やはり呪いの影響で精神に影響が出ているのだろうか?
とにかく、呪いかどうかを調べるためにも聖水は必要だ。
その為に聖女を集めないといけない。
だが、その当てがない……。
チェル以外、誰を当たれば良い…………。
「誰……を?」
いや、待てよ? クリード王に支援を求める事は今は出来ない。
だが……よくよく考えてみれば、出来る方法もあるんじゃないか?
「王に直接連絡を取る事は出来なくても……間接的になら」
そう、間接的になら……手紙を通すことが出来るのでは?
俺はそう思い、明日フリンに確かめてみようと考えた。
方法は簡単だ。
国同士が利用し合う場所を使えば良い。
確かに仲が良くないと言えばそうだが、それでも共通の場所はある。
そこは……。
「冒険者学校……あそこなら、手紙を送ることが出来るかもしれない!」
「………っ!?」
俺の言葉にびくりと反応したのはファリスだ。
驚いた顔をして俺を見ている。
「わ、悪い……急に大声出しちゃったな」
俺は彼女に謝ると頭を撫ででやる。
すると彼女は気持ちよさそうに目を細め始めたかと思ったら、再び眠そうにしている。
いかん、早く寝かせてあげないとこの場で寝そうだ。
「…………」
そんな時、ふと視線に気が付いた俺はそちらの方へと目を向けた。
クリエだ……先程まで何の反応も見せなかった彼女は俺とファリスとじっと見つめている。
何も言わない、表情も変えない。
だが、俺達の事をじっと見ている。
どうしたというのだろうか? と思い俺がファリスから手を離すと今度は俺の方へと目を向けてきた。
いや、正しくは俺の手だ。
「…………」
「クリエ?」
彼女の名を呼ぶが、当然反応は無かった。
だが、思い出したことがある。
今の様にファリスを撫でた様にクリエの頭を撫でた事がある。
もしかしたら、記憶の片隅に何かがあってそれに引かれているのだろうか?
そう思った俺は無意識の内に彼女の頭へと手を伸ばしていた。
すると、彼女は撫でやすいように頭を下げてくれる。
やっぱり、何か反応しているみたいだ。
「…………」
心なしか気持ちよさそうにも見える。
だが、なんで今になって? クリエの前でファリスの頭をなでてやるのは何回かあったはずだ。
なのに……急に? か……。
疑問が晴れないが……とにかく今は彼女が呪いにかけられているかどうかが重要だ。
精神的な問題であったなら戻らないかもしれない。
呪いだって同じだが、どちらかがはっきりしない限り対処のしようがないからな。
俺はそう思いつつも二人を連れ部屋へと戻る。
そして、ファリスとクリエをベッドに寝かせるとようやく一息を付いた。
窓の外には星が見え、その灯のお蔭で少し明るい様にも見えるが、部屋の中はランタンが無いと何も見えない。
俺は何かをする事は無く、自分のベッドへと入ると眠りについた。
翌朝、起きるといつも通りの日々が始まる。
アウクに会えないかと少し思っていたのだが、そう上手くはいかない様だ。
残念ではあるが、気持ちを切り替え今日も仕事をするしかない。
元々話した所でなにか知恵を授けてくれるって事は無いだろうしな。
ただ、もしかしたら……なんて言う淡い期待があっただけだ。
「さてと……」
聖女に関してはもう調べてもらっている。
俺がやるのは目の前の書類を片付ける事だ……。
「腕が疲れそうだ」
俺はそうぼやきながら判を押していくのだった。




