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29 酒場へ

 食事を取ろうとしたキューラ達。

 しかし、どうやら調理に必要な魔道具、精霊石が壊れてしまったとの事だ。

 精霊石はエルフにしか作れず、また治せない。

 キューラは先程であったエルフ、トゥスを探しにクリエと共に街へと繰り出すのだった。

 酒場には大通りを抜けていくらしく、俺は再びあの道を進まなければいけない様だ。


「…………はぁ」

「キューラちゃん?」


 クリエが心配そうに俺の顔を覗き込んできて、ライムは慰めるように頭の上で跳ねる。


「なんでもない……」


 しかし、男の俺がナンパをされました何て言える訳が無く、項垂れつつもそう言うと――


「なんでもない、という風には見えないのですが……」


 クリエはおろおろとし始めた。

 それに気が付いた俺は無理に笑みを作る。


「本当に何でもないって、それよりも早く酒場に行こう」


 これだけ美人のクリエが居るんだ、奴らがまた来るかもしれない。

 ましてやクリエは勇者、困ってるなんて言われた時には協力するなんて言ってついて行ってしまうかもしれない。

 いや、流石にそれは無いか……

 そんな事を考えつつ大通りを見回してみると――


「あれ?」

「どうしたんですか?」

「いや……」


 朝に声を掛けられた串焼き……いや、焼き鳥屋のおっちゃんが居ない。

 店は閉められているのだろう、煙も立っておらず、少し席を外したと言う感じには見えない。

 そうか、やっぱり辞めてしまったか……言い過ぎたかな。

 この世界に来てからベントから出たことが無いせいか、ああいった料理に出会うのは初めてだった。

 折角の焼き鳥だったのにケチケチせずに一本いただいておいた方が良かったかもしれない。

 そんな後悔と罪悪感がよぎり、俺は屋台を見つめる。


「キューラちゃん、立ち止まってなにかあったのですか?」

「うん……ま、まぁ……うまくいかないもんだな……」


 繁盛はしてほしかったんだが、アドバイスのつもりが心を折ってしまったか……

 余りこういった事を言うのは良くないかもしれない。

 そう思いつつ俺はクリエへと向き直り――


「酒場、行こうか……」


 酒場へと向け歩き始める。

 クリエは当然ぽかんとしつつ首を傾げるという非常に可愛らしい行動を取ったが、今回ばかりは残念過ぎて少ししか気にならなかった。





 それから暫く歩くと酒場はすぐに見つかり、その扉を開けると――


「うわ……」


 そこに広がっていた光景は……俺が想像する冒険者の施設。

 ではなく――


「何だ此処?」

「酒場ですよ?」


 酒場といえば飲んで騒いで、俺は行ったことが無いけどテレビに出て来る居酒屋のような場所に喧嘩や飲み比べの勝負の場だと勝手に想像していた。

 しかし、目の前にある光景はがらんとした店だった。


「いらっしゃい」


 ついでに言うと店主がやる気が無い。


「そんな目で見るなよ……まだ昼間なんだ……人が居ないのは普通だろ?」


 俺の疑問は見透かされた様で店主は無表情のままそう言う。

 怖いな……


「…………」


 クリエも同じ気持ちなのだろうか? 声を出さずに引いている。


「な、なぁクリエ、酒場ってこうなのか?」

「いえ、普通は昼夜問わず、騒がれてますよ」


 だよなぁ……店は開いてるんだし、酒が好きな人が居てもおかしくはない。

 というかここは王都だ。

 人が少ないってことは無いだろう……


「で、子供と勇者が何の様だい」


 そして、この店主は無表情のままだし、怖いっての……


「ええっと、ここにトゥスっていうエルフはいますか?」


 俺はとっとと用事を済ませるべく、そう聞くが……


「見ての通りだ」


 そう言われ店の中を見渡すとその理由が分かった。

 誰も居ない……


「このお店は何があったんですか?」


 クリエは気になったのだろう店主に聞くと、彼は深く溜息をつき――


「いや、ね……この店には可愛い看板娘が居たんだがその子が急に居なくなってね」

「か、可愛い!?」


 おい、クリエの奴完全に釣られただろ……とは言っても居なくなった?

 何か気になる言い方だな?


「その、居なくなったってのはどういう事だ?」

「知らないな居なくなったのは居なくなったんだ……所でお嬢ちゃんは非常に可愛らしいね、どうだいこの店で働く気はないか?」


 おいおい、知らないって看板娘が居なくなったら助けを求めるってのが普通じゃないのか?

 しかも勧誘かよ……この人は何を考えているのかが分からないな……


「いや、遠慮しておく」

「そうかい」


 断ってもやけにあっさりだな……


「その、探しましょうか?」


 俺が彼を怪しんでいるとクリエはそう申し出るのだが……


「必要ないよ、居なくなったんだ」

「でも、お店困りますよね? だって人が……」


 クリエの言う事では昼間でもにぎわっているのがこの世界の酒場。

 ――なんか妙だな? 看板娘が不在、それも勝手に居なくなった? その所為か客は来ない。

 それなのに本来慌ててなければいけない店主が落ち着いてる? 俺なら慌てて冒険者や兵士に頼むぞ、それに丁度勇者が来たんだ。土下座をしてでも助けてもらいたいと思って当然じゃないか? なのに、これって…………おいおい、まさかとは思うが――


「クリエ、それよりも早くトゥスさんを探そう!」

「え? でも可愛い女の子が……」


 やっぱりそこか!? とにかくあの店主に手伝いを申し出ても無駄だと言うのは分かった。

 ここは外に出た方が良い……が、クリエは女の子が気になるみたいだ。

 しかし、女の子はきっと怖い目に遭っているだろうし、その事について話はしたいが、此処では無理だ。

 仕方が無い我が身を犠牲にするか――


「分かった好きな服を着てやる」

「行きましょうか」


 俺の策にあっさりとはまった勇者殿の手のひら返しはそれは見事なまでに綺麗であっさりとしていた。

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