285 ドラゴ山へ
俺達が目指す場所はドラゴ山にある森……そこにある精霊の泉だ。
そこにクリエが居る。
「見えてきたな……」
カインの呟きの通り、山と森が見えてきた。
こっちの方からは敵が何処まで来ているかは分からない。
間に合ったのか?
俺は不安と焦りを覚えながら森へと近づく。
すると横を歩くファリスは……。
「先に、行く?」
「駄目だ、一緒に行こう」
ファリスは貴重な戦力だ。
強いのは十分わかってる。
だが、多勢に無勢では幾らファリスやカインでも不利だ。
なら、一緒に行く方が俺達にとっても安全につながる。
「クリエが居るのは精霊の泉だ……そこまで行けばライムやレムスも居る」
「うん! それに他の人も来てくれてるかもしれないね」
チェルの言葉に俺は頷く。
だが、それはあくまで希望……願っているだけだ。
だからこそ、俺は――。
「居てくれれば助かる、だが、居るとは限らない……皆、消耗し過ぎないように注意をしてくれ……俺達の目的はクリエを助ける事だ」
あくまで敵を倒す事ではない。
そう主張しながら進む。
森へと足を踏み入れ、耳を澄ますが何も聞こえない。
取りあえずは間に合ったか? それとももう事は済んだ後なのか……。
いや、悪い方に考えるのは駄目だ!
俺は……俺達は森の中を進む……。
この森のどこかに精霊の泉がある。
勿論その場所は聞いている……だから迷わずに俺達は進むことが出来た。
だからこそ、俺達は……。
「もうすぐだ、もうすぐ……」
森の中で必要以上焦る事は無かった。
クリエへと一歩一歩近づいている……そう考えるだけで俺は焦りそうになるが……それでも、だ。
「あそこじゃないかな!」
チェルが指を向け教えてくれた。
確かに彼女の指の先には開かれた場所があり、そこには湖が見えた。
そして、俺はその傍に佇む女性を見つけ、思わず駆け寄った。
「キューラお姉ちゃん!!」
ファリスに呼び止められたが、それどころでは無い。
彼女はそこに居る、それだけが俺を前へと進ませた。
「クリエ!!」
彼女はゆっくりとこちらへと目を向ける。
その顔は疲れ切っていた。
俺を目にすると瞳を開き……。
「――――!」
彼女は何かを口にした。
だが、その声は聞こえなかった……。
俺は違和感を感じつつ彼女の傍へと寄る。
するとその傍にはライムとレムスも居た。
寄り添うように居る俺の使い魔達。
クリエは悲しそうな表情を浮かべ顔を伏せてしまった。
「クリエ、迎えに来たぞ」
手を伸ばし、彼女に伝える。
だが、彼女は首を振るだけだ……。
そして、何かを伝えようとするが、その口からは何も紡がれなかった。
昔聞いた事がある……過度なストレスによって声を失う事もあると……。
聞いただけだ治るのかは分からない。
今ここで治す手段はないが、此処から連れ出す事は出来る。
彼女の手を取って俺は立たせようとした。
しかし――。
「――――っ!!」
彼女は俺の予想外の行動に出た。
突然俺の手を振り払ったのだ。
彼女がそんな行動をするはずがない、そう思いつつ俺はもう一度手を取る。
だが――。
「お、おい! クリエさん何やってるんだ!」
駆けつけれてくれたカインも彼女に対し突込みを入れる。
だが、クリエは顔を伏せてじっとその場で動かない。
「……自分が居る事で俺達に迷惑をかけるとでも思ってるのか?」
俺は彼女に対しそう口にした。
するとびくりと身体を震わせるクリエ……。
「キューラちゃん! その言い方!!」
酷いとは思う。
だが……。
「もしそう思ってるなら、それは違う! もし迷惑ならここに来ない! 俺達は君を助けに来たんだ!!」
なのに、このままここに居るつもりなのか?
そんなのは駄目だ。
「クリエとにかく立ってくれ……」
俺は彼女に願う。
だが、クリエは立ち上がろうとはしない。
無理矢理連れて行こうか、そんな事を考えていると……。
「――っ!! 森が騒がしくなったな」
カインが辺りを見回しながらそんな事を言い始めた。
俺には分からないが、もう討伐体が動いているという事だろうか?
「クリエ!! 立つんだ!!」
俺は彼女の手をもう一度取る。
しかし、彼女は頑なに拒否をした。
そして、顔を持ち上げその瞳は涙にぬれていた。
彼女に一体なにがあったのだろうか?
俺はそれが気になったが……。
「ねぇキューラちゃん……あれってお墓?」
「はぁ?」
俺はチェルの言葉に振り返り、彼女が指を向けた方へと目を向けた。
そこには確かに出来がひどく悪いが墓らしきものがある。
だが、誰の? 情報にあったのはライムとレムスだ。
他に誰かいたというのだろうか?




