286 墓の主は?
まさかトゥスさんの?
俺は不安になりつつもその墓に刻まれている名前を確認する勇気はなかった。
だが、誰かがここで死んだ。
そして、それはあの墓を見て分かる通り、最近だ。
更にはクリエに関係のある人物で、彼女はそれを悔やんでいる。
だからと言って俺達が彼女を諦める訳にはいかない。
助けに来たんだ。
それは嘘偽りのない言葉だ。
だから……。
「キューラ!! そこまで来てるぞ!!」
「分ってる、チェル、クリエを連れて下がれ!! カインとファリスは前へ!」
俺は仲間へと指示をし、辺りを警戒する。
前へと言ったがカインが向いている方向という意味でだ。
何処から来るのかは分からない。
ここは森だからな……。
もしかしたら後方から狙ってくる可能性がある。
だが、それはあくまで可能性というだけだ。
だから、きっと奴らは目の前からくる。
小屋の入口からも真っ直ぐ見える位置だ。
何故そう思うか、簡単だ。
奴らは魔王の配下を倒すために派遣されている訳だ。
誰も見ていないとはいえ正当な理由がある以上、堂々としているだろう。
それが貴族……。
それが王族……。
「ライム、レムス……また力を貸してくれるか?」
俺は2人の使い魔に確認を取る。
するとライムは何も言わずにプルプルと震えた。
これは肯定だろう。
問題はレムスだ。
レムスは元々俺の使い魔ではなかった。
だが、それでもクリエを守ってくれたし手を貸してはくれた。
だから……出来れば一緒に居てくれると心強いんだが。
そう思っていると……レムスは大きな羽を羽ばたかせ、どこかに行ってしまう。
「そうか……ありがとうな」
ここまでクリエを守ってくれて助かった。
残念ではあるが、前の主人からは酷い目にあわされていたんだ。
無理強いする権利は俺にはない。
俺はそう思いつつ、前を睨む。
もう肉眼で確認できるほど兵士は近くに来ていた。
「目標確認! ですが、他にも魔物が居るようです!!」
大声で叫ぶ兵。
なるほど、俺達は魔物ってか……。
まぁ、彼らからすれば魔王の配下な訳だし、魔物と言うのも間違いではないのかもしれない。
だが、それでも……クリエをあんなにしたこいつらにそんな事は言われたくない。
「人を魔物扱いか……人を散々傷つけて置いてよく言う……」
俺がそう言うと一歩前に躍り出た派手な格好の騎士は笑う。
「人の言葉を話そうと魔物は魔物だ! 勇者と偽り人を惑わす魔物め!! 我がアールスタイン家がその正義を持ってお前達を討伐する!」
アールスタイン……聞いた事が無いな。
まぁ、そんな事はどうでもいい。
俺がやることは決まっているんだ。
「あのバカな女も惑わされ死した……非常に苦しい決断だった」
そんな時、目の前の男は急に語りだす。
こいつは一体なんなんだ? そう思っていると――。
「クリエさん!?」
ワザとらしく語られる声は異様に大きく、俺はそれがクリエへの攻撃だと理解した。
「あの女は――」
ゆっくりと紡がれる言葉、それはどんな事なのかは分からない。
だが、チェルの焦る声から考えてもクリエにとっては凶器以外の何物でもない。
「ヘレ――」
俺は貴族へと近づくと大きく踏み込み拳をお見舞いする。
まさかこの場で反撃にあうとは思わなかったのか、それともただ単に俺の攻撃ぐらいは喰らっても平気だと高をくくっていたのか、男は言葉を最後まで続けることは出来ず。
大きく揺れ、一歩後ろへと下がった。
「おまえ、お前!!」
そして、俺を睨み――叫びだす。
だが……俺だって許せない事は沢山ある。
「ヘレン? ヘレンなんだって……?」
地を這うような声を出し、俺は男を睨む。
すると――。
「あ、あのガキを殺せ!! 必要ならあの女の様に痛めつけ、みせしめにして構わない!!」
ああ、そうか……じゃぁあの墓は……ヘレンの物なのか。
そうか……彼女はちゃんとクリエを守ってくれようとしたんだな。
貴族だというのに……自分の立場が危うくなるはずなのに……。
それでもクリエをちゃんと人として見ていてくれたんだな。
ごめんな、もう少し早くここに来れていれば助ける事は出来ただろうに……。
「キューラお姉ちゃん……」
「多勢に無勢だぞ?」
「やるしかない、ただ、隙があったら逃げるんだ! 俺達はクリエを助けることが目的だ」
だから、ヘレン……君の死を無駄にしない為にもクリエを助けてみせるよ。
俺は墓には目を向けずそう誓うと……。
「やるぞ」
仲間へとそう告げる。
すると仲間達は武器を構え……。
「たった3人で何が出来る!」
先程の貴族はそう笑うが、お前はその3人のうちの一番弱い俺にいとも簡単に殴られたんだぞ?
「この3人ならやれるさ」
それに、きっと仲間達は此処に来てくれる。
俺は妙な確信を得ながらそう口にした。




