284 眠れぬ夜
眠れない。
俺は休憩の最中も悶々と考え事をしていた。
勿論、目は閉じているし横にもなっている。
だが、寝れないのだ。
理由は簡単、クリエが心配だからだ。
今休んでいるこの時も一刻一刻と彼女には危機が迫っている。
そう思ってしまうと気持ちが焦ってしまう。
「……………………」
だが、先程カインに言った通り、ここで無理に進んでも危険だ。
体力、戦力の消耗になってしまう。
それだけは避けなければならない。
俺は焦るのを感じながら無理矢理目を閉じ、考えないようにする。
だが……。
そんな事で考えないで済むのなら苦労はしない。
結局よく休めないまま朝は来てしまい、俺達は先へと急ぐ……。
そんな夜が数日続いた。
するとチェルが……。
「キューラちゃん、休もう?」
なんて言うほどには俺の疲労は見て取れるのだろう。
だが、昼間は進みたい。
そう口にしかけて俺は黙ってしまった。
「分かった」
そして、それだけを口にすると座り込み。
「お、おい! 進まないのかよ!!」
カインに訴えられたが、俺は頷く事で答える。
するとファリスがカインへと目を向け。
「キューラお姉ちゃん、眠れてない……疲れてる」
そう口にし俺の横へと座る。
それだけは分かったが、俺はすぐに意識を闇の中へと手放してしまった。
それだけ疲労がたまっていたという事だろう……。
夢の中、俺は懐かしい場所に居た。
「アウク……」
そこに居る男の背に向かって俺は彼の名前を投げかける。
すると彼は此方へと一切振り向かずに――。
「ふん、守るかよく言ったものだな……結局は何も出来なかった」
「まだ決まった訳じゃない!」
彼の言葉に俺は反論をする。
すると彼はちらりとこちらを向き……。
「ほう……」
何処か嬉し気に笑っていた。
「なら、どうする? 今勇者は危機的状況にある、お前のその足りない力と頭でどう戦う?」
「それは……もう手を打ってるんだ、やるしかない」
俺は答えになっていない答えを口にした。
すると当然アウクは溜息をつき顔を歪める。
だが、本当にもう事は動き出しているんだ。
「ここで諦めてたまるか……絶対にクリエを助けるんだ!!」
「口だけは一人前だな?」
そう言われても仕方がない、事実今のままではそうとしか言いようがない。
だからといって俺には彼女を助けないという選択はないんだ。
「だが、今のお前に何が出来る、技術も仲間もロクに無いお前に」
「技術はそうだが、仲間は居る……やれるだけやってみるしかないだろ」
俺はアウクの問いにそう答えた。
事実、今の俺に十分な技術があるとは思わない。
いや、思ってはいけない……レラ師匠のお蔭で以前よりは強くなれた。
それもまた事実だ。
だが、まだ伸びしろはあるはずだ。
ここで止まりたくないからこそ、十分じゃないと思っている訳だ。
だが、仲間に関しては違う。
俺の傍には仲間が居る。
傍じゃなくてもちゃんと居るんだ。
だからこそ、アウクの言葉は否定しなくてはならない。
「ほう?」
彼は俺の言葉にニヤリと悪人染みた笑みを浮かべた。
それは何処かトゥスさんを思い出させるとも思える……。
「そうだ、トゥスさんだって居るんだ、絶対に情報を聞きつけて来てくれる」
俺は小さな声で呟く。
こいつからトゥスさんを連想したのは恐らく不安からもあるのだろう。
だが、それももうすぐ終わりだ。
妙な感じだが情報さえ手に入れててくれれば彼女は来てくれると確信していた。
「…………」
俺はふと違和感を感じ顔を上げる。
するとアウクは俺を睨んでいた。
「なんだよ?」
「今……いや、何でもない、気のせいだろう」
ん? 何が気のせいなんだ?
俺は問おうとした所、景色は遠のいて行く……。
「お、おい!!」
こんな所で夢が終わりか? そう思い焦るも彼はいつもの調子に戻り……。
「せ……ぜい……あ…………てみせろ……我が…………」
その言葉は大体の意味は理解出来たが、聞こえなかった。
目を覚ますと辺りはまだ明るい。
寝息が聞こえたから横を見てみるとどうやらファリスも一緒に寝ていたみたいだ。
「起こしちゃ駄目だよ? ファリスちゃんも頑張ってたんだから」
「分ってる」
チェルに注意をされた俺は起こさないように慎重になりながらその場から離れる。
カインは俺達の為に見張りとして立ってくれていた。
「よく眠れたか?」
「ああ、おかげさまでな」
俺はそう言うと自分の手を見てゆっくりと握った。
足掻いて見せろか……上等だ、足掻くどころか絶対に成功させて見せるさ。




