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278 旅立ちと別れ

 チェルを連れて行くためには孤児院を任せられる人間が必要だ。

 ファリスを向かわせてからしばらくたった後、彼女が連れてきたのは意外な人物だった。

 そう、あの偽勇者が連れていた従者たちだ。

 彼女たちに任せることにしたキューラはチェルを連れて行こうとするのだが……。

 子供たちには止められてしまうのだった。

 その日は孤児院に泊まる事になり、翌日。

 俺達はチェルを連れて街へと戻る事にした。

 だが、子供達が納得した訳ではない……かといってこっそり出る事はチェルには出来ないだろう。


「いかないで!!」


 子供達が声をそろえて叫ぶ。

 当然、チェルは心を揺さぶられたのだろう。

 迷うそぶりを見せたが、すぐに首を振り……。


「戻ってくるから、ね?」


 と口にした。


「嫌だ!!」


 だが、子供は感情のままに叫んだ。

 仕方がない……そう思うからこそ俺は余計な事はこれ以上言えない。

 そう思っていると……。


「この人達は私の大切な仲間なの……でも無茶をするから、きっと怪我をする」


 おいおい……だが、まぁ……否定できない。


「もしかしたら、死んじゃうかもしれないのに……もう話せなくなっちゃうかもしれないのに、だから……傷を治せる人が居ないとね?」

「お姉ちゃんじゃなくても良い!!」


 それはそう思って当然だろう。

 子供達の主張はその通りだ。

 だが、傷を治すだけなら……という場合だ。

 当然チェルは困った様な顔をする。

 しかも、彼女は子供達に囲まれており身動きが出来なくなってしまった。

 参ったな……そう思っていると奥からよたよたと老人が歩いて来た。

 レイチェルさんだ! 俺は驚いていると彼女は……。


「わがままを言ったら駄目だよ、チェルちゃんは戻ってくるって言ってるんだから」


 そう子供達に優しく声をかける。

 彼女は此方へと目を向けた。


「それにそのお方は勇者様の従者……チェルちゃんは勇者様を助けなきゃいけないんだよ?」


 そう言うと子供達の中には泣きながら頷く子が出てきた。


「ゆうしゃさまをたすける?」


 首を傾げて俺の方へと目を向けた少年。

 彼は――。


「ゆうしゃさまがあぶないの? こわいことおきるの?」


 不安そうにこちらへと質問を投げかけてきた。

 魔王の事はある、恐らく遠くない未来、この孤児院にもその魔王の話は告げられてしまうだろう。

 だが……。


「大丈夫だ、俺達が勇者様を助ける、その為にはチェルの力が必要なんだ」


 と口にし、少年に近づき頭を撫でてやる。


「あっ! むぅ~~」


 若干後ろからファリスが不機嫌になったような声が聞こえたが、この場は仕方ないよな?

 子供達はチェルに戻ってくる気があると知ると涙ながらもそれ以上わがままを言う事は無かった。

 良い子達だな。

 俺だったらきっと……。


「おねえちゃんもきてくれる?」


 先程頭を撫でてやった少年は俺の方へと目を向けてきた。


「ああ、遊びに来るよ絶対」


 俺がそう言うと彼は嬉しそうな顔をした。

 そう思っていたら俺の腕へと誰かが縋り付いたのに気が付いた。

 誰だ? と思ったが、それはすぐに分かった。


「ファリス?」

「キューラお姉ちゃん……」


 不安そうな彼女を見て俺は気が付いた。

 この子は魔王に見捨てられた。

 だから俺に捨てられることが怖いんだ。


「大丈夫だ、ファリスはずっと一緒だ」


 俺はこの子を見捨てるつもりはない。

 もう魔王の配下だったこの子はいない……ここに居るのは俺の仲間であり妹とも言える少女だ。

 どうやって見捨てることが出来るだろうか?


「安心しろ」


 俺がそう言うと彼女は不安そうだった顔を少しやわらかい物へと変えた。


「うん」


 安心したのか腕にしがみ付く力が少し緩んだ。

 そんな俺達を見てチェルは……。


「仲が良いんだね? でもお姉ちゃんってどういう事? その子は純血だよね?」


 と聞いて来た。

 まぁ、目を見れば分かる事だ。

 俺は頷き……。


「ああ、親戚なんだ」


 という事にした。

 それなら別におかしいわけではない。

 俺にはちゃんと魔族の血が流れているしな。


「おい、そろそろ行こう!」


 そんな会話をしているとカインは痺れを切らしたのだろう。

 というか別れだというのに空気が読めないな。

 俺は溜息をつくと案の定チェルが腰に手を当て前かがみになり。


「カイン君! 私がお世話になった子達だよ!!」

「いや、そうだけどさ! こういうのは時間をかけたらそれだけ……辛くなるだろ!」


 ああ、なるほど……確かに彼の言う通りだ。

 チェルは此処に住み数日は経ってるだろう。

 それなのに彼女がここで旅立つのを躊躇っていたら別れるのが辛くなるのは当然だ。

 チェルも納得したんだろう、頷き……。


「そう、だね……そうだよね」


 悲しそうに呟く……。

 そして、子供達の方へと目を向けた彼女は……。


「それじゃ皆、行って来るね?」


 と口にした。


「行ってらっしゃい」


 子供達は涙声でチェルを見つめ見送ってくれた。

 俺達は彼らの決意を無駄にする訳にはいかないと孤児院を後にした。

 

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