表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
312/490

298 なんでそうなった?

「これにサインをお願いします」


 俺の前に積まれた書類。


「……これ、全部か?」


 あれから数日、時間が経つのは早いものだ。

 なんて感傷に浸る時間は無かった。

 横ではファリスがクリエの世話をしている……。

 そんな所で俺は何故か書類にサインをさせられていた。


「はい、今日中に」


 そう言うのはノルンの側近だった魔法使いフリンだ。

 彼は淡々とそう口にすると――去って行こうとする。


「待て、待ってくれ!!」


 俺は慌てて彼を止める。

 すると彼は此方に振り向き、首を傾げた。


「何か御用ですか?」

「いや、何で俺がサインをする必要がある!? これは領主の仕事だろ?」


 そう、此処はノルンの街で俺は客人。

 確かに領主は決まっていないが、こういった仕事をするなら元々街に居た人の方が良いはずだ。

 情勢も何も知らない俺がやるべきではない。

 そう思っていたのだが、彼は溜息をつくと……。


「外でやっている次の領主の選抜、ですが……我々は貴女を推しています」

「なんでそうなった!?」


 意味が分からない。

 俺が頭を抱えると彼は意外そうな顔をしていた。


「レラ様には言わないようにと言っておられましたので、レラ様がお伝えしたのだと思いましたが、もしかして聞いておられないのですか?」

「はぁ?」


 俺は思わず変な声を出してしまったが、聞いてるも聞いてないも。


「なんの話だよ……」


 と尋ねると、彼は大きなため息をついた。


「そうですか、それなら納得できないのも分かります」


 と言いつつ懐から一通の手紙を取り出した。

 それを俺へと見えるようにするとゆっくりと語り始める。


「私、ノルンは……何らかの状況でこの街を守れなくなった時、その全権を勇者キューラに託す。彼女はまだ幼く、なれていないだろうが、私の後継人として彼女を補佐して欲しい」

「「「………………………………」」」


 その場に居た俺とファリス、そしてクリエはぴしりと音を立てるように固まった。

 全権を譲られていた?

 そんな大事な話を何故彼はしていなかったのか! いや、後は逃げかえるだけだったんだ。

 安堵していたのかもしれない、なんて言葉で済ませられるわけがない。


「ってちょっと待て、それは困るぞ!? 俺は魔王を――」

「承知しています、ですのでこの街にいる間は修行、そして業務をしてもらいます」


 おい、なんだそのハードスケジュール。


「貴女は一日世話になっただけの人達を救う為にあの男に立ち向かいました。普通は出来ない事でしょう、その事を私達は評価しています」


 そして何か語りが始まった!?


「ノルン様はきっとそう言った点で貴女を選んだのでしょう」

「……いや、選んだって言われてもな!?」


 俺が街を収める? いや、いやいやいやいや……それは流石に無理ってもんだ。

 何より、俺はただの魔法使い。

 レラ師匠のお蔭もあって今はまともに戦えるようにはなった。

 だが、街を収めるのとは全く別物だ。

 それにはそれ専用の知識がいるし、勿論人脈や人柄も大事だろう。

 だからこそ、レラ師匠がふさわしい。

 そう思ってはいたが、彼女は彼女で統治することが出来ない理由がある。


「とにかくここを統治する者は皆で決める、そう決めただろう?」

「はぁ……ですが、選抜の中でも民の票の大半はキューラ様が良いとおっしゃっております」


 もし、此処で飲み物を飲んでいたら吹き出していた自信がある。

 何故そんな事になったのか小一時間問いだしたいが、恐らくノルンの奴が皆にも知らせろー的な事を言ったんだろう。


「若くはありましたがノルン様はレラ様との間の子が早くほしいとおっしゃっていました。その理想が貴女様そっくりだったそうですよ」

「いや、そうですよって……まさかそんな理由で俺を選んだんじゃないだろうな?」


 先程違う理由を聞いたばっかりだが何だか怪しく思えてきたぞ?

 そう思っていると彼は大笑いをし……。


「まさか! あのお方は街の事をよく考えていらっしゃる。そのような理由だけでキューラ様を選ぶはずがありません」


 だけ、か……つまり、その理由もあると少なくともこの人は感づいているんだろう。

 俺は大きな溜息をもう一度つく。

 さて、どうしたものか……いや、やっぱり無理だろう……。


「それに、聞けばクリードの騎士王カヴァリともお知り合いだとか、此処の領主になっていただけば、私どもだけではなく、彼の王もきっと手を貸してくれるでしょう」

「でもな、目的もあるんだ……」


 俺は断ろうとしたが、彼は俺の目をじっと見て来ると……。


「貴方しか、居ないのです」


 その言葉は不思議と拒否できない何かがあった……。

 こう、なんていうか……彼の言っている事は間違いじゃない? 良く分からないが……そんな気がする。

 まぁ、確かに……支援が必要な時、名も知らない貴族が領主になり、支援をしてくれ何て言っても彼はすぐには動けないだろう。

 幾ら俺の一言があったとしても警戒するのが普通だ。

 だが、俺自身がここを治めてしまえば、王様も動きやすい。

 だとすると気になるのが……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ