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2 悲鳴の元へ

 ターグの稽古に付き合っていたキューラ。

 だが、剣の腕では彼に敵うことなく……キューラはひたすらに彼が最近覚えたという疾風の型の練習台にされたのだった。

 そんな稽古も終わり、休憩をしようやく息を整えた時……キューラ達の耳に響くのは女性の悲鳴。

 キューラはその声を聞き、ターグに教師を呼ぶように指示を飛ばすと自身は悲鳴の元へと駆けて行くのだった……。

 俺は先程聞こえた悲鳴の元へと急ぐ……。

 確かあの声はいつも世話になってる先輩の物だったはずだ。

 胸騒ぎがする。

 そう思い俺は急ぐ足をより速めた。


「――ッ!!」


 目的の場所へと辿り着くとそこには生徒数が少ない古代魔法科の先輩であるミアラさん。

 それと……あれ? おかしいな……何時も一緒のはずの人が居ない……ミアラさんって確か彼氏居たよな?

 いつも一緒に居て、リア充爆発しろってぐらいべたべたな男が……。

 だが今はその男の姿は見えず、代わりに居るのは幼女だ。


「あ? ああ……」


 だが、ミアラさんはその幼女にひどく怯えている様で俺は咄嗟に彼女の目の前へと躍り出た。


「大丈夫ですか!? 先輩!!」


 そして、俺は目の前に居る幼女を睨み……気が付いた。

 両目が赤い……特別珍しいって訳でもないが、少なくともこの街には少なかったはずだ。

 なのに、何で?


「ま、魔族? 純血の魔族が何で……」


 そう、両目のが赤い瞳の人間……俺と同じ様な真っ黒な髪を持つ少女の正体は魔族だ。


「えぇ~、もう一人の混ざり者(クズレモノ)が来ちゃった……めんどくさいなぁもう……」


 心底めんどくさそうに両手を下へとだらんと垂らす少女は俺へとうんざりとした瞳を向ける。

 クズレモノ……つまり、俺や先輩の様に人間の血が混じっている者の事を魔大陸の魔族はそう言うって確かこの前授業で……。

 いや、でも魔族がここに居る事自体はおかしくはない。

 この街にも何人かいるし……誰かの子供だろうか?


「キューラ君気を付けて! この子にあの人が! ……? ……あ、あれ? あれ? なんで、大事な事のはずなのに……」

「先輩?」


 先輩の様子がおかしい事に気が付いた俺は振り向かずに尋ねる。

 いや、そもそも何で先輩はこんな幼女に怯えてるんだ?

 確かに相手は純血の魔族……大昔では俺達が住む神大陸(しんたいりく)を脅かす存在だった。

 ……とはいえ、今では戦は無く、普通に暮らしている人だって多い。

 やっぱりこの子もそうなんじゃ?


「くすくす……」

「ん? 何で笑ってるんだよ……君は一人なのか?」


 俺は心にぽっかりと何かが空いた気がし、不安な気持ちになりながらも少女に問う。

 良く分からないが、俺も何でこんな子に警戒をしていたんだろうか?

 そんな事を思っていると――。


「面白いからよ! アンタ達は私が怖いのに、その理由が分からない気付いてない」

「え? 気が付いてない?」


 どういう事だ?


「だって……面白いよね? たった今まで居た人さえ忘れちゃうんだもん」


 ころころと笑う幼女に俺は不安を感じた。

 この子は一体なにを言っているんだ?


「わ、忘れる?」

「な、何が言いたいの?」


 意味が分からない、だが先輩はこの子に何が怯えていて、俺の中では気をつけろって言う警鐘が鳴り響いている。

 何かがマズイ、何を忘れた? いや、少し前までは思い浮かんだはずだ……。

 なのにそれが思い浮かばない?


「お前、何をした? ベントに……この冒険者学校に何しに来た?」


 嫌な予感に冷や汗があふれ出し俺は少女に問う、すると彼女は可愛らしい少女とは思えない笑みを浮かべ――。


「魔族の誇りを捨てた混ざり者(クズレモノ)……新たな魔王様は貴方たちから殺す事にした……ううん、存在を消す事にした……そう、まるで最初からそこに無かったかのように」

「――はぁ!?」


 彼女の言っている意味が分からず俺はただ呆然とその言葉を聞く――すると少女は大きな鎌を何処からともなく取り出し――。


「これは裏切り者達の血へ魔王様が下さるお優しい判断だよ」


 まるで遊んでいるかのような無邪気な少女はその鎌を軽々と振るい俺の身体を裂く――。


「っ!?」


 が……。


「キューラ君!?」

「あ、あれ? なんだ……なんともないぞ……」


 先輩は悲痛な叫び声を上げてくれたが、鎌は実体はないのか俺を通り過ぎただけだ。

 なんだ、ただの子供の悪い冗談か……そう思っていると――。


「あっと一人ぃ~」


 少女は俺の横を通り過ぎ、彼女を視線で追って行くとその鎌を再び振り抜こうとしているのが見えた。


「い、いやぁぁぁあああ!?」


 先輩は尋常じゃない位、叫び声を上げる。

 なんだ? だって何とも――いや、待て……何か身体がおかしい。


 俺が異変に気がついた時にはもうすでに遅く、先程鎌が通り過ぎた場所からは黒い(もや)が溢れ出ている。


「な、なんだよこれ!?」

「うるさいなぁ……それは君だよ、君は靄となってこの世界から消えるんだ……そう、さっきのみたいに人の記憶からもこの世界の記憶からも無かったことになる」


 それを聞き俺はゾッとした。

 つまり、それはもしかして――古代魔法科は俺とミアラさん、そして先生の少数じゃなかった?

 もしかしてもっと本当は居て……そいつらは皆こいつに?

 意味が分からない! だが、今思い出した……ついさっき俺は先輩が二人だと思ってたはずだ。

 つまり、一人はこいつに……たった今殺された!!


「あはははははは……これで、生徒は全滅」


 鎌を振り上げる少女、このままじゃミアラ先輩まで――そう思い身体を動かそうとするが全く動かない。

 それどころか左目が熱くなってきたまさか燃えてるんじゃないだろうな?

 痛みで叫びたいが声も出ず――俺は悶える。

 すると――。


「ん?」


 幼女は何故かこちらへと振り返り訝し気な表情を浮かべた。


「あれ? なんでまだ……な、なに? その瞳……なんで混血(クズレモノ)のアンタがそんな赤い瞳に……」


 少しでも希望を持たせて叩き落すつもりだろうか? そう俺は思った。

 だが、自身の身体を見下ろしてそれが違うと理解した。

 何故なら黒い靄は霧散するどころか再び俺の身体に戻って来ていている。

 どういう理屈か分からない、だが……どうやら俺は消えずに済んだようだ。


「ぁ……ぁぁぁあああああああああ!?」


 しかし、左目からまるで火が出ているかのような熱さを感じるとそれは次第に俺の身体を包み始め――絶叫をする。

 一体なにが俺に起きている?

 そう思う事も出来ずに……俺は痛みに耐える事もせず悶える。

 だが、思ったよりその痛みは長くは続かず俺は息を粗くしつつもどうにか平静を保とうとした。


「キュ、キューラ君?」


 先輩が名を呼ぶって事はまだ俺は消えてないって事か?

 そんな悠長な事を考えられるぐらいには痛みが引き……改めて身体を見てみると――。


「……なんともない?」


 なんか違和感があるが、いつも通りの俺だ。


「な、何で消えないの!? あんた一体何なの!!」


 幼女はそう叫び俺へと向かって来ると再び鎌を振り下ろす。

 当然俺は避けられるわけがなく……再び身体を裂かれるのだが――。


「…………嘘……魔王様の力なのに……なんなんだ……お前は――っ!!」


 今度はピクリとも変化が起こらない俺の身体を見て幼女はその顔に絶望を色濃く出した。

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