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277 待ち人は……

 キューラは孤児院の子供たちと料理を作ることになった。

 しかし、料理が得意とは言えない彼女はかえって邪魔となり……。

 ついにはお皿を並べるだけになったのだった。

 食事を終え、暫くたった頃。

 ファリスが帰って来た。

 いや、帰って来たという言葉は少しおかしいかもしれないが……。

 まぁ、戻って来てくれた。

 彼女にしては時間が掛かったと思ったが、やはり人を連れて来てくれたみたいだ。

 彼女の横に居るのは法衣に身を包んだ女性。

 戦士のような女性に……多分エルフだろう。

 ……ん?

 そういえば、彼女達をどこかで見た様な気がする。


「――あ!」


 思い出した、あの僧侶の女性の名はプティカだ。

 そして、エルフの子はフィオ……と呼ばれていた気がする。

 最後の剣士は分からないが……確かあの偽勇者と一緒に居た人達だ。

 彼女達は俺に気が付くと申し訳なさそうな顔を浮かべていた。

 だが、そんな事はどうでもいい。


「ファリス、お帰り……人を連れて来てくれたんだな」


 こちらへと駆け寄ってきた少女を受け止めると頭を撫でてやる。

 すると気持ちよさそうに目を細めた少女は「えへへ」と笑った。

 普通妹が居たら面倒だ。

 なんて言っていた奴が居たが、こう可愛らしい妹なら良いとは思う。

 なんて思える程だ……。


 でも、ファリスもファリスで不安な部分はあるんだよな。

 そんな事も考えつつ俺は来てくれた3人へと目を向けた。


「まだあの街に居たんだな……」


 俺はその事にも驚いていたが、ノルンが寄越したのが彼女達だという事に驚いていた。

 するとプティカが一歩前へと近づいて来た。


「た、助けてくれたから……その、お礼がしたいって……思って……そうノルン様に伝えていたら……話が」


 彼女は頭を下げながらそんな事を口にする。

 なるほど……随分とひどい目に遭って来たはずだ。

 辛いだろうに心の傷を癒す時間が必要だろうに……俺達へのお礼か……。


「ありがとう、助かるよ」


 俺は礼を告げ、チェルの方へと向き直る。


「彼女達がこの孤児院に居てくれるみたいだ、名前はえっとプティカにフィオ……あとは」


 もう一人の名前はなんだ?

 俺は彼女の方へと目を向けると……。


「ハロスだ……」


 彼女はそう名乗り、チェルは笑みを浮かべて頭を下げる。


「助かります、レイチェルさんはご高齢で……とにかく、ありがとうございます!」


 と丁寧に礼を口にした。

 すると、プティカ達は慌てて首を振る。


「い、いえ……私達の方こそ彼女にはお世話になりましたから……」


 彼女とは俺の事で間違いないだろう。

 そもそも俺の方向いて言ってるし、まぁ……とはいえ、折角自由になれたんだから……とも思う。


「その、でも良いのか?」


 俺は一応確認をしてみる。

 すると彼女達は頷いた。


「はい、元々私は子供が好きですし」


 とプティカが言うとハロスは……。


「街の中にあるならともかく外なら護衛が必要だ」


 と言ってくれた。

 もう一人フィオという少女は……。


「行く場所……ない、プティカ達と一緒が良い」


 と口にした。


「心配はしないでください管理する代わりに衣食住は提供してくれると約束してくださいました」


 とプティカはそう口にし一枚の手紙を取り出した。

 なるほど……それなら、街を下手に町を出るより孤児院(ここ)の管理をした方が安心できる暮らしが出来るな。

 単に俺達への恩返しというのなら、少し不安が残るが彼女達にも旨味があるならその方が良い。

 何故なら、その方が急に投げ出したりはしないからだ。


「じゃぁ、頼むよ」


 俺が頭を下げると仲間達は一緒に頭を下げてくれた。

 そして、チェルは――。


「それでは今管理されてるレイチェルさんの所に行きましょう、きっと喜んでくれますよ」


 と口にし彼女達を案内した。


 チェル達が去った後、俺はほっと息をつく。

 これで、チェルは俺達の元へと戻ってくれた。

 一安心できるな……そう思っていたのだが、一部始終を聞いていた子供達が集まって来た。


「チェルお姉ちゃんをどこに連れて行くの!!」

「おねえちゃんをつれてったらだめ!」


 きっとチェルが居た時間はそんなに長くはないだろう。

 だが、子供達に時間の長さは関係ない。

 親しくなった人が去って行く……ただ、それだけが悲しく、怖いのだろう。


「ごめんな」


 分かってくれとは言えない。

 だが、それでも俺達にはチェルが必要だ。


「今、苦しんでる人が居る……その子を助けられるのは俺達だけなんだ……だから、チェルの力も必要なんだ」


 だからこそ、言い訳もそれ以外の言葉も口に出来なかった。

 凄腕の神聖魔法使いならきっとチェル以外にもいるだろう。

 だけど、それじゃ意味が無いんだ。

 チェルじゃなきゃ……クリエの苦しみを理解することは難しいだろう。

 だから、彼女じゃなきゃダメだ。

 だけど、この子達だってそれは同じだろう……。

 そんな事は分かっていた。


「ぼくたちのおねえちゃんだよ!」


 何を言っても、きっと納得できないだろう。

 いや、もう納得してくれているのかもしれない、だけどそんな事は感情とは無関係だ。


「分ってる、だからその子を助けたらきっとチェルをここに連れてくるよ」


 俺は子供達にそう告げるのだった。

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