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291 心変わり

 彼らは己を過信するがあまり、やってはいけない事をやってしまった。

 確かにクリエが魔王の手下だと嘘をつき、戦う口実を作るという策は良かった。

 恐らく、戦いに参加した者には礼をするとでも言っていたのだろう。

 だが、彼らもまた人間だ。

 金などは欲しいだろう……だが、今まで虐げられた上、更には殺されそうになった。

 そこに誰かが助けに入ってくれれば……。


「お、お前達何故こちらへと剣を向ける!!」

「う、嘘だったんだ……こいつら俺達に嘘をついてたんだ!!」


 質問に怒号で答えた男が居た。

 彼は振り返り剣を高く上げ……。


「神大陸を狙ってるなら俺達の命なんてどうでも良いはずだ! だけど助けてくれたんだ! 魔王の配下なんかじゃない!!」


 それは流石に早計過ぎやしないか? とも思うが、まぁいい。

 こっちの戦力は増えた訳だ。

 確かに貴族御用達の兵は居る。

 だが、恐らくは奴隷? それとも貧困民そのどちらかである男達は……俺達の方へと心を動かして来た。

 なら……やる事は一つだ。


「聞け! 奴らは君達を道具としてしか見ていない! 助けてくれるというのも嘘だ!!」


 俺は彼らを味方につける為に叫ぶ。

 今のままでも戦ってくれそうではある。

 だが、その心が揺れては意味が無い……。

 確実にこっちの戦力へと取り込まなくちゃいけないんだ。


「戯言を……! 悪魔の言葉に耳を貸すな!!」

「助けてくれるというならなぜその命を奪おうとした!! 君達は選ぶ権利がある……道具として生きるか、人として生きるか……」


 貴族は俺の言葉に耳を貸すなと言いつつ、近くに居た男へと切りかかる。

 同時に、鳴り響く轟音。

 奴隷兵の横をかすめ、貴族の剣を弾いたそれはトゥスさんの銃だ。

 彼女は俺の意図に気が付いているのだろう、いやこの状況で気が付かな筈はない。


「たった一人の、ただの女の子を殺すためにこんな大勢で攻め込む者に正義があるのか!? その上そいつらは罪もない少女を殺している!!」


 そうだ、俺達は仲間を殺された。

 許すことはできない……だが、怒りや憎しみに捕らわれるのも駄目だ。

 だから、手を貸してくれ……ヘレン。


「そこの薄汚れた心を持つ卑怯者とは違い、友を仲間を守ろうとした少女を殺したんだ!! その卑怯者に君達やその家族を守ると言われ信じるのか!!」


 俺は叫ぶ……この場を、クリエを助けるためなら……俺は、俺は……どんな事もする。

 彼女の為ならこの場で英雄にだってなってやる。


「魔王なら倒してやる! だが、この場はその力を貸してくれ!! 俺には彼女が必要だ……彼女を守る力が欲しい、だから……もう一度言うその力を貸してくれ!!」


 俺の言葉が飛び交う間も貴族は剣を振るっていた。

 だが、その身体に鞭を討ちながらもカインとファリスは懸命に奴隷兵を守ってくれている。

 動け、動いてくれ……そう願いながら俺は彼らを見つめた。

 すると、今まで迷いを見せていた瞳に色が移った様な気がした。

 俺の方へと目を向けていた人達は雄たけびを上げ剣を高く掲げる。

 すると、貴族へと向かっていくではないか……彼らを動かすことが出来た。

 その事に安堵しつつ俺も貴族へと向かい走り出す。


 形勢は逆転した。

 俺達だけではまだ戦う意志を見せていた貴族達も多勢に無勢になれば違う。

 いや、寧ろ彼らの策としては正解だったが、今回に限っては奴隷兵を連れてきたのは裏目に出た。

 だからと言って、まさか自分達を裏切ろうとするとは思わないだろう。

 何せ数も数だ。

 それでも裏切った理由は……俺達にあるはずだ。

 俺達は数こそは少なかった、だがここまで自分達を追い込んできた。

 その上、仲間であったはずの貴族に向けられた凶刃から守ってくれたとなれば俺だって寝返るだろう。


「クソ! くそぉおおおおお!!」


 1人の貴族が叫び、奴隷兵に胸を貫かれる。

 戦う意志が無い者は良いが、まだその意志があれば危険だ。

 何をするか分からない。

 とはいえ、これ以上クリエの前で血を流させたくはない。


「なるべく捕らえるんだ!!」


 俺はそう命令を下すとカイン達は頷いてくれたが、奴隷たちはそう簡単には聞いてくれない。

 当然だ。

 彼らを動かしているのは俺達への感謝ではなく、怒りと憎しみ。

 そして恐怖だ。

 だからこそ、彼らは止まらない。

 幾ら俺達へと感謝をしても……心変わりをしても止まる事は無いのだ。


「――っ!!」


 だからこそ、俺は地面を思いっきり殴る。

 すると轟音と熱気が発せられ、その場が一瞬静かになった。


「――なるべく、捕らえるんだ。あの子はクリエは血が流れるのが好きじゃない」


 力を貸してくれとは頼んだ。

 だが、虐殺をしろとは言っていない。

 立場が変われば虐げられてきた者はそのうっぷんを晴らしたいだろう。

 それは分かる。

 だが、分かるからと言って許可をする訳じゃないというのはしっかりと覚えてもらわないとな。

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