279 街へ向かって
翌日。
キューラたちはチェルを連れて孤児院を発つことにした。
しかし、子供たちは素直に話を聞いてはくれず……。
納得させるのに少し時間がかかったのだった。
チェルを連れて街へと戻る俺達。
盗賊はもう倒した事だし安心だ。
魔物に出会う事はあったが、別段恐ろしい物でもなく……。
「怪我をしたら後ろに下がれ! いくら弱い魔物でも油断はするな!」
かと言って兵達はノルンに借りた大事な戦力だ。
そうじゃなくても無駄に死なせる訳にはいかない。
俺は彼らの安全を考えつつ指示を出した。
「キューラちゃん……凄いね?」
するとチェルは感心したかのような声を出す。
一体どうしたというのだろうか?
俺は首を傾げると……。
「だって兵士さん達が皆キューラちゃんの言葉に従ってるよ?」
ああ、なんだそう言う事か……確かに今思ってみれば驚くのも無理はない。
俺は勇者の従者とは言えただの冒険者……だったはずだ。
しかし、今は兵を動かしている。
従者としても冒険者としても異例の事だろう。
「私達はノルン様よりキューラ様一行の指示に従えと言われていますので」
兵の一人はそう口にし……俺の方へと目を向けた来た。
「まだお若いのに、しっかりとしていらっしゃいますし、流石はノルン様の認めた勇者様ですね」
「いや、だからな……」
俺は勇者じゃないってのに……。
そう思いつつ溜息をつくとチェルは訝し気な表情を浮かべている。
「勇者……様?」
「そうなんだよ! キューラが勇者だってさ! あははははははは」
チェルが不思議がるのは最もだが、カインは一体なにを笑っているんだ。
というか、失礼じゃないか?
「はははははは!」
「――っ!!」
すると当然のようにファリスがカインを蹴り始めた。
「いってぇ!? 痛いって!!」
「キューラちゃんを馬鹿にするからでしょ? ファリスちゃんはお姉ちゃんに懐いてるんだし、馬鹿にされたら怒るよ!」
チェルはチェルで呆れている。
まぁ、うん……俺は気にしないが。
「その勇者と呼ぶのは止めてくれ……もっとふさわしい奴が居るんだ」
クリエ、彼女こそが勇者だ。
人を守ろうと必死ででも死ぬのは怖い普通の人でもある。
だが、彼女は勇気を与えてくれる。
それだけじゃない、彼女自身勇気がある女性だ。
だからこそ……俺が勇者と呼ばれるのは遠慮したい。
「いえ、そうはいきません……貴方は私達の街を救った英雄です。それも勇者と偽り、人を傷つけている悪漢を倒したのですから」
「そうは言ってもなぁ……」
俺はアイツが許せなかっただけだが、アイツの言い分も分かる。
いきなり勇者だと言われ、わがままをある程度許す代わりに世界の為に死ね……そう言われているのだから。
荒れたくなるのも当然だ。
だが、同時にノルン側の言い分も分からない訳ではない。
そもそもあれは俺が心配していた事でもある。
何時か世界を滅ぼそうと考える勇者が出る……。
それだけ危うい存在だってのに誰も気が付いていなかった事が問題だ。
それに勇者に任せて自分達は安全な所からなんて考えている王貴族がそもそもおかしい。
住民さえ勇者がどんな末路を迎えるかなんて知らなかったんだからな。
「やっぱり、俺は勇者じゃないよ」
ノルンは貴族としては良い奴だとは思う。
勇者を勇者と呼ばず、俺を勇者と呼んだのは良く分からないが……とにかく、アイツはまだ信用出来るだろう。
だが、まだ知り合って数日。
こちらに手を貸してくれて入るがその腹の中は分からない。
そう疑う自分も居る訳で……。
その上、クリエに危害が加えられた時は俺はきっと平気で裏切るだろう。
「そんな事はありません!」
いや、そう言われてもな。
俺は苦笑いをしつつ……そんな日が来なければいいと考えた。
だが、現実はそんなに甘くはないだろう。
そう思いつつ俺は――。
「とにかく先に進もう、日が暮れてしまったら面倒だ」
俺がそう言うと兵達は歩き始める。
するとチェルは感心したかのような声を上げるが……。
そんなに珍しい事と言うか感心するような事なのだろうか?
「キューラちゃん」
「どうした?」
俺は歩きながらチェルに返事を返す。
すると彼女は――。
「信頼されてるね、それに勇者様ってどういう事?」
「さっき言ってた様に勝手に呼ばれてるだけだ……それに彼らが信用してるのはノルンで俺じゃない」
俺はそう言うとチェルは首を傾げ。
それが何故かクリエに重なって見えた。
クリエは無事だろうか?
いや、だろうか? じゃない……ライム達がついているんだ。
無事に決まってる。
だから……俺は俺達は早く仲間を見つけ出して、彼女を助けなきゃいけない。
「そんな事いいから街に着いたら休憩しよう、チェルも疲れてるだろ」
俺が何度目かになる事を考えているとカインはそう口にした。
当然、ファリスにちょっかいを出されているが、特に気にしていない様だ。
「当然だ、街に着いたら休む良いな?」
俺は彼に確認する為に声をかけるとカインは笑みを浮かべ頷いた。




