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28 食堂へ

 キューラは魔法の勉強を始める。

 魔王に対抗できる魔法は無いかと探しつつも現状、操れる魔法や本に記されている手段では歯が立たないのではないか? と考える。

 しかし、今の彼に手はなく大人しく一から学び直すのだった……

 それから暫くし、集中力が色々な原因の所為で切れた彼はクリエと共に食事へと向かうのだった。

「勇者様、その大変申し訳ございません!」

「い、いえ……仕方が無いですよ……」


 食堂について昼飯を取ろうとした所、給仕のお姉さんは此方へと向かって来るなり食事が取れない事を告げてきた。

 どうやら釜戸に問題がでたらしく……料理が出来ないらしい。


「何があったんですか?」


 俺がそう聞くと彼女はびくりと身体を震わせこちらを怯えた瞳で見て来る。

 おいおい、そんな怖がらなくてもいいだろうに……


「そ、その……精霊石が壊れてしまって……」

「あー……」


 それは仕方が無い。


「エルフはいないんですか?」


 お姉さんにそう聞くクリエだったが、すぐにお姉さんは申し訳なさそうに頭を下げる。

 精霊石とは魔法を貯め込む特別な石だ。

 所謂マジックアイテム……とは言ってもこの世界の魔法具なんてそれ位しかない。

 製法はエルフしか知らず、例えその方法を知っていてもエルフでなければ作る事も直す事も出来ないといった厄介なものだ。

 しかし、釜戸の火や明かり、風を起こしたりと便利な物でこういった大きな宿などではそれを使う所も多い。

 事実、学校の明かりや食堂でも使われていたぐらいだ。

 それにしてもエルフ……エルフか……


「残念ながらこの街に留まっているエルフの方はいらっしゃらないんです……」

「え?」


 その言葉に俺は思わず、そう返してしまった。

 居たよな? エルフっぽくないエルフが……


「す、すみません!!」


 俺の言葉をどう取ったのか再び謝る女性。


「い、いや、こっちこそっ!! 所でその俺……朝にあったんですけど、エルフに……」

「なら、旅の方かもしれませんね? 精霊石を直せるか聞いて見ましょう? キューラちゃんその人は何処に居るか知ってますか?」


 場所か……確か酒場か、賭場に居るはずだな。


「ああ、大丈夫だ……酒場か賭場に居るはずだ」

「酒場に賭場? あ、あの……差支えなければ、その方って――煙草とか吸っていましたか?」

「ん? ああ、確か酒、煙草、賭けぐらいしか楽しみは無いとか言ってたよ」


 もしかして、あの人……トゥスという人を知ってるのか? だったら何でエルフはいないなんて嘘を……


「あ、あの、あのあのあの! そ、その方はその……」


 ああ、もしかしてエルフにしてはダメ人間だし、どこか怖いから敬遠されているのかもしれないな。

 とはいえ、そんな居ないとかそういった扱いは好きじゃないな……


「その人の事なら大丈夫だ、俺達に任せておけって」

「え!? そ、そうではなくてですね……」

「大丈夫ですよ、ちゃんと連れてきますから」

「ゆ、勇者様ぁ!?」


 俺達の言葉に慌てている様子のお姉さんだったが、このまま精霊石が直らなかったら困るのはこの宿だ。

 さっさと直す為にもあのトゥスというエルフを探そう……


「クリエ、まずは酒場に行こう」

「そうですね、キューラちゃんの話ではお酒が好きみたいですし、行ってみましょう」

「ちょ、ちょっと待ってください!?」


 早速行こうと足を動かすと、慌てて俺達の目の前に回り込んできたお姉さん。


「待つも何もこのままだと困らないか?」

「そ、それはそうですけど、あの人は――」


 なんでそんな怯えてるんだ?

 いや、確かに怖かったけど……


「他にエルフの人居ないんだろ? だったら頼むしかない、俺達だって腹が減ってるんだ」

「で、ですから、それでしたらあの……外にお店が」

「それでも良いですけど、他の方も困るでしょうし、なによりこの宿は宿代に食事代も入っているはずです。店側は都合が悪くなってしまいますよ?」


 そうだったのか、それは大変だな……だったら尚更、早く直した方が良い。


「それも、返金をすると言っておられました」

「なぁ……返金は正しいとは思うが、直せるもんなら直した方が良いと思うぞ? このままじゃ店は損するんだぜ?」


 それに何故にそこまで頑ななんだ? そもそもこのお姉さんに俺達を止める理由も義務もないだろうに……


「それでも、あの人は勇者様に会わせる訳には……」

「私に……ですか?」

「どういう意味だ?」


 いや、本当意味が分からない……

 そう思っていると彼女は辺りを気にし始めると意を決したかのように口を開き――


「あの人は……有名ではないですが……その、一部では死神と恐れられているそうです……」

「死神? いや……」


 確かに銃口を向けられた時はビビったよ? 正しくは俺に向けられた訳じゃなくてナンパ男へだったけど……

 それでも、俺を助けてくれた人でもある訳だ。


「そんなに怖がる必要はないって……」

「で、でもエルフの方が居なくなったのはあの人が居たからだと言う話も……」


 なるほど、一部って言うのはエルフ達には死神と呼ばれているのか……

 いや、でもあくまで噂だろうに……


「そうなんですか? ですが他にあても無い以上、お会いしてから決める事にしますね」

「勇者様! 私の話を聞いていましたか!?」


 クリエの言葉に思わず叫ぶお姉さんだったが、クリエは微笑むと――


「大丈夫です、私には心強い従者であるキューラちゃんが居ますから、ね?」

「あ、ああ……」


 う、うーん……真面目口調でそう言われると照れるな……


「と、とにかく俺は無事だったんだし、会う程度なら問題は無いはずだ。クリエも言ったけどその上で決めるよ直せるなら直してしまった方が良いだろ?」

「…………」


 お姉さんはそれ以上何も言う気はないのか顔を床へと向けてしまった。


「その、ごめんなさい、でもきっといい結果にして見せますから」


 クリエは申し訳なさそうに表情を変えるとそう伝え俺へと顔を向ける。


「キューラちゃん、急ぎましょう」

「そうだな」


 俺達は今度こそ、食堂を去り、まずは酒場を目指す事にした。

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