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275 孤児院の管理者

 チェルの不安とは孤児院の管理者が高齢で後継ぎがいない事だった。

 だが、それぐらいならばノルンが何とかしてくれるだろう。

 キューラはそう考え、急ぎ伝えるためにファリスへと伝令を頼むのだった。

 ファリスを街へと向かわせた俺達は孤児院を管理する老人へと話をしに向かっていた。

 勿論チェルの事だ。

 何も言わずにつれて行く事は出来るが、それじゃ失礼に値する。

 なら、ちゃんと言わないといけないからな。


「それで、この子達がチェルちゃんのお友達なんだね」


 管理する老人は本当に高齢だった。

 いや、嘘だと思っていた訳じゃない。

 ただ、高齢と言ってもてきぱきと動くイメージがあったんだ。

 だが、そこに居たのはベッドへと横たわる女性が一人。

 彼女はロクに食事を取っていないのではないだろうか? 痩せ細っていた。


「ええ……その、そうです」


 チェルは彼女を気遣う様に寄り添うとそう口にした。


「何か言ったかい? すまいね、ちょっと聞こえ辛いんだ」


 大きな声ではないがかなり近くで告げられた言葉に女性は首を傾げる。

 確か聞いた事がある、年齢を重ねると人は髙い声が聞こえ辛くなる。

 つまり女性の声も聞こえ辛くなるという事だ。


「カイン、チェルが話している事を伝えてくれないか?」


 俺はカインへとそう頼んだ。


「なんでだ?」

「カインの声は低い訳じゃないが男だからな、チェルよりも低い彼女に聞こえやすいはずだ」


 俺の声も聞こえるだろうが、カインよりは高い。

 というか、元々女性声だったと言った方が良い、つまり聞こえ辛いかもしれない。

 なら、この場で通訳として適しているのはカインだ。

 決して聞こえない訳ではないだろうが、それでも会話がしやすい方があの人も気が楽になるはずだ。

 カインを前へと向かわせた。

 目は悪くなっていないのだろう、老人は彼へと視線を動かす。


「チェルちゃんの言っていた騎士君だね」

「き、騎士?」


 驚いた様子のカインだったが彼の言葉はやっぱり聞こえていたみたいだ。

 頷く老人は嬉しそうに話す。


「チェルちゃんは言っていたよ、キミは何時でも守ってくれるってね」

「ちょ、ちょっとレイチェルさん!?」


 レイチェル……あのお婆さんの名前か。

 なるほど、なんというか……。


「名前似てるな」

「そ、そうなの、だから……妙に親近感と言うか」


 なるほどな。

 そう言った理由もあってここから離れ辛かったと……。

 何にせよ、俺達にチェルが必要なのは変わらないが、こんな偶然もあるのか。

 そう思っていると彼女は――。


「それにそっちの小さい女の子は勇者さんの……」

「え? あ、はい!」


 俺は頭を下げた後頷く……すると俺の意志は伝わったのだろう彼女は柔らかい笑みを浮かべた。

 このお婆さんは人が良い、そんな風に思える笑顔だ。

 確かにこのお婆さんを見捨てる訳にはいかないだろう……。


「今、街に此処の支援をしてもらえるように頼んでいます」


 出来るだけ聞きやすいような声を発してあげると彼女は頷く。

 良かった、聞こえたみたいだ。


「ありがとう」


 彼女はそう言い、どうやらほっとしてくれたみたいだ。


「良かった、私が居なくなってしまったら子供達はどうするのか、気になっていたんだよ……チェルちゃんには大事な仲間がいるみたいだしね」


 レイチェルさんはそう言うと寂しそうな表情を浮かべる。

 そうか、彼女はチェルに継いでもらった方が良いと考えてたんだろうな。

 事実チェルは優しいし、万が一何かあったとしても強力な回復魔法が使える。

 頼りになる女性、だからこそ俺達も彼女の力が必要なんだしな。

 だが、そうは言っても今回みたいに盗賊に襲われたらひとたまりもない。

 何故なら彼女は戦えない訳ではないが、それでもやはり、少女には変わりない。

 やはり支援は必要だ。


「レイチェルさん……その、子供達が悲しみます」


 チェルは居なくなったことを言っているレイチェルさんにそう注意をする。

 事実、子供達が聞いてしまったら悲しむだろう。

 先ほど見た中にはまだ幼い子供もいた。

 突然居なくなってしまったら、この人が亡くなってしまったら……。

 そんな時の事を考えられるわけがない。

 いや、考えたくもないと思っているはずだ。

 ただでさえ両親が居ないのに、親同然の人が居なくなるなんて……な。


「支援を受けられたら、貴方はしっかりと療養をしてください」

「そうだな、婆ちゃんが元気にならないと子供達も心配するぞ!」


 カインも俺の言葉に同意してくれた。

 この人を元気にしてあげないとな。


「本当に優しい子達だね」


 彼女はそう言うと微笑み……。


「少し話し過ぎたみたいだね、疲れてしまったよ……」

「そうですね、休んでください」


 チェルの言葉を聞き、レイチェルさんは静かに寝息を立て始めた。

 だが、チェルは不安そうだ。

 何故不安そうなのか……それはなんとなくだが、想像できた。

 疲れて眠ってしまったレイチェルさん。

 その内そうやって、亡くなってしまうのではないだろうか?

 俺もそんな不安が自然と思い浮かんだ。

 これじゃ……子供達を放って旅に出るなんて言える訳が無い。

 この孤児院に居る子達には支援が必要だ。

 護ってくれる人が……。

 それもこのいま眠っているご老人の様な……優しい人が……必要なんだ。

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