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293 救出と犠牲

「急げ! そこまで迫っているぞ!!」


 ノルンは叫び俺達を急かす。

 俺はクリエの元へと歩み寄ると彼女へと手を伸ばした。


 彼女は相変わらずふさぎ込んでいる。

 だが、やる事は一つだ。


「助けに来た……」


 それだけを再び伝えると彼女の腕を掴み立ち上がらせる。

 相変わらず言葉は発しないが、これ以上抵抗しても俺達がここから逃げない事は悟ったのだろう。

 立ち上がった……その手を取り俺は走り出す。

 犠牲が随分と出てしまった。

 だが、立ち止まっている訳にはいかない。

 死んだ奴が無駄死にと言われない為にも俺達は此処から逃げなければならない。


「後ろの守りを固めろ!!」


 俺はそう叫ぶ、するとノルンは頷き後方へと俺の指示を飛ばしてくれた。

 これでまた犠牲が出るだろう。


「よし俺達も――!!」


 それを感じてかカインは後ろへと下がろうとしている。


「駄目だ!! カイン達は前だ!!」


 だが、そんな彼を止め、前に出るように伝える。

 理由はある。


「なんでだよ!?」

「カイン達が居ない状況で前から敵が来たらどうする?」


 つまり、さっき俺達がやった事、それと同じ事をされたら?

 確かに奴らも決して弱くはない。

 強い方だった。

 だがそれでも勝てたのはカイン達が居たからだ。

 その彼らが居なくなるというだけでこちらは不安だし、なにより一緒に戦った奴隷兵の士気にも関わるかもしれない。

 だから彼らが必要だ。

 後ろは確かに心配だが、逃げるなら前も固めておかないと駄目だ。

 前方を塞がれてしまえば戦力が足りない現状ではあっという間に全滅してしまうだろう。


「……後ろの奴は犠牲か?」

「そうじゃない、そうしない為にも前にも戦力が必要なんだ」


 俺はあくまで冷静にそう返す。

 だが、正直言って犠牲だ……。

 それでも、俺はもう口にしてしまった……取り消すことはできない。

 そう思いながら前を走る。

 しっかりとクリエの手を握って……。

 ようやく手が届いたんだ、此処で離したくはない。

 そう思いながら、願いながら俺は進む。


 納得のいかないカインは不貞腐れてはいたが、仕方がない。

 彼の言い分はもっともなんだからな。

 だが、それでも……俺の言った事はすこしは分かってくれたんだろう。

 そう、願いたい。



 走っていると後ろからは悲鳴が聞こえる。

 俺にはどちらの悲鳴かなんて分からない……。

 だが、それでも俺達は走る。

 逃げ切れるかなんて分からない……いや、無理だろう。

 何故ならこちらには貴族であるノルンが居る。

 彼は顔が割れている……どこの街を攻めればいい何て分かり切っている事だろう。

 もうあの街には戻れないなっと考えるのが普通だ。

 だが、そうなればきっとあの街の人達は殺される。

 それだけは避けなければ……。


 何の罪もない人が自分の所為で傷つくかもしれない。

 いや、傷つくと知ったらクリエはますます落ち込むだろう。

 彼女を守る為に俺達はあの街を守らなきゃいけないんだ。


 俺はそう思いながら彼女の手を強く握り絞めた。

 絶対に放してやるもんかという意志を籠めて……。


「キューラ殿、早くこのまま!!」

「ああ、街に急ごう!!」


 ノルンは叫ぶが、俺はそれを遮って先程考えた事を口にした。


「街の事は私達に――」

「駄目だ!! 俺達の目的に巻き込んだんだ! 見捨てる訳にはいかない!!」


 あの街はノルンにとって大事な物だ。

 護るべき場所であり人が居る。

 それに魔王を倒してやると言った手前、一つの街すら救えないのなら意味が無い。

 だから――。


「このまま街を目指す、どの道逃げ道は無い」


 大量の兵を引きつれたままでは街は戦火に巻き込まれる。

 さて……どうしたものか、俺はどうするべきだ?

 この状況を打破して、街も護る……。

 奴らも人間だ……いずれ疲れて休息を得ようとするだろう。

 その時に考えたのでは遅いかもしれない。

 今、作戦を練らないとな……。


 じゃなきゃ、このまま本当に街についてしまって巻き込まれてしまう。


「……何か、何か手は……」


 ファリスもカインもやっと走っているこの状況。

 トゥスさんの弾もどの程度残っているか分からない。

 イリスの道具もそうだ。

 なら……やっぱり、こいつに頼るしかなさそうか……。


 俺はそう思いながら魔法陣の本へと目を向けるのだった。

 こいつに今の状況を変えれる魔法が乗っているのかはまだ分からない。

 だが、手があるとすればこれしかない。

 今俺が知る唯一の手段だからな……。


「………………」


 走りながら読むことはできないし、かといってクリエの手を離す訳にはいかない。

 どうにか、少しでも……本を読むことが出来れば。

 そう考えるが……方法が無い。


 どうする? どうすればいい?


 俺は奥歯を噛みしめながら、走り続けるのだった。

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