295 キューラの怒り
「貴様らぁぁぁああああ!!」
レラ師匠の怒りの咆哮が聞こえた。
それに送れるように聞こえてきたのは銃声だ。
それは俺達に死を告げる物と言っても良いだろう……。
「――っ!!」
俺はそんな音を聞きながらも、煮えくり返りそうなこの感情を感じていた。
ノルンは良い奴だった。
最後まで、俺達の仲間で居てくれた……だというのにその最後はあっけない物だ。
「フレイムウォール!!」
俺は目を見開いている彼の死体を見つめながら、魔法の名を叫ぶ。
「な、何!?」
そして、聞こえてきたのは先程の貴族の声だ。
しかし、それもすぐに聞こえなくなった。
理由は轟々と燃える炎の音にかき消されたからだ。
銃声は聞こえる。
だが、銃弾は此処まで飛んでくる事は無かった。
「ライム……」
俺は使い魔であるライムへと手を伸ばす。
そして、彼に水袋に入った水をかけてやった。
皆を守るには足りないだろう、だけど一人を守るには事足りる大きさになったライムを頭に乗せ、炎の壁へと向かう。
そして、一気に走り抜けた。
炎は一瞬であれば焼かれる事は無い、魔法にも同じことが言えるかは分からないし、賭けだった。
だが、その賭けは勝てたようだ。
俺は貴族の目の前へと近づく、すると銃口は俺に向けられ――。
「守ってくれ」
俺はライムにそう告げた。
死ぬために来た訳じゃない、死ぬ気は無い。
だからそう言い、俺は――拳を貴族へと振り抜いた。
当然、鎧を着こんでいた貴族に対しては大したダメージにはならない。
逆に俺の拳の方が傷を負った……。
だが、それでも良い、俺はそう思いながら――。
「グレイブ!!」
離れた瞬間手を伸ばし、魔法を唱える。
「ひ!?」
前方からの魔法に警戒していた貴族だったが、魔法は少しずれた所に生まれ貴族を狙う。
予想とは違う、だが……悪くない位置だ。
やっぱり、大まかな位置に魔法を出すことは出来ても狙った位置に出すのは難しいらしい。
「は? ははは! 魔法が出ていないではないか!! 簡単な魔法でも使いこなせないのか!? その火の壁だ――」
鈍い音が響き渡った。
すると貴族は横に吹き飛んでいく……油断しているからこうなる。
俺は溜息をつきながら、今も銃を放ってきている連中へと目を向けた。
自分達の頭が倒された事により、彼らは冷静さを失っていた。
慌てて俺を殺そうとする者がいたが、ライムが居る以上銃弾なんて怖くはない。
「あ、ああ? こ、こいつまさか……」
一人の男が俺を見て怯える。
「馬鹿言うなあいつは混血だ!! こいつじゃない!!」
もう一人の男が叫ぶ……。
何を言っているのだろうか? 俺は混血だ。
気になる所ではあるが、今は――。
「よくもノルンを……アイツはアイツは仲間だったんだ!! よくも――!!」
恨み、憎しみで戦っても意味はない。
だが、これだけは譲れない――!!
何故なら彼はクリエを助けるのに手を貸してくれたんだ。
彼が居たからこそ今ここでクリエを助けることが出来た。
だというのに……こんな結末になってしまった。
俺は敵を睨みながら一歩また一歩と近づいて行く……。
「ひ、ひぃ!?」
こいつらは……自分の利益の為だけにクリエを殺そうとしている。
そして、ノルン達はその犠牲になってしまった。
許せるわけがない、許しちゃいけない。
だが……。
「……………………」
憎い、こいつらに対しての怒りは収まらない。
だけどそれでも……ノルンは望むか? 復讐を……。
なにより、俺はクリエの為に戦う。
クリエはきっと望まない。
そんな事はもう分かっているんだ。
だったら……。
「もうお前達の頭は居ない、これ以上戦っても無駄に死ぬだけだ……命だけは助けてやる」
そう、無駄に殺す必要はない。
もう奴らの頭は動かないのだから……。
「失せろ!!」
優しいクリエの事だ。
今出てしまった犠牲だけでも心を痛めているだろう。
だからこれ以上は傷つけたくない。
「俺達の前に二度と姿を現すな!!」
人を殺したのは俺達も同じだ。
だが、それでも俺は間違った事はしていない。
「ふ、ふざけるな!!」
誰かが叫んだ。
「この人殺しめ!!」
罵倒が飛ぶ……だからなんだ。
人殺し? そんな事はもう分かっている。
だけど、彼女の為にも無意味に手を汚す訳にはいかない。
「勝手に言ってろ……お前達が仇を討とうとするのも勝手だ……だけど、そうなるなら俺達だって手を抜かない!! こっちにだって守らなきゃいけない人が居るんだ!!」
クリエを守るため、その為なら……その為の覚悟ならもう出来ているんだ。
そう思い叫ぶと、奴らは一歩後ろへと下がる。
実力はもう示した……とは言っても偶々上手く行っただけだったが、十分だった。
彼らは怯えた顔でその場から蜘蛛の子を散らすように逃げていくのだった。




