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27 魔法

 勉強の前に部屋の片づけをする事にしたキューラ。

 それもひと段落付き早速先生から受け取った本へと目を通す。

 そこには習ったものから今だ知らぬ魔法まで書かれており……?

 一通り部屋を片付けた俺は椅子へと腰を下ろし、本を開く。


「さて、と……まずは復習からか……」


 魔法の勉強というのは簡単に言えば魔法の名と詠唱、効果、そして魔力の練り方を覚える事だ。

 詠唱は精霊に干渉する為に、魔法の名は超常現象を起こす鍵であり、効果はどんなことが起き、どのような危険があるかを調べる為にある。

 そして、魔法を使うのに重要である魔力。

 これはゲームで言うマジックポイントとは違う……

 マジックポイントはそれを消費して魔法を使う訳で、使えば使うほど減って行く。

 しかし、この世界の魔力は減ることは無い。

 鍛えれば鍛える程、強力な魔法が使えるが、使わなければどんどん衰えていく――そう、例えるなら筋肉だ。

 だから使おうと思えばいくらでも使える……と思っていたんだが……

 幼い頃にそれは無理だと理解した。

 その理由は――


「魔力痛……にならない様に徐々に鍛えていくしかないか……」


 そう筋肉痛とは違う魔力痛という物がこの世界にはあり、使い過ぎると次の日に魔法が使えないなんて事になる可能性もある。

 それ以前に酷使すれば当然疲労するし、自分の実力以上の魔法を使えば身体中が痛くなるんだよな。


「俺が今使える魔法は属性に準ずるものを召喚する初級……そして、より強力な攻撃魔法である中級」


 普通の魔法使いならば、ここまで使えれば十分だ。

 しかし、俺はそうはいかない……魔王を倒すためにはその上……上級魔法が必要だ。


「とは言っても……」


 本をパラパラとめくりそのページへと辿り着いた俺は魔法の効果を読んでみる。


「スレイヴ・チェイン……闇の上級魔法、か……」


 闇の縄を召喚し相手を捕縛、そのまま締め付ける魔法……拷問や処刑などに古くから使われていた魔法であり、魔族の中には好んで使う物も多い……か……

 他にも色々あるが……


「どれも、魔王に通じるとは思えないよな……」


 何せ相手は呪いを使う。

 数多の魔法の中でも呪いだけは特別だ……闇魔法に属するのに上級ではない、これは使う物によって全く違う魔法になると言うものだ。

 つまり、初級を覚えたばっかりの新米古代魔法使いでも使えるという物であり、その呪いは術者本人が決められると言う特質を持つ。

 それを、魔王は人を消すと言う呪いとして作った訳で――


「いくら俺の方が魔力が優れてるとしても……単純な力じゃ駄目だ……」


 もっと別の……いや、今考えるのは焦り過ぎか?

 何せ俺はベントから旅立ってたったの一日だ……


「とはいえ……」


 魔王と戦う前に何かしらの手段が必要だ。

 仲間は勿論、俺自身も強くならないと……それにはまず――


「今覚えられる魔法を覚えよう……これから何かヒントが得られるかもしれない」


 そう思い俺はページを戻し、勉強をし直す事にした。










 それからどのぐらい時間が経ったのだろうか?


「……ぅ……んぅ……」


 最初は順調だった勉強についてだが……率直に言おう……集中できなくなった。

 その理由は……まぁ、クリエだ。


「…………」


 だってな? 例え百合で「うへへ」と笑うクリエも女の子で更には美人だ。

 そんな子が寝ていて何故か時々色っぽい声を出すのだから、そりゃ集中力も切れる……俺は健全な男の子なんだからな。

 合計年齢30歳だけど! いや、そこは良いか……

 それでも何とか勉強をしようと机にかじりついてたのは良いんだが、その……


「腹……減ったな」


 クリエのあの声でさえ我慢するのが辛いのに腹まで減ったらもう集中出来ないよな。

 とはいえ……


「飯を取りに行ってその間にクリエが起きたら、また不安がるよな?」


 全く……手のかかる勇者様だ……ま、まぁ……そろそろ昼飯には良い時間だろう……

 そう思い、クリエを起こす事にした俺は椅子から立ち上がり彼女へと近づく――


「……美人、なんだけどなぁ……」


 何でこんな美人が百合なのか疑問だ……っと今は飯の為にも起こさないと……


「………ク、クリエ?」


 な、なんか妙に緊張して声が裏返ってしまった。

 だが、彼女は起きる気配はなく……


「……ゆ、揺するぞ……?」


 何か変な事をするという訳ではないのに心臓は馬鹿みたいに音を出し全身へと血液を送る。

 顔が真っ赤になる様な感覚を覚えつつ彼女の肩へと触れると――


「……」


 その感想はたった一つ、思ったより柔らかいというもので……俺は慌てて頭を振ると彼女を揺する。


「ん……ぅ……?」

「ク、クリエ……そろそろ昼飯だ」


 流石にそれには気が付いたのか、クリエはゆっくりと瞼を持ち上げ寝ぼけ眼で俺を捕らえると……


「キューラちゃん……? 顔、赤いですよ?」

「そ、それは良いから! 飯だ飯!!」

「ん~?」


 彼女はまだ眠いのか瞳を擦りながら身体を起こし、隠すように欠伸をすると――


「ご飯ですか?」


 まだ眠そうな声でそう呟いた。


「ああ、昼飯にしよう」

「分かりました。では、一緒に取りに行きましょうか?」


 そう言うクリエに俺は首を縦に振る。


「ああ、でも確か下に食堂で食べれるだろ? そこで取るのも悪くないんじゃないか?」

「そうですね、ではそうしましょうか?」


 彼女は笑顔でそう言うとベッドから降り、身支度を軽く整えると――


「さ、キューラちゃん行きましょう?」


 うん、やっぱり普通にしてる時のクリエはただの美人だ。

 勇者という運命さえなかったら普通に暮らしていけたはずなのにな……

 そう思うと勇者も魔王も魔法も無かった地球はある意味正しい世界なのかもしれない。

 あっちにも当然、理不尽は溢れている……でも、そんなのは何処でも同じだ。

 なのに、勇者に課せられた運命は理不尽という一言で済ませられない……なんだってあんな奇跡なんてあるんだ?


「キューラちゃん?」

「あ、いや……なんでもない、待たせて悪い」


 俺はそう言うとクリエと共に食堂へと向かった。

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