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288 勇者たちの戦い

 襲い来る兵をカインが捌き、俺とファリスで後方の敵を狙う。

 万が一ノルンの兵が来た時は攻撃を控えなくちゃならない。

 だから、俺達は彼らに目印を持ってもらっている。

 仲間を傷つける訳にはいかないからな。


「くそ!!」


 だが、俺は悪態をつく……相手の数が一向に減らないのだ。

 いや、実際には減っている……しかし、後ろから後ろからとこう続けざまに来られてはこっちの方が持たない。

 力関係だけならこっちの方が上だとしてもだ。


「我々には勇者が付いている! 行くぞ!!」


 そして、士気が一向に下がらない。

 それは薄々考えてはいた。

 ノルンの軍にはあの偽勇者が居る訳だ、貴族でもない一般兵なら自分達に正義があると思ってもおかしくはない。


「なぁ、あいつら裏切ったりしないよな?」


 流石のカインも疲労の所為かそんなことを口走った。

 俺はそれはない! と言いたかったが、口を閉ざした。

 ノルンは貴族だ。

 クリエを助けようとはしてくれてもまず自分の民を護らなきゃいけないと思うだろう。


 それで、俺達を裏切る可能性は少なからずある。

 だから俺は安易にそれは無いとは言い切れない。

 疑り深くなった性格を悔やみつつ、俺は前を睨む。

 そんな時だ。


「ひっひぃ!?」


 奴らの後ろの方から悲鳴が上がった。


「なにか、変……」


 ファリスもそう口にして俺は奥を睨む。

 隊列が乱れ焦り始めている。

 何が起きたのか? 話でも聞いているのだろうか?


「勇者が裏切った! 後方から責められている!! 奴も魔王の配下に違いない、たぶらかされた連中も――」


 悲痛な叫び、だが……。

 それは俺達にとって反撃の一手にもなりうる。


「カイン! ファリス、チェル!! 押し込むぞ!!」


 ここまで来たら疑うなんて馬鹿馬鹿しい、いや、寧ろ疑う必要が無かったことに安堵し、俺は拳を握る。

 するとカインも頷き剣を握る手に力を籠め。

 ファリスは大鎌を構えた。

 闇が晴れると今度は太陽の光に視界を奪われるだろう。

 俺はそうならないように仲間達に指示をする。


「目を覆え! 闇が晴れる!」


 だが、その必要はなかった……太陽は俺達の後ろにあり、結果、まともにその光を浴びたのは敵だ。

 良い流れがこっちに来始めた!

 カインはその隙を逃さずに敵を切り伏せ、ファリスもまた敵の首を切り落とす。

 俺も前へと飛び出し拳を振るい顎を狙う。

 狙って殴るのは難しいが、人の弱点の一つだ。

 怯んだ相手の腹へと蹴りをお見舞いした。

 俺が倒せたのは一人だが、たったの一瞬で敵の数は減った。


「あ、ああ?」


 男は俺達を見て一歩後ろへと下がる。

 たった一人恐怖に支配された、ただそれだけ……だが……。


「ひっ!?」


 たった一人……その恐怖は倒された仲間達を見ていた他の奴らにも伝染した。


「お前達! しっかりしろ!!」


 激励を飛ばす貴族は居た。

 だが、人の恐怖はそう簡単に克服できるものではない。

 ましてや前方の強者、後方に軍。

 彼らは囲まれているのだから……。

 それだけではなかった。


「何をしている奴らはたったの3人だ! あの女二人は戦えない!!」


 脅威は前方に居る俺達だけだと貴族は叫ぶ。

 するとまだ恐怖に支配され切っていない兵は剣を再び握り始めた。

 しかし――。


「そうだ――! それで――――っ!?」


 森の中に轟音が鳴り響く。

 すると貴族は頭から血を吹き出し倒れて行った。

 俺はそれを見て、確信した。

 この状況で叫ぶ貴族だけを狙った轟音。

 それは間違いなく……。


「ア、アールスタイン様?」


 1人、彼の名前だろうか? 倒れた貴族を呼んだ。

 しかし、もう貴族は動かない。


「誰が俺達だけだと言った?」


 俺はそんな中でそう口にした。

 そう……きっとあの轟音は彼女の得物から発せられた物だ。


「こ、この邪教徒め!!」


 すると怒りに身を任せた男は此方へと迫って来た。

 かと思えば、目の前に何かが投げ込まれた。

 それは瞬く間に砕けると強風を生み出した。

 俺は咄嗟に身構えたが、男は完全に油断していたのだろう。

 風に翻弄され体勢を崩す。


「キューラお姉ちゃんに何をするの?」


 その瞬間を逃さずファリスは男の首を落とした。

 た、助かったが……今のは精霊石かなにかか?

 俺は砕けた石を拾う。

 一体誰が? トゥスさんはこんな攻撃をしないはずだ。

 そう疑問を浮かべた……。


「キューラ!」


 すると俺の名を呼ぶ女性の声が聞こえた。

 その声には聞き覚えがあった。

 ああ、そうか……そうなのか、キミも……君も変わらずこっちの味方になってくれるのか……。

 いや、彼女は普通の人だ……あんな怖い目に遭ったら、静かに暮らす方が良いだろう。

 だけど、そうか、味方になってくれるなら心強い。


「イリス、助かった!!」


 俺も彼女の名を呼び、助かった事を告げた。

 これでトゥスさんとイリスとも合流が出来た……。

 後はクリエを連れて逃げるだけだ!!

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