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289 精霊の業火

 ファリス、カイン、チェル。

 そしてライムにトゥスさんにイリス……。

 仲間は集まった。

 本来ならここにヘレンも居た事だろう……だが、あの子はこいつらに殺された。

 正直に言って許せるわけがない。

 だが、俺が、俺達が……ここで倒れてはいけない。

 彼女はクリエを助けてくれようとしたんだ。

 だから……。


「いくぞ!!」


 俺はそう口にした。

 すると――。


「キューラちゃん!!」


 チェルの叫ぶような声が聞こえた。

 何かあったのだろうか? 俺は思わず振り返る。

 するとそこには一向に立ちあがろうとしないクリエの姿があった。

 なるほど……彼女は悔やんでいる。

 自分の所為で人が死んだことを……。

 クリエは優しいから傷つかないなんて事は無いんだ。


「…………」


 だが、どうする?

 このままではクリエは逃げれない。

 抱えて逃げるか? でも誰が? 俺は無理だ。

 トゥスさんならいけるか?

 だが、彼女は貴重な遠距離攻撃の手段を持っている。

 同じ役割なら俺も出来るが……俺の魔法で一撃で倒せるか分からない。

 だが、トゥスさんなら……。


「何してるんだい!! さっさと逃げるんだろう!?」


 痺れを切らした様子のトゥスさんは俺達の傍へと来ていた。


「トゥスさん……クリエが……」


 俺は彼女にクリエの様子を伝えると、彼女は苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。


「参ったね……後ろにも味方が居るんだろう?」

「ああ……」


 俺はトゥスさんの言葉に頷く。

 相手は軍。

 だが、彼女の言う通りこっちにも味方がまだ居る。

 彼らは時期に合流できるだろう……だが、同時に後方にも軍がある。

 こちらからも向かって合流したい所だ……。

 だが、肝心のクリエが動けないのではそれが出来ない。


「ど、どうした? 動かなくなったぞ?」


 幾ら恐怖で支配してもこっちが何もしなければそれも薄れていく……。

 このままじゃ駄目だ……どうにかしないと……。

 仕方がないか……俺は仲間達へと目を向ける。

 カインは平然としているが汗が多い、疲れているんだろう。

 ファリスの方はその強さは恐らく俺達の中では一番だろう。

 だが、彼女は子供だ……顔色は悪くなってきている。


「…………」


 これ以上ファリスを戦わせるのは酷だ。

 つまり、動ける人間はトゥスさん、イリスそして……俺。

 俺は大して動いていないし……まだ体力は残っている。

 だが、残念な事に実力は低い。

 かといって……クリエを守れないのは……彼女を守るために手を貸してくれたやつを犠牲に何かできやしない!!

 そう思うと左目が熱を帯び、右目は痛みを発する。

 またこれか……だが、今回は丁度良いのかもしれないな。


「精霊の業火よ、我が拳に宿りて焼き尽くせ――!!」

「キューラ、何をして!?」


 当然トゥスさんは怒鳴り声をあげた……だが、戦うしかないんだ……。


「ひ!?」


 貴族の兵達は燃え盛る俺の腕を見て悲鳴を上げ始めた。

 大丈夫だ、もし燃えても……まだ動くのならチェルに治してもらえばいい……怒られるだろうが、それでも守る為なんだ。


「おおおおおおおお!!」


 それに以前より……熱や痛みをあまり感じない。

 これなら……行ける!!


 俺は拳を振るい、兵をなぎ倒す。

 すると怯えた兵達は次々に戦意を失っていく……。

 こうなれば後は簡単だ。

 後は――。


「ひ、怯むな! 怯むなぁ!! 奴を、あの魔族を殺せ!!」


 魔族? という事はファリスか!! そんな事はさせない!! 俺はそう考え、迫って来た兵の腹部へと拳を叩きこむ。

 相手はちゃんと鎧を着ている。

 大したダメージは無い……しかし、それはあくまで普通の体術だったらの話だ。

 今の俺は拳に炎を纏っている実際に俺も火傷を負うほどの威力だ。

 鎧はひしゃげ、男は胃液を吐き出しながらその場に跪く……。


「っ……!?」


 まだ威力は無い、そう言えば心無しか魔拳の炎も勢いが無いようにも思える。

 だが、段々と俺の腕にも痛みと熱が伝わって来た。


「キューラ、もうよすんだそのままじゃ……アンタが……」


 トゥスさんは俺の肩を掴み境石的に振り向かせた。

 すると当然彼女と目が合うのだが……彼女は驚いた表情を浮かべている。

 どうしたというのだろうか?


「アンタ……一体、何が?」


 俺が、一体どうしたというのだろうか?

 だが、そんな事はどうでもいい!!

 今は――――!!


「押し込め!! だが、戦意の無い奴は捕らえるんだ!! 無駄に傷つける必要はない!」


 今は、クリエを助けることが重要だ。

 俺はそう思い叫び声を上げる。


 カインもファリスも疲れているはずだ。

 だが、俺の魔拳を見て怯んだ連中のお蔭で相手の士気と指揮は崩れていた。

 更には向こう側からも剣戟と声が聞こえてくる。

 その声は――。


「進め!! その先に勇者が居る!! 義は我らにある! 怯むな弱みを見せればそれが弱点になるぞ!!」


 ノルンの声だ。

 もうそこまで来ている……その事に怯える兵達を見て俺は勝利をより確かな物へとするために拳を構え叫ぶ。


「お前達はもう終わりだ!! 大人しく剣を捨てろ!! 命だけは助けてやる」


 そう脅すのだった。

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