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300 演説と仕事

 結局服選びの時にクリエが表情を変える事は無かった。

 俺は不安を感じつつも、準備を始める。


「…………」


 近くに居るクリエへと目を向けるが彼女は今眠っている。

 助けた直後とはさらに状態が変わっていて、どんどん悪くなっている。

 起きていればぼーっとしていて、ほとんどの事に興味を持たない。

 そうじゃないかと思えば寝ている事が多い。


 基本的に動こうとしない……。


 心配ではある。

 だが、もし俺がクリエを殺されていたら同じようになっていたかもしれない。

 そう思うと彼女のその様子は仕方がない、そう思ってしまう。


「とはいえ……」


 このままじゃ良くない。

 そんな事は分かり切っていた。

 だが、どうすれば彼女は話してくれるだろうか?

 そもそも本当に声が無くなってしまったのだろうか?

 何も分からない。

 寧ろ、本当にヘレンは死んだのか?

 それさえも分からない。


 知らない誰かがクリエを庇ってくれていて、それでその人が死んだ。

 なんて事も十分に考えられる。

 だが、それも彼女が話してくれない限り分からない。


「……無理はさせられないよな」


 俺はそう口にすると準備へと戻る。

 だが、このままにも出来ないとまた思考はループした。

 これがもどかしい。

 俺は……俺は何をしているんだ?

 彼女を守るために彼女を助ける為にあそこに行った。

 だが、結果として彼女は助けれたものの……。


 彼女は深い傷を負ってしまった。

 これは果たして守れたというのだろうか?

 そんな疑問が浮かんでくる。


 いや、答えは簡単だ。

 助けられはした、だけど……守れたわけじゃない。


 彼女の心の傷は俺が思っているよりずっと深いはずだ。

 どうにか癒してあげたい。

 だけど、どうすれば良いのか分からない。


「……」


 そんな事を考えている内に支度は終わってしまった。


「ファリス、クリエを頼む」


 俺はファリスへとクリエの事を頼むと部屋の外へと向かう。


「うん! いってらっしゃい」


 ファリスは笑みを浮かべて俺を見送ってくれた。


 俺が向かう先はこの屋敷のバルコニーのような場所だ。

 そこで演説をする……。

 俺が領主になった事を街の人に知らせるための演説だ。

 俺には荷が重いと思うが、それでもやらなくちゃいけないよな、ノルン。


 そこへと出ると街の人が沢山いた。

 俺は緊張で喉を鳴らし、一歩前へと出る。

 ざわざわとしだす街の者達に対しフリンが「静粛に!」という言葉を発した。


 すると、街の人達は黙り、俺を見つめる。


「……ノルンは他国の貴族に殺された、彼の遺言に従って俺……あ、いや私キューラ・クーアがこの街を統治する。彼の様にうまくできるか分からない、だけど……君達の事は守って見せる」


 そう告げると様々な声が聞こえてきた。

 俺を認めてくれる声、そして認めないと叫ぶ声。

 そりゃそうだよな、俺はこの街の生まれではない。

 ましてや数日前に現れたただの小娘だ。

 そりゃ認めないという声があってもおかしくはない。

 だが……。


「これはノルン様最後の言葉だ! 彼女にはこの地を統治する資格がある」


 そう言っても反対している中で納得できる人は居ないはずだ。

 俺はもう一歩前へと出る……そして――。


「異論があるなら話を聞こう! 俺……私に出来る限りの事はしよう、だから、直接来ると良い話し合いの席はいくらでも設ける」


 そう伝えた。

 これならば納得させられるとは言えないが、不満を知ることはできる。

 知りさえすれば何らかの方法で解決できるかもしれないからな。


 俺は言い終わると後ろへと下がった。

 再び広場はざわつき始めていたが、これで終わりだ。


「キューラ様、それでは書類に判を……」

「……またか、あれ以外と疲れるんだけどな」


 俺はフリンの言葉にがっくりと項垂れた。

 書類にただ判子を押す作業と言われているが、実際には目を通し確認してからだ。

 当然と言えば当然だけど、これが意外と疲れる。

 その上、今は問題が山積みだ。

 今回出た被害、死傷者の本人家族への対処を始めとし、奴隷兵の扱い。

 新領主、つまり俺の事もそうだろうし、なにより……俺は一番気になるのがやはりクリエだ。

 彼女の声が戻らない事が気がかりだ。

 もしかしたら、何か病気にでもかかったんじゃないだろうか?


 そんな不安があるがチェルはそんな事は無いと言っていたし、だけど彼女曰く医者ではないから詳しい事は分からないとも言っていた。

 一度医者に診てもらった方が良いだろう。


 だが……。


「少し自由時間を貰って良いか?」

「判を押し終わったら、構いません」


 その作業が時間が掛かるんだよ……な。

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