299 キューラ領主になる!?
「……なぁ、この街ってクリードからどのぐらい、離れているんだ?」
「そうですね、大体馬で1週間と言った所でしょうか」
なるほど、距離は結構あるが行けなくはない。
問題はそれを邪魔する奴が居るかどうかだ……。
「近くの王は?」
「残念ながら別の王です……名はベルゼ……神大陸唯一の混血の王ですね」
ああ、ベルゼ……確か聞いた事がある。
神大陸だというのに魔大陸と同じような法で収めている領地だ。
その為、奪い合いが多く、若者が知らずに足を踏み入れたら男女関係なく搾り取られその後の人生は終わってしまう。
まさに魔王と言って良い様な存在だ。
実際の通り名は魔人王らしい……。
だが、それでも許されているのは彼が莫大な支援を他の国にしているからだ。
山も海もあり、川もある。
そして、その土地でしか取れない果物や野菜、それを他の国に貢いでいる。
その見返りとして自分の土地では好きにしているのだ。
勿論、分かりにくい方法ではあるがこれより先はベルゼの国という感じの知らせもあるらしい。
「……だが、この街はベルゼの領地ではないんだろ?」
「はい、見ての通り平和そのものです……此処はベルゼではなく、ファーレンの領地です」
ファーレン……は、どんな国の王だ?
俺が首を傾げているとファリスが近づいて来た。
「ファーレンは平和主義、必要のない戦いを嫌う王……だから騎士王と魔人王とは仲が悪い」
ああ、そう言えばそんな国があったな……。
武器を持つ事を禁止ている訳ではないが、避けられない戦い以外では罰則対称の平和主義の国があると……この世界でそんな事を言っていられるのか? と思った覚えがある。
しかし、面倒だな……。
近くの王はベルゼ、実際に統治している王はファーレン。
そして、俺達が頼りにする王カヴァリは馬を一週間走らせた所に居る。
運良く領地がこちらの方まで伸びていれば良いが、それは無いだろう……。
俺は部屋に飾ってあった地図を見る。
「スクルド……これがこの街の名前か……」
そう言えば俺はこの街の名を知らなかったな。
そんな事を思いつつノルンにスクルドか……偶然の一致だよな?
俺は今は気にしない事にし……地図を睨む。
「……参ったな」
どうやらこの街はベルゼとファーレンの領地に囲まれているようだ。
いずれどころか、恐らくもうすぐここには敵の手が伸びてくる。
早く領主を決めなければ、戦うなんて無理だ……。
ノルンが手を貸してくれてクリエは助けられた……だが、その彼が愛した民は戦争に略奪に……その被害に遭うかもしれない。
「……クリエを助けてくれた」
何の見返りも求めず、助けてくれたんだ。
「分かった、彼の意志を継ごう……ただし、俺の目的はクリエを救う事だ。その為に力を貸してくれたノルンの守りたかったものは守るさ」
「はい、承知しております……では、早速領主が決まった事を知らせましょう」
魔王退治は遠回りになってしまうかもしれない。
だけど、彼の意志を継いでくれるものが見つかるまでの間なら……彼の遺言を受けよう。
それからすぐに、俺が当事者になるという話は広まった。
そして、そうなれば当然……演説をしなければならない。
急に決まった事だとは言え、準備が必要だということで数日貰えることにはなった。
「クリエ、どんな服が良いと思う?」
俺にも自由な時間が設けられ、服を彼女と一緒に買いに来たのだが……。
「………………」
彼女はライムを抱きしめながら、呆然と店の服を眺めているだけだ。
以前なら喜んで変な服を持ってきたというのに今は何も反応をしない。
彼女の前でヘレンが死んだ。
その事が今もショックなのだろう……いや、彼女だけじゃない。
彼女を守るために力を貸してくれた人は死んでいったのだ。
だから、優しい彼女にとってそれは何よりも苦しいのだろう。
だけど……それでも俺は……。
「クリエ?」
いつも通りを装う。
悲しくない、悔しくないという訳じゃない。
ノルンが居ればこの街の人は平和に暮らせただろう……。
だが、俺が納めれば一気に犯罪者の街になってしまう。
何故ならこれからクリエは酷い目に合うかもしれない、その度に守るのであれば……戦争は避けれない。
「…………」
それを分かっているのだろう、クリエはただただ黙っているだけだった。
望んでいないのは分かっている。
優しい彼女の事だ自分さえいなければと思うのかもしれない。
だけど、それは違う。
それは俺が嫌だ……結局は俺のわがままだ。
「これなんてどうだ?」
分かっていても、それが彼女を守る事に繋がるなら……。
このわがままを押し通して見せるさ……それが例え魔王と戦う事になっても。
世界中を敵に回すことになっても、最後にクリエが安心して暮らせるならそれで良い。
その為にまずは貴族達を黙らせる……その手段は俺が魔王を倒す事だが、それはまだ先だ。
まずはノルンが残したものを守らなきゃいけない。
ここにはクリエを守ろうと力を貸してくれた人が沢山いる。
彼らを守れない様じゃ、クリエを守るなんて夢のまた夢だ。




