281 情報は……
修業は続く……。
そして、仲間達の情報は未だ入ってこない。
本当に神大陸……この近辺に居るのだろうか?
そんな不安が俺の頭に過ぎる。
「キューラ、ノルンから少し話があるそうだ」
レラ師匠は今日の修業を付けてくれた後にそんな事を言って来た。
俺は首を傾げつつ彼女に問う。
「話って事は仲間の事か?」
もしかしたら見つかったって事だろうか?
以前もチェルを見つけてくれたのは彼らだ。
今回もそうかもしれない。
俺はすこし心が躍ったが……。
「いや、分からない……理由は伝えられてないんだ」
「理由が? レラ師匠に?」
彼女はノルンの信頼する騎士。
俺を呼ぶ理由が分からないというのには疑問が浮かんだ。
だが、分からないというのならそれ以上、詮索しても無駄だ。
俺はそう思いつつも……。
「私に言わないという事は君に直接言った方が良いという事だろう、別に同じ席で話を聞いて構わないとも言っていた」
「そ、そうなのか……分かったすぐに向かおう」
俺はそう言うと彼女と共にノルンの待つ部屋へと向かう。
そこには俺の仲間であるカイン、チェル。
先程まで寝ていたはずのファリスが居た。
「キューラお姉ちゃん」
この頃、安心しているのか分からないがファリスは良く寝ている。
何故か自分にあてがわれたベッドではなく俺のベッドに入り込んでいるのが謎だが……。
まぁ、魔王にあんな扱いをされたのだから甘えたいという所だろう。
クリエの様に襲ってくる事は無いし大丈夫だ。
「よく眠れたか?」
俺は彼女に問うと、ぽかんとした後に少し顔を赤らめこくんと首を縦に振った。
そんなに恥ずかしい事なのか?
まぁ、寝顔を見られるのは確かに恥ずかしいかもしれない。
どんな顔で寝ているかなんて分からないしな。
俺はファリスの頭を撫でた後、ノルンの方へと向く……俺だけではなく俺の仲間を集めたという事は何かの情報があったという事だろう。
「集まってくれたか」
彼はそう言うとゆっくりと口を動かし始めた。
「実は――まずい事になった」
そう切り出した彼は難しい顔で唸る。
まずい事と言うのはまさか――。
「クリエが捕まったのか?」
俺は彼に問うが彼はそれには首を振る。
「そうではない」
なら、一体……他の仲間に何かあったのだろうか?
「なら、なんだって言うんだ?」
俺が問うと彼は……。
「君達が助けようとしているクリエと言う勇者が……」
クリエが?
だが、クリエは捕まっていないと言っていたはずだ。
なのに、何がまずいんだ?
「君達が捕まえた方の勇者……彼の存在がどうやらすでに行き渡っていたらしい……そので彼女は勇者の地位を剥奪された」
「……はぁ」
それがどうしたというのだろうか?
「勇者のはずのクリエさんが勇者じゃなくなった? じゃぁもう、死ななくても……良いんですよね? それがまずいんですか?」
チェルは若干不機嫌になった様子でノルンに問う。
彼女が不機嫌になったのは恐らくクリエの事を思ってくれているからだろう。
「いや、地位の剥奪は良い事だ。今まで通り自由にできるという訳ではないが、私達貴族も安易に彼女の人権を侵害できなくなる」
ノルンはチェルの質問にそう答えてくれた。
答えに時間が掛からなかったってことは本当にそう思っているか、ただ単に答えを用意していたのどちらかだ。
出来ればノルンに関しては前者であってほしい。
「それで? 何がまずいんだ?」
今度はカインが質問を投げる。
するとノルンは意を決した様に……。
「ああ、元々勇者の資格を失っていた上に現在……魔物を連れている彼女は魔王の配下と呼ばれ、追い詰められている……らしい」
「……なんだって!?」
魔物……ライムとレムスの事だろう。
確かにあいつらは魔物だ。
だけど、人を安易に襲わない……だが、クリエを守る時に傷つけてしまったなんて事があるかもしれない。
その所為で? でも、そうだとしても襲ってきたのは奴らだろう。
クリエを傷つけようとして、返り討ちにあっただけだ。
だというのに……クリエは魔王の配下だって?
「ふざけてるな……」
「ああ、私もそう思う……命を懸けてきた人間にたいし、この仕打ちは……」
レラ師匠も苛立ちを覚えているみたいだ。
するとノルンは首を縦に振り……。
「キューラ殿、申し訳ないが……最早猶予はない、君がクリエと言う人を助けたいのなら急いだ方が良い、勿論私達は全力で支援する」
彼は目をそらさずにそう言ってくれた。
まだ、見つかって無い仲間が沢山いる。
だが、もう探している時間はない……討伐体を組まれてしまえばいくらスライムであるライムが居ても無理だ。
明確な弱点……氷の魔法を使われたら……。
そうなればクリエを守ってくれるのはレムスだけだ。
レムスも強い魔物ではあるが多勢に無勢では結果は見えている。
なら……助けに行くしかない。
だが、その前に一つ疑問がある。
「どうやってその情報を手に入れた?」
そう、情報の出所だ。
俺はそれが気になった。
「私は貴族だ、少し嘘をつけば簡単に手に入る……この情報は確かな物だ、すぐにでも討伐体が派遣される」
「そうか、そういう事か……」
なるほどな、ノルンと言うこの貴族はかなりのやり手って事か……なら、最後の賭けが出来る。
「すぐに情報を流してくれ! クリエが居る場所とそして、彼女を討ち取った者に謝礼をするという事を――」
「キューラちゃん!? 何言ってるの!! クリエさんは!!」
チェルが怒るのは当然だ。
だが、これにはチェルだけが怒る訳が無い。
「なるほど……つまり、それで君達を釣れば良い訳か……」
「そうだ、俺はきっとこの情報を耳にしたらクリエを助けに行く……」
俺がそう言うとチェルは怒った顔のまま首を傾げた。
「そうなれば、離れ離れになった仲間達も俺がそこに向かうのは分かるはずだ……トゥスさんも皆もきっと来てくれる……」
そう、離れ離れになった仲間を探す事は出来なかった。
だが……クリエの危機を知り放って置ける仲間ではないはずだ……! なら、丁度良い! この不利な状況を逆にチャンスとして利用させてもらう!! 敵は増える事間違いないが仲間がいればきっと……。
「だが、危険が伴うぞ! 腕の立つ冒険者も集まる」
「分ってるさ……」
レラ師匠の言葉に頷いた俺はノルンへと目を向ける。
「こっちが捕らえた勇者は?」
「今は大人しくている……だが、何時まで持つか」
俺は彼の言葉に頷く……約束はした、だけど時間が経てば彼の中で不満と疑心が貯まるだろう。
「伝えてくれ、勇者の最後の仕事として協力してほしいと……奇跡を失わせる手段を知ってる人を見つける手段は見つかった……ただしそれには腕の立つ奴が必要だってな」
使えるものは何だって使ってやる……クリエを絶対に……。
「そして、兵をまた貸してくれ……目的は偽勇者と共に討伐体への潜入と内部からの攻撃だ」
クリエを助けるんだ!!




