282 クリエを助けに
クリエを助ける為に動き始めてから数日。
俺は……いや俺達は準備を進めていた。
作戦はこうだ……。
俺、カイン、チェル、ファリスの4人はクリエを助けに行く。
そして、レラ師匠と偽勇者ルイスとノルンの兵士達。
彼らは敵の内部に侵入し、内側から崩すのが目的だ。
だが、これには問題がある。
レラ師匠達が一番危険だ。
偽勇者ルイスが居るという事、そして……内部から襲えば当然敵に囲まれることになる。
だから――。
「手紙が届いていると良いんだが……」
俺が下した判断は単純だ。
クリード王に助けを求めるという事だった。
カイン達を寄越してくれた彼ならきっと手を貸してくれるはずだ。
クリエを助けるためにはどんな手でも使ってやる。
例えそれが汚い手段だとしてもだ。
だが、それでも戦力の低下は避けたい。
相手の方が多いに決まっているのに下手に戦力を消耗するのは愚策だ。
「王様なら大丈夫だって!」
カインはそう言って笑うが、信じるしかない。
なら俺がやる事はもう決まっている。
「それじゃ明日出発する……俺達は兵士ではないから、特別な作戦とかがある訳じゃないその分、準備への時間が短縮されているはずだ」
隊が組まれれば当然、兵への伝達事項などがある。
そうなればその時間が必要だ。
だが、これは俺の願いでもある……情報が来たのは当然俺達より早いであろう勇者討伐体の連中はもう準備を終えているかもしれない。
当然間に合わないかもしれない、だからこそノルン達にも参加してもらった、彼らの準備の時間が必要だからだ。
とは言え、事がそんなに簡単に進む訳が無い、俺が流してくれと頼んだ情報……あれの所為で集まってくる冒険者も居る。
だが……当然、この街に滞在する冒険者達には俺達の狙いも話している。
それに学校に通っていた冒険者達はもしかしたら助けに来てくれるかもしれない。
「上手く行ってくれよ……」
俺は呟きながら、装備の確認をする。
腕には真新しい手甲、脚には普通の靴とは少し違い、鉄が当てられている物を身に着けている。
レラ師匠からの贈り物だ。
体術の為の武器……だが、当然俺の魔拳には耐えられないだろう。
使う時は外さなきゃいけないな。
「大丈夫、私も居る……」
ファリスは俺の服の裾をひっぱり、そう言ってくれた。
「……そうだな、頼むぞ」
俺は彼女の頭を撫でそう口にする。
目を細め気持ちよさそうに撫でられているファリスは年相応の子供に見えた。
そうだ、上手く行ってくれなんて口にするべきではなかった。
それは俺自身不安に思っているという事を理解してしまう。
いや、俺が理解するのは良い、だが……同時に仲間を不安にさせてしまう言葉だ。
俺は息を大きく吸い仲間達に告げる。
「必ずクリエを助ける! 良いな?」
仲間達は頷き、俺は窓を見る。
きっとクリエは不安だろう……だが、もう少しだけ待ってくれ……。
絶対に助けに行くからな。
そう誓った夜はあっという間に過ぎ……。
翌朝、俺達はノルンから聞いた場所へと向かう。
もし、これが嘘でノルンの罠だった……という事もあり得るかもしれない。
だが、そうだとしても行かないという選択肢は俺達にはない。
クリエが苦しんでいるかもしれない、危機が迫っているかもしれない。
それが分かっているのに助けに行かないなんて出来る訳が無い。
「キューラ!!」
俺が考えごとをしているとカインに声をかけられた。
驚き顔を上げると其処には魔物が居る。
「消耗をする必要はない、避けて通るぞ!」
そうは告げると今度はチェルが俺の名前を呼ぶ。
「でも、あそこだと通り道だよ? 迂回をするにも……」
森がある。
困ったな、目の前に居るのはコボルトだ。
視界の悪い森の中にもいる可能性がある……なら……。
「カイン、頼むぞ! ファリスは警戒を――!」
二人にそう告げた俺はコボルトを睨む。
そう言えば、俺が初めて戦った魔物もコボルトだ。
そして、カインとチェルと出会った切っ掛けもコボルト……。
懐かしい気もするが、今はそんな事を考えている場合ではない。
「分かった任せて置け!」
カインは走り、コボルトへと向かっていく、ファリスは武器を構え森や物陰から魔物が飛び出して来ないか警戒をしてくれていた。
俺もまた、何かあった時の為に拳を握り、辺りを警戒する。
どんなに弱い魔物でも油断は大敵だ。
「おおおおおお!!」
カインの咆哮が聞こえ、コボルトの遠吠えも聞こえてきた。
だが、その遠吠えは途中で途切れ、コボルトはその場に倒れる。
「仲間を呼ばれた! 走れ!!」
俺はチェルとファリスへとそう伝えるとカインの元へと急ぐ……そして彼も俺達が近づくと前へ向かって走り出した。
近くに仲間がいたら厄介だが……どうやら逸れだったようだ。
後ろにコボルトが居ない事に安堵しつつ俺達は足を進めるのだった。




