287 勇者救出戦
戦いは始まった。
クリエを助けるために此処にいる俺達。
そして、クリエを殺すために此処に来た貴族達。
名前はもう忘れたが、偉そうな貴族にけしかけられた兵はカインとファリスの手によって数を減らしていく。
だが、多勢に無勢なのは変わらない。
彼らには傷が絶えずチェルの魔法は必須だろう。
かと言って俺も魔法で範囲に攻撃!! という訳にはいかなかった。
その理由は勿論仲間を巻き込まないためだ。
「っのぉ!!」
俺は拳で殴り、チェルの近くに来た兵士を倒す。
二人に比べ俺は弱い。
だが、対抗できない訳ではないし、こうしてチェルを守っている訳だ。
寧ろこれは良い手段だ。
戦いにおいて回復魔法や薬を使えるものは真っ先に倒すべきだ。
何故なら傷を治されてしまえばまた立ち向かって来るのだから。
とはいえ、回復魔法にも限度がある。
ずっとこうして責められ続ければ不利なのは俺達だ。
それに……。
「くそっ!! またか……」
俺は立ち上がってカインへと襲い掛かる兵士を見てそう呟いた。
そう、彼らにも回復魔法の使い手は居る。
何とかして彼らを先に倒さなければならないが、相手は軍だ。
当然彼らは多くの兵に守られていた。
このままではこっちが不利なのは変わらない。
なら、ライムを潜り込ませ一網打尽にするか? という手も考えたが――。
「魔法使い、今のところ見えないが……どこかに潜んでるはずだ」
俺が後方でチェルを守る理由はこれだ。
近くにはクリエもライムも居る。
そして、ライムの弱点は魔族や混血が使える氷の魔法だ。
ドラゴンに匹敵するスライムと言う魔物でも氷だけは苦手で唯一の弱点。
それが分からない連中ではない。
「クソッ……思うように動けないな」
俺は悪態をつく。
せめてトゥスさんが居れば森の中からの狙撃で……と思うが、今彼女は居ない。
ここに向かって来てくれているとは思うが、それは悪魔で俺の願いだ。
「どうする?」
ノルン達が間に合ってくれればこっちの兵力もあがる。
だが、それはそれで危険な行為だ。
彼らもまた囲まれてしまうだろうから、逃げ道である前方……。
詰まりこっちを何とかする必要がある。
だが、こっちはこっちで戦力不足。
こうなればもう仕方がないだろう……俺はそれしかないと思い、二人に指示をする。
「カイン、ファリス! 下がれ!!」
そう、巻き込まないために彼らを一旦後方へと逃がし魔法で対抗する。
それならば、一気に兵の数も減らせるはずだ。
問題は……相手を殺すことになるかもしれないという事とそれをクリエは見たくないだろうという事。
だが、それを考えていたらこのままやられるだけだ。
「ファリス! 魔法だ、合わせてくれ!!」
そして、俺だけじゃ仕損じる場合だってある。
だから、ファリスへと協力を頼んだ。
「黒き世界……人の住まざる異界よ、その姿をその力を現世へと示せ!! シャドウ!!」
詠唱をし、魔法を唱える。
すると辺りは闇に覆われていく……つまり、人はあまり目が効かなくなってくるという訳だ。
森の中だし影はある……だが、こっちの方が威力が見込める。
俺がやろうとしている事を察したのだろうファリスは――。
「闇の眷属、その刃を我が敵の懐へと……我が敵を穿て……シャドウブレード……」
魔法を唱えた後、悲鳴が聞こえる。
片目で見える範囲では誰かが魔法によって腹を刺されている。
だが、まだ数が減ってはいない。
次々に悲鳴は聞こえるが……相手にだって魔法使いは居る。
詠唱をしはじめたのに気が付いた俺は――。
「シャドウブレード!!」
威力は落ちる。
だが、すぐに魔法を出せるのは俺の強みだ。
魔法使いを狙い、魔法を唱えると悲鳴も無く倒れる。
ファリスの魔法が広範囲にでたらめに討たれているのなら、俺は狙って打てばいい。
「シャドウ、ブレード……」
魔法は人を傷つけた感触が無い。
だが、それをしているという罪悪感はある。
正直気持ち悪いし、気分が良い物ではない。
だが……俺は、俺がクリエを守りたいという意志を偽りたくはない。
彼女の為ではなく、俺がそうしたいからこうするんだ。
「クソ!! 化け物どもめ!!」
人間にはこの闇の中動くのは厳しいだろう。
だが、目離れてくる物だ……俺へと向かって来た男はその刃を振り下ろして来た。
避ける暇はなかった。
しくじった……そう思っていたのだが――。
「きゃあ!?」
突然身体が横へと飛ばされ俺は思わず可愛らしい悲鳴を上げてしまう。
口元を押さえながら何が起きたのかを確認すると……。
「ガッ……!? グ?」
そこには男の腹部へと刃を立てるカインの姿があった。
「悪いな……仲間が死ぬところはもう見たいとは思わないんだ!」
深く突き刺されたそれを更に深く深く……差し込んだ彼は、男に足をかけ剣を引き抜く。
どさりと地面へと倒れた人間だった物は……もう動いていなかった。
「カイン……」
「油断するな、俺も目が慣れてきた!」
正直助かった。
だが……。
「前には行くなよ? 俺達を守ってくれ」
この暗闇の中ではカインも不利だ。
だから、俺はそう頼むのだった。




