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276 キューラクッキング再び

 キューラたちは孤児院の管理者に出会う。

 彼女は床に臥せた老婆だった。

 名をレイチェル……仲間のチェルと名が似た彼女を見て、キューラはやはり孤児院には新たな管理者が必要だと考えるのだった。

 幾らファリスと言ってもすぐに戻って来る事は出来ない。

 残す兵士たちは此処にいる人で良くとも事情を説明する時間も必要だ。

 だからこそ、俺達は今できる事をしようと考えた。

 まずは――。


「それで料理は子供達と一緒にするから」

「お、おう……」


 カインは外で薪割り、俺は家事炊事と言う訳だ。

 どっちかというと薪割りの方が良かったな。

 以前一回だけ料理を作った事があったが、あれはまずくも美味しくも無い物だった。

 あんな料理を子供に出してはいけない。

 そう思いつつも周りを見てみると……。


「調味料が無いな」

「仕方ないよ……それに調味料なんてそうそう手に入らないよ?」


 彼女はそう言いながら葉っぱを取り出している。

 恐らくも何も無い、ハーブだ。

 臭み消し、味付けとこの世界で最も使われている調味料ではあるが、先程俺が無いと言ったのは塩や胡椒の事。

 彼女は俺が口にした調味料が無いという意味が分かっているのだろう。


「それで、これでっと……」


 取り出したハーブを見て俺は唖然とする。


「こんなに入れるのか!?」


 乾燥されている葉っぱは量がとにかく多い。

 両掌ぐらいはあるだろうか?

 これを全部入れたら口の中が変になること間違いない。


「ま、まさか……キューラちゃん、大丈夫? これ全部入れたら食べ物無駄になっちゃうよ!?」

「あ、ああ……そう、そうだよな」


 良かったというか、大丈夫って心配されてしまったが、あんまり大丈夫じゃない。

 料理は苦手なんだ……クリエが居てくれればこの材料でも美味しい物を作ってくれるはずだ。

 だが、今は居ない。

 そう思うと彼女の笑顔は勿論。

 あの料理が恋しくなってくる……。

 そういや、いつも野営をする時はクリエが作ってくれてたんだもんな。

 あれだけおいしい料理を食べ続けてたんだそりゃ恋しくもなるか。


「それで、これはこっちに砕いて入れて……こっちは戻して……」


 そして今俺は料理を作る側になってしまっている。

 だが、先程の発言からチェルは不安になったのだろう……ハーブを入れる物、入れ方を細かく教えてくれた。

 それだけじゃない。


「キューラちゃん!? 包丁の持ち方が危ないよ!?」


 等と怒られながら俺は料理を進める事になった。

 うん、危ないと言われても……。


「良い? 魔物と戦うんじゃないんだからそんな振り回さなくても」

「ふ、振り回してはいないって!?」


 というか子供達と一緒に作るというのは何処に行ったんだ?

 そう思っていると一人の少女が俺に近づいて来た。


「おねーちゃんあぶない」

「へ?」


 突然声をかけられ、包丁を奪われると慣れた手つきで少女は材料を切っていく……。

 うん、俺……料理しなくても良いんじゃないか?

 それにしても子供とは思えないほどの包丁さばきだ。

 彼女は料理人になれるんじゃないだろうか? そんな事を思い浮かべながら眺めていると……。


「キューラちゃん?」

「は、はい!?」


 若干声のトーンが下がったチェルに呼ばれ俺は思わず身構える。

 怒られるような事をしただろうか?


「そこ通り道だからね?」

「あ、はい……」


 狭い炊事場で俺は邪魔になっていた様だ。


「俺カインの事手伝って来る……」


 そう提案を申し出たのだが……チェルは首を振る。

 どうしてだろうか? 俺がここに居ても何の意味も無い気がするが……。

 なんて思っているとその理由は明らかになった。


「カイン君ならきっともうすぐ終わるよ、それにキューラちゃんは食器を並べて欲しいの」

「わ、分かった」


 食器を並べるか……どうやら俺は料理に関しては戦力にならないと思われてしまったらしい。

 ま、まぁ……その通りなんだが……。

 ああ、自分で思っていて情けない。

 そんな事を考えつつ俺は棚から食器を出していく……。


「あ、後は中くらいのもお願いね?」


 勿論、チェルの指示に従いながらだ。



 うん……家事って大変なんだな。







 何とか食事の支度を終えた俺達は子供達と共に食事をする。

 だが、その場にチェルはいない。

 彼女はレイチェルさんの所に行って食事をしてもらっているみたいだ。

 やはり、ファリスに行ってもらったのは良かったかもしれない。

 今のままじゃチェルがここを離れるのは無理だ。

 寧ろ今までどうやってこの孤児院は――。


「あーもう、そんなにこぼして! ほらこれでふいて!」


 そう怒っているのは先程の少女だ。

 なるほど、あの子のお蔭……なのかもしれないな。

 そう思いつつ俺はスープへと口を付ける。

 やけに味の薄いスープは……何故かその温度よりも暖かく感じた。

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