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294 策

 何か手はないか?

 俺はそう考えながら走る。

 焼けた腕は痛みを訴えてきているし、魔拳は使えない。


 かと言ってこのままではいずれ全滅だ。

 相手の数を減らす手段が無ければ……。

 そう思いつつ、俺はふと魔法陣で強化することを考えた。

 確かに魔法陣を使えば魔法は強化できるだろう……事実そんな魔法もあった。

 だが、考えてみろなんでそんな魔法陣がある?

 俺達、混血や魔族には関係ないはずだ。


 詠唱をすれば魔法を強化できるんだから……。

 それに、この魔法陣に書かれていたのは回復などの強化だつまり……これは神聖魔法に関係があると考えた方が良い。

 いや、全部読み切るまではそれもどうかと思うが、それでも今はそう考えよう。

 なら、この状況を打破するには読む必要はない。

 先程俺の思い通りの魔法があったからと思ってたが、頼りっきりになるのは危ない。


 とすると……。


「ノルン!! 混血や魔族達に詠唱をさせてくれ! なるべく魔法を強化するんだ」

「そうは言っても、そう簡単に詠唱を考えられるわけが……」


 確かにそうだ。

 俺達の使う魔法も元々の詠唱と言うのは実は決まっている。

 例えばシャドウブレードだとしたら『影よりいでし我が刃よ切り裂け』等だ。

 だが、それでは威力もそのままだ。

 だから――。


「良いか? 今から言う詠唱を伝えてくれ……」


 だが、詠唱を唱えさえすれば問題はない。

 強化するなら長い方が良いが、それだとこちらの兵がどの程度耐えられるかなんて分からない。

 なら――強化も普通より強いぐらいだ。


「魔法はシャドウブレード……我闇の眷属に願う、我が敵を切り裂き穿つ刃を、我が剣としてここに……だ!!」


 俺が詠唱を唱えるとノルンはニヤリと笑った。

 そう、詠唱を考えるのが本人でなくても構わないのだ。

 要は魔法が使える詠唱なら何でもいい。

 それが俺達の使う魔法の強みであり……利点だ。


「分かった、すぐに伝えろ!!」


 ノルンはすらすらと何かを書くと近くに居た兵へとそれを渡す。

 俺が口にした詠唱だろう。

 すると、兵士は返事をし、後ろへと向かって行った。

 暫くし、後ろからは別の悲鳴も上がり始めている。


「次は魔法使いたちを抱えられる人達を後ろに!! 抑えてはあるが、人によっては強化は辛いはずだ!」

「分かっている、もうすでに伝えてある」


 流石だな……俺は素直に感心しながら前を向いた。


「キューラ、俺は――!!」

「駄目だ! カインはこっちを守ってくれ!! ファリスだってもう戦えない!!」


 今だに後方を気にしているカインに一括をしつつ、俺は願う様に考えた。

 こちらの戦力はもう少ない……頼む、これでクリエを諦めてくれと……。

 それから何度か悲鳴が上がった……だが、それは次第に少なくなっていく……近づいてくる様子もない。


「……逃げ切れたか?」


 俺は思わずつぶやいてしまったが、フラグになるなんて事は無いだろうか?

 少し心配になった。

 だが、その心配は杞憂だったようだ。

 それ以上悲鳴は聞こえず……森も抜けた。


「良し!! これで後は――!!」


 街に戻るだけだ。

 そう思っていた……そんな時微かに聞こえた音があった。

 その音は聞き覚えのある物だ。

 俺は咄嗟にクリエを庇う様に押し倒す。

 俺の背を掠った銃弾はそのまま通り過ぎて行き……。


「――っ!?」

「…………え?」


 レラ師匠の呆けた声が聞こえた。

 俺は咄嗟にそちらの方へと目を向ける。


「あ……?」


 ぐらりと揺れる身体はまるでスローモーションのように動いて行く……いや、倒れていく……。

 一瞬だったはずなのに、やけに長く感じた。

 俺はただそれを見つめ……。


「チッ!! あそこか!!」


 トゥスさんの声が聞こえた……だが、俺の目に映る光景はゆっくりだ。

 銃声が間近で聞こえる、恐らくはトゥスさんが銃を撃ったのだろう。

 すると少しして彼の身体は大きくのけぞり後方に倒れた。


「「ノルン!!」」


 レラ師匠と俺は同時に彼の名を呼ぶ。

 まずい、まずいぞ……彼は人間だ……この世界の弾は精霊石で出来ている。

 当たり所が悪くても致命傷に……。

 俺の背をかすめて行ったから高さからいっても彼の心臓には届かないはずだ。

 当たっていても足……運が良ければ馬だ!

 だが、当たっているなら早く弾を取り出さなくては……そう思ったのだが……。


「うそ、だろ?」


 足にはかすめてもいなかった……腹部に当たっていたようだ。

 いや、それだけじゃない

 頭からも血が……先ほどのけぞった理由がこれか?

 これじゃ……俺はチェルの方へと目を向ける。

 彼女はその瞳に涙を溜めながら頭を振り乱す。

 長い髪が揺れ……瞳に溜めた涙は中を舞う。

 レラ師匠は彼に起きた事が信じられないのだろう……彼の体を揺するが当然起きる訳が無い。

 もう、死んでいるのだから……。


「キュ、キューラちゃん!!」


 イリスの悲痛な叫びが聞こえた。

 俺はそちらへと目を向けると……一人の貴族が立っていた。

 彼は勝ち誇ったかのように笑い。


「やはり裏切ったかノルン……だが、もう終わった。その男はこの世にはなく……我々の勝利だ。だが、そうだなソレを明け渡せば命だけは助けてやってもいいぞ?」


 そんな事を言う貴族に目を向けているクリエは――震えながら立ち上がるとゆっくりとよろけながら近づいて行く……。

 何処から手に入れたのかも分からない多くの銃口が彼女へと向けられている。


「処刑しろ……」


 勿論助ける気なんてないのは分かっている。

 こちらにもしっかりと銃口は向けられていた……。

 待ち伏せて確実に……だから、後ろから追って来なかったのか……。

 俺は逃げ切れたと思い油断してたんだ。

 そう思うとやり切れない思いが溢れてきた。

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