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301 呪い?

「んぅ~~~! はぁ……」


 俺が固まった身体を伸ばすように伸びをするとファリスは此方の方へと向かって来た。

 どうやらクリエが反応しなくてつまらないらしい。

 頬を膨らませて俺の袖を引っ張る。


「どうした?」


 俺が問うとファリスは――。


「疲れた、何も言わない……表情も変わらない」


 やっぱりクリエに対して不満があるのだろう。

 事実、彼女はただじっとしライムを抱いているだけで反応を見せない。

 それで不満を漏らすのも分かる……。

 だが、彼女ぐらいしかいない……頼れる護衛と言うのが……。

 実際にはレラ師匠や強い人は何人もいる。

 カインだってそうだ。

 だが、カインは男だし、レラ師匠は師匠でやる事がある。


 とは言っても、師匠はまだショックから立ち直りきってはいない。

 そうなると頼ることが出来て、個人の戦力も高いのはファリスだ。

 だからこそ、彼女をクリエの傍に置いている。


 しかし、ファリスがそれを納得しているかと言うのは別の話。

 実際、彼女は不満を漏らしている訳だしな。


「それでも、毎日ありがとうな。ファリス」


 そう言って頭を撫でてやると彼女は目を細めて引っ張っていた方の腕に絡みついて来た。

 なんとも気持ちよさそうにしているその姿は何処か猫の様でもある。


「…………」


 俺はその後すぐにクリエの方へと目を向けた。

 だが、彼女は視点の定まらない瞳でなにかを見ているだけだ。

 食事を拒否したりする訳ではない。

 だが、明らかに俺の知っているクリエとは違う。


「……身体には異常はない、か……」


 チェルの言葉を思い出し、俺は考える。

 確かにクリエは優しい。

 目の前で人が殺されたら、悲しむだろうし、それが自分のせいだと知れば後悔するだろう。

 だが、いくら彼女でもここまで……廃人の様になってしまうのだろうか?

 そこがおかしい気がするんだ。

 だが、それを知る術はない。


「なぁ、ファリス……」


 俺は何気なく……本当に何気なく、ファリスに尋ねた。


「廃人になってしまう呪いとかってあるのか?」


 俺が知っているのは人を存在ごと消してしまう呪い。

 他にも恐ろしい呪いはあるが、その術者はもう居ない。

 だが、似たような呪いを作る者は居る……。

 しかし、今まで廃人にしてしまうなんて呪いを聞いた事が無い。


「…………知らない、でもありえない訳じゃない」


 ファリスは首を振ったが、どういう意味だ?


「使えるかもしれないって事か?」


 俺の質問に彼女は頷いた。


「そもそも、呪いは……病気とか、他には人が本来持っている力、そう言う事が元になってるの、存在を消す呪いも忘れるという事を元にしてる」

「忘れる事を元に……」


 それが存在を消す呪いの正体?

 だから、人によっては利かないのか? ん? 待てよ……それじゃ!?


「まさかあの呪いは消えたんじゃなくて忘れられて認識できないって言うのか!?」

「…………そこまでは分からない、私の呪いじゃなくて魔王の呪いだから」


 分からないか……それはそうだろう、だけどありえない訳じゃない。

 存在を消すなんて普通では考えられない力だ。

 殺すとは違う文字通り消すんだ。

 だが、その人の存在を認識出来ない……つまりそこに生きている事を忘れさせることが出来たとしたら?

 かなり、おかしな話だとは思うが……本当に消してしまうよりは分かりやすい。

 だから、もしかしたら彼は生きていて、俺達に気付いてくれと叫んでいるのかもしれない。


「…………とすると廃人化させる呪いもあるかもしれないか」


 俺は呟いた所でふと疑問を感じた。

 なら何で助けに行った時は前とは違っとはいえまだ平気だった?


「徐々に廃人化? いや、呪いを徐々にかけることが出来るのか?」

「最初の呪いはそうだよ? 徐々に徐々に気が付かない内に蝕んでいくの……だって、病気も同じ、気が付いた時には手遅れ」


 それを聞き、俺はぞっとした。

 確かに病気の中にはそう言ったものがある。

 本人さえ気が付かない内に身体を蝕んでいき……そして、症状が出た時にはもう遅いなんて事があるのは分かっていた。

 

「もし、呪いだとして解く方法は?」

「術者本人を殺す、それだけ……でも、それが分けられた力なら面倒、本人じゃないから」


 そいつを殺した所で何も変わらない。

 つまり、ファリスが死んでしまってもあの人達は戻ってこないという事だろう。

 だが、それを聞いて一つ安心した。

 俺は、いや俺達はファリスを傷つける必要はない。

 この子は術者本人じゃないからな……目的である魔王を倒せば戻ってくる可能性はあるって事だ。

 だが、クリエの方はどうする?

 様子が違ったのは助けに行った時だ。

 だが、徐々にと言う事ならどこかで呪いをかけられていた事になる。


「でも、そんな所見た事も……」


 ない。

 呪いとは面倒な物で本人か分け与えられた者が実際に接触しないと駄目だ。

 つまり、髪の毛を藁人形に仕込んで釘を打つなんて言う俺の知る呪いとは全く違う。

 魔法の一種だからな、そもそも安全な所から出来るならわざわざ人を使う必要もない。

 下手に呪いを撒き散らされても面倒だろう、それが目的ならそれで良いだろうが……。


「……クリエは何処で?」

「処刑場……?」


 ファリスの言葉に俺は頷く、確かにあそこならあり得る。

 万が一逃げ出しても大丈夫なように……。

 だが、そうだとしたら、疑問が残る。

 何故俺は無事なんだ? あそこに居たのはクリエだけじゃない、俺も居た。

 だが、俺は大丈夫だった。


「……俺には呪いをかけなかった? そんな馬鹿な事するか?」

「キューラお姉ちゃんに呪いは効かない」


 俺が疑問を思い浮かべるとその答えをファリスは呟いた。


「それは……確かか?」


 再び尋ねるとファリスは首を縦に振る。


「存在を消すあの呪いは強力……多分今存在する呪いの中は一番、だけど、効かなかった」


 それを受け付けない俺は廃人化の呪いが効いていない。

 そう考えれば確かにあの処刑場で呪いをかけられたというのが納得できる。

 イリスは外に居たこともある……放っておいても問題ないと思われたのかもしれない。

 と言う事は……。


「あそこに行けば術者か、それに近しい物が居る!」


 そこで聞き出せば……例え本人が居なくとも……クリエを助けられる!

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